千堂とアリシア、ブリーフィングに参加する
グスマン中将から大まかな説明は受けたものの、それはすでにこちらに向かうジェットの中でも確認した程度のものでしかなかったので、軍の施設の中に設けられた<海洋調査の本部>に入った千堂京一と千堂アリシアは、調査に参加することになる他の民間スタッフや他軍から協力のために派遣されてきた軍人らと共に改めて詳細な説明を受けた。
「こちらがアフリカ内海の大まかな海流を示したものです」
大型ディスプレイに映し出された、アフリカ内海の衛星写真の中で矢印がゆっくりと動く画像を指示棒で指し示しながら、キリッとした顔つきの女性仕官が説明する。
彼女の名前はネルディ・ナイバルク。階級は少佐。|GLAN-AFRICA統合軍に所属し、今回の<海洋調査>の責任者に任命された職業軍人だった。
しかしその辺りの細かい話は千堂にとってもアリシアにとっても重要ではないので、今はとにかくブリーフィングに集中する。
「そしてこちらが、<クイーン・オブ・マーズ号事件>の現場です」
ネルディが指し示したところに赤い点が映し出される。そこから矢印の動きをなぞり、
「ご覧の通り、海流は今回の<目標>が発見された現場を通るので、事件から経過した時間と海流の速度を勘案しても<目標>が<標的K>である可能性は十分あるでしょう。
しかしすでにご存知の方も多いでしょうがこの海域は潮流が非常に激しく、かつ地形が複雑なために、潜水艇での作業は失敗に終わりました。現場の写真や映像を撮るだけで五機のプローブがロストまたは破損しています。
こちらが現場の映像です」
ネルディがそう言うと画面が切り替わり、水中の様子が映し出された。
「ああ…こりゃあ……」
参加者の誰かがそう呟く。
なるほどそこは、おそらくは<漁礁>として設置されたらしい複雑な構造物が独特の地形を作り出し、かつ、浮遊物がかなりの速度で流されていき、さらには透明度も決して良好とは言えない、完全に人間のダイバーの派遣が認められることのない見るからに危険な場所だった。
一般的なフィクションなどではこういう時、人並み外れた才能を持つ凄腕ダイバーが、
『俺に任せろ』
的に名乗り上げるのかもしれないが、この場に、人間のダイバーとしてアドバイスするために参加していたベテランダイバー達も誰一人声を上げることはなかった。
危険なこともそうだし、そもそも今回引き上げようとしているのは、何人もの罪もない人々の命を奪ったというテロリストの遺体である。
そんな輩の遺体を収容するために命を懸けようなどという酔狂な人間はいない。
だとすれば、やはりここはロボットの出番ということなのだ。




