千堂アリシア、姿勢を正す
いよいよ魔鱗2341-DSE(実験機)自身のカメラでも現場が捉えられる位置まで来て、アリシアは身構えた。
千堂アリシアとしての体の方も、椅子に座ったまま姿勢を正す。
と言っても、やはり肉体を持つ人間と違って、体はロボットである彼女はずっと同じ姿勢を続けていても疲れないのでほとんど崩れていなかったが。
まあ、
『人間ならばそうする』
というのをつい再現してしまっただけだろう。
そんな彼女がコントロールしている魔鱗2341-DSE(実験機)が取りついたロボット潜水艇は、ジェット水流を逆噴射させて船体を保持した。
これ以上近付くとそれができなくなるというギリギリの位置である。
ロボット潜水艇の船体に掴まっている魔鱗2341-DSE(実験機)や、他のチームの探査ロボット達もうっかりすれば流されてしまいそうだ。
<水流>と言うよりは、もはや水が機体表面をゴリゴリと削ろうとでもしているかのような流れを感じ、アリシアは、
『まさかこれほどとは……』
と思った。
しかし、ここはまだロボット潜水艇で近付ける位置。本来は漁礁として設置されたらしい構造物によってさらに狭められた<水路>の流れはこれをはるかに上回る。
はっきり言って魔鱗2341-DSE(実験機)単体でもこれに逆らって泳ぐことは不可能だと分かる。
だから、ロボット潜水艇から伸ばされたワイヤーで接近。構造物に掴まることができれば後は魔鱗2341-DSE(実験機)のパワーと四肢の強靭さであれば自力で機体を保持しつつ接近が可能な筈だった。
他の二チームについては、カルキノス02と同様のコンセプトで作られた六肢の探査ロボット三機を連結させて、計十八肢でもって一つのマニピュレータにかかる負担を減らしつつ、魔鱗2341-DSE(実験機)と同様の方法で現場へと近付くことになった。
ただし、万が一流されて他のチームを巻き込まないように、それぞれ別のルートを辿って接近する。
魔鱗2341-DSE(実験機)はパワーと強靭さを活かして最短距離を。
他の二チームは、流れの影響が比較的少ないものの距離があるルートを辿って。
さすがにプロだけあって、慎重かつ確実に近付いていく。
一方、魔鱗2341-DSE(実験機)の方も、本来はこのような作業を想定されていないことで必ずしも効率的ではないものの、その辺りは、大変な困難を乗り越えてきた経験を持つアリシアが、一瞬一瞬毎に、力の入れ方、力を込める方向、水の流れを受け流す体の向き等、総合的な判断を下し、その時点での最適解を導き出し、遅れないように進んだのだった。




