魔鱗2341-DSE(実験機)、エントリーする
「遅いぞ! ケイティ!」
すでに準備を終わらせたディミトリスが千堂を急かす。<ケイティ>とは、千堂の名<京一>が彼にはそう聞こえたのだろう。
「すまない!」
確かに自分が手間取っていることを承知していた千堂は言い訳することもなくただ詫び、モニターなどのセッティングを終えた。
アリシアと魔鱗2341-DSE(実験機)はさすがにロボットだけあって最小の動作で準備を済ませ、すでに待機している。
「ジャイアント・ストライド・エントリー!!」
千堂がようやく準備を終えたことを確認し、ディミトリスが声を上げる。ディミトリスはギリシャ系だが用語の類は基本的に英語のものが一般的なのでそちらを使う。
カルキノス02を、まるで<抱っこ紐で赤ん坊を抱える母親>のように胸にハーネスで固定した魔鱗2341-DSE(実験機)が、海面すれすれまで下げられた<作業室>の縁から、ダイビング用のフィンを着けた足を大きく前に踏み出してそのままの姿勢で海に飛び込んだ。
カルキノス02を抱えているので普通に海に飛び込むような姿勢では入水できないからだ。
海面から数メートルでもやはり結構な流れがあるため、見る間に魔鱗2341-DSE(実験機)が流され、空母から離れていく。
しかしこれは想定の内。魔鱗2341-DSE(実験機)は足のフィンで文字通り<水を得た魚>のように泳ぐ。カルキノス02を抱いていることさえ感じさせないスムーズさだ。
なお、魔鱗2341-DSE(実験機)もメイトギアなのでアリシアと同じく例のゴーグルを着けていたが、それも大して問題になっていないようだ。
二分ほど泳ぐと、ゴーグルに、簡単なポリゴンで再現されたロボット潜水艇の姿が映し出される。ここからそのロボット潜水艇で現場近くまで送り届けてもらうために合流したのだ。
そこにはすでに先に入水した他のチームのロボット探査機が取り付いていた。そして魔鱗2341-DSE(実験機)も掴まったと同時にロボット潜水艇が発進。現場へと急ぐ。
そのロボット潜水艇はゴーグルの方の情報が更新されていなかったのでポリゴンで表現されていたものの、この辺りは事務的な怠慢であって実際には数代前の旧式であり機密レベルは<一般公開>とされているので、ゴーグルは外し、船体各所に設けられた<収納庫>にしまう。
これにより魔鱗2341-DSE(実験機)はようやく自身のカメラで海中の様子を捉えることができた。
同時に、作業室の椅子にシートベルトで固定されたアリシアも、自身の視界を完全にそちらに同調させたのだった。




