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月夜のライアー

 二つの意味であぶない。

 一つは、わたしと彼の身の危険。

 もう一つは――


(もしかして、嫌われていない?)


 金月きんげつくんは、ものすごい迫力で男たちをにらんでいる。

 ここまで必死に……「さわるな」と叫ぶほど、わたしをかばってくれるなんて。

 まずいよ。

 もし彼に好かれてたら、なんのためのストーキングだったのか、わけがわからなくなる。

 待って待って……好き嫌い抜きで〈女〉だから助けたっていう騎士道精神の持ち主なのかも。

 うん。それが一番いい。

 どうしても彼に〈フってもらいたい〉わたしとしては、ここは騎士ナイトであってほしい。

 そんな願いをこめて彼を見る。ぴったり目が合った。


「おい、ブス!」

「は、はい……」

「なにしてんだよ、さっさといけっ!」


 そう言われてもね。

 たった一年とはいえ、わたしのほうがお姉さんなわけだし。

 からんできた人たちは、みんな顔をきょろきょろさせていて、わたしたち二人のどっちをターゲットにするか決めかねている感じ。

 このスキに、スマホで警察を――と思っていたら、


「どうかしましたかー?」


 前から自転車に乗ったおまわりさんが。

 た、助かったぁ。

 たぶん、同じ学校の誰かが110番してくれたんだ。


「ちっ! 逃げるぞ!」ボディーブローを打った男子が、となりの子の肩をつかむ。

「……へっ? あ、ああ」半開きの口でわたしの顔を眺めていた男子が、我にかえったように返事した。


 こういうことになれているのか、五人のヤンキー男子はべつべつの方向へ散った。おまわりさんも、さすがに一人ではこんなの追跡できない。ふう、と大きなため息をついて、こっちに駆け寄ってくる。


「だいじょうぶですかー?」


 わたしより殴られた彼を、とそっちを見ると、


(おみごと)


 金月くんはすでにそこにいなかった。


 ◆


 これはストーキングではない。

 でも、本人にないしょで遠くから観察するっていうのは、なんだか罪悪感がチクチクする。 


「まちがいありませんぞ」


 体育館の中を、窓のスキマからミユキとのぞいていた。

 窓は低い位置にあるので、〈ターゲット〉に接近されると足元しか見えなくなる。


「ほほう、これはまた、おいしそうな太ももで」


 確かに、筋肉でひきしまっていながらも、ほどよくお肉のついた……って、ダメ! これじゃ、ただの「のぞき」じゃない。

 ストーカーとかノゾキとか……どんどんいけない方向へ行っている気がする。

 窓には縦に格子こうしが入っていて、わたしもミユキもしゃがんだ姿勢でそれをつかんでいた。

 ぱさっ、と乾いた音。

 つづけて、どんどん、と落ちてきたボールがバウンドする音。


「ナイスゴールですね~」にかっ、とミユキがわたしに笑いかける。「さすがはエース。彼女は、じょバスのキャプテンにしてエースなのです」

「二年で?」

「ええ、二年で」


 ということは、やっぱり金月くんと同学年なのか。

 びゅう、と風がふいて、ゆるふわのミユキの髪からリンゴのいい香りがした。


「ところで白鳥サン、今日は〈追っかけ〉しなくていいんですか?」


 うん、とわたしはうなずいた。


「まーそーですねー、それが無難ぶなんかもですね。でも――これが〈押してもダメなら引いてみな〉的な恋の駆け引きだと思われてしまうと、相手の好感度が上昇しかねません」

「だから彼女が必要なの」


 わたしはミユキの両肩をつかんだ。


「金月くんが気になってるあの子から、彼にアプローチしてもらえれば、より告白が失敗しやすくなるでしょ?」

「ま、まあ……」


 不思議と、彼女と心がシンクロした。

 そんなにうまくいくかなぁ……と。

 わたしも、このプランは正直あんまり自信がない。

 でもやるしかない。

 積極的に手を打っていかないと。


「ではまた明日ですー」

「バイバイ」


 ミユキとわかれて、そこからわたしも部活に行った。

 始業式から一日も出席していなかったが、三年生なので注意されることもない。もともと休みがちでもあったし。あと、うちの中学のソフトテニス部はけっこうゆるい部っていうこともある。 

 そして帰宅のタイミングを合わせ――


「ちょっといい?」


 わたしは正門前で彼女を呼び止めた。

 すでにあたりは暗く、空には満月が出ている。


「誰?」目を細める感じでこっちを見てくる。視力がよくないのか、それともただのクセなのか。「え、ほんとに誰? 知らないんだけど」

 街灯の下まで移動した。

 地面が白く丸く、スポットライトのように照らされている。


「なんの……用?」


 警戒心バリバリでこちらをうかがう彼女。

 制服に着替えているが、スカートのすそからブルーのハーフパンツがチラ見えしている。


「サンちゃん、ね?」


 見ず知らずの人間に、下級生とはいえ、いきなり〈ちゃん〉づけ。

 大胆不敵。

 ふだんのわたしなら、こんなことは絶対にしない。

 でもしてる――ストーキングをやりはじめたあたりから、わたしに何かのスイッチが入っちゃったみたい。

 わたしは髪を耳にかきあげて、


「金月って男の子、知ってるでしょ?」

「こわ……なんなのアンタ。探偵? それともストーカー?」


 彼女の目を見て、はっきり言った。


「ストーカーです!」


 近くを通りかかった部活帰りの集団が、何事かと足をとめた。


「しつこく彼につきまとってるんだけど、なんか文句ある?」

「ヤバ……病院いきなよ」

「待って」


 ぐい、とわたしは彼女の二の腕をとった。

 すごい。ヘタな男子より、筋肉がついてるみたい。それが服の上からでもわかる。

 当校の女子バスケット部のエース。

 松田まつだ太陽さん。あだ名はサンちゃん。長めのボブカットの毛先が静電気を帯びているようにふわふわとただよっていて、そこがまたチャーミング。


「ねえ、このままでいいの?」

「はぁ?」

「金月くんの幼なじみなんでしょ?」

「アンタに……なんの関係があるのよ」


 ききなさい、とわたしは魔女――を演じているつもり――のようにささやく。


「これから毎日毎日彼にプレッシャーをかけて、どんどん精神的に追いつめていくんだから。誰にも邪魔させない。わたしの想いが届く日まで……ずっと……たとえ彼の精神が崩壊するとしてもね」


 きっ、と強いまなざしが向く。

 さすがミユキ。〈告白請負人(うけおいにん)〉と呼ばれるだけある。

 彼女の情報は正しかった。

 やはりサンちゃんは、


(金月くんが好き!)


 それを今、確信した。

 まちがいないよ、この目。

 この手ごたえがほしかったの。

 多少、やりすぎな気がしないでもないけど……


(あとはどうやって彼女と彼をくっつけるか、ね)


「アンタ――」

「ごめんなさい。じつはね、あなたの本音が知りたくて、お芝居を」


 すぐに自業自得という文字が浮かんだ。

 ふりかぶるモーションが見えて、あっ、と思ったときにはもうおそい。

 思えば、わたしはこの動作を予感して、さっき髪をかきあげたのかもしれない。

 ノーガードのほっぺに、ビンタ。

 でも微妙にはずれて、ちっ、と指先がほほをかすっただけだった。

 敵を見るような細めた目をわたしに向け、大声で言う。


きんちゃんには彼女がおるんやけん、いらんことせんとって!」


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