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専門家、提案する

こうして魔鱗(マリン)2341-DSE(実験機)をミッションの柱とすることは決まったものの、しかし千堂アリシアがこの時点で判明しているデータを基にしてシミュレーションを行ったところ、


「三点支持による機体の固定がやはり必須になると思います。となると片手で回収する形になりますが、それでは作業効率の低下は避けられません」


とのことだった。


それに対して千堂は、


「なるほど。となると、やはりパヌリscx55との併用という形になるか」


と呟いた。


<パヌリscx55>というのは、JAPAN-2(ジャパンセカンド)社のロボティクス部門プローブ課が開発した水中作業用のロボットで、<浪逆の海(なさかのうみ)>の水中清掃などで主に使われている小型ロボットだった。


イセエビの学名<Panulirus japonicus>から名を取った、見た目にもイセエビを思わせる六本の細いマニピュレータを備え、魔鱗(マリン)2341-DSE(実験機)のサポートを行わせる可能性を想定して持ってきたものである。


それを魔鱗(マリン)2341-DSE(実験機)のボディにハーネスで固定。現場への進入や作業のための保持は魔鱗(マリン)2341-DSE(実験機)に任せて遺体の回収はパヌリscx55が行うという形で、アリシアが再度シミュレーションを行う。


しかし、アリシアがモニターに映し出したシミュレーション映像を見ていた参加者の一人が、


「そんな頼りないロボットじゃシミュレーションどおりにいかねえだろ」


と声を上げた。


それに対し、ネルディが、


「何か代替案があるのですか?」


問い掛ける。


するとその人物は、


「簡単だ。そのエビの代わりにうちのカニを使えばいい」


そう言って自分の端末をリンクさせ、モニターに映像を映し出した。


そこに映し出されたのは、一見しただけでもパヌリscx55よりも明らかに頑丈そうな印象のある、タカアシガニを思わせるシルエットのロボットだった。


「こいつはパローバー社のカヴリTR-Sをベースにしたワンオフで、カルキノス02ってんだ。正直、単体で今回の現場に突っ込ませる気にはなれねえが、そのお嬢さんが足場になってくれるってんなら、話は別だ。少なくともその頼りねえエビよりゃ百倍役に立つ」


自慢げにそう語る彼の言葉には、実は千堂も異論はなかった。


と言うのも、日本は四方を海に囲まれた、海とは切っても切れない関係であるものの、火星における都市としてのJAPAN-2(ジャパンセカンド)は海を持たず、<浪逆の海(なさかのうみ)>はあくまで巨大プールでしかないため、そこで運用される水中作業用ロボットも、それほど過酷な条件を想定する必要がなかったことで、パヌリscx55自体、頑強さよりは精密な作業を重視した造りになっていたのである。



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