グスマン中将、饒舌に語る
「我々軍としてもクグリには煮え湯を飲まされてきましたからな。そのクグリを始末してもらえたとなれば、人間であれば火星名誉市民章も確実だというのに、いや、これがメイトギアだというのが実に残念だ。しかし、あの一件のおかげでJAPAN-2社の評価が跳ね上がったことも事実。自社製品の活躍にあなたもさぞかし鼻が高いでしょう」
上機嫌でそう語るグスマン中将に、千堂は、
「はい、閣下のおっしゃるとおりです」
と笑顔で応える。内心では苦笑いを浮かべながらも。
グスマン中将の態度は、人間としては当たり前のものだった。人間にとってロボットはあくまで道具。友人のように客人のように扱うものじゃない。だから彼の態度も責められるべきものじゃない。
千堂京一も千堂アリシアも、それはよく承知していた。しっかりとわきまえている。だから憤ったりもしない。一抹の寂しさはありながらも、自分達の<理想>を一方的に他人に押し付けることもしない。
「で、こちらが今回の調査に使われるという<水中作業用メイトギア>ですかな?」
そんな二人の気持ちにはまったく気付くこともなく、グスマン中将は今度は魔鱗2341-DSEの実験機が収納されたコンテナを覗き込んだ。
「しかし、まさか<水中作業用メイトギア>などというニッチなロボットを作るとは、さすがアニメ大国ニホンを起源に持つ企業の発想は一味違いますな」
これも決して<嫌味>ではない。彼としては本当に素直な印象というだけだった。
水中での作業に、<人間らしさ>は必要ない。人間は水中での活動に適した機能を持っていない。だからそんな人間を模したメイトギアなど、水中作業で使う合理的な理由などまったくない。利益を優先すべき民間企業でそれを開発するのは、どこまで行っても<ユーモア>に属するものだというのが中将の実感なのだ。
しかし。
「しかし今回に限って言えば、貴社のユーモア感覚に助けられることになるでしょうな。
件の場所は、元々きわめて潮流が激しいことから潮力発電所が設置されるようなところなのです。その潮の流れに逆らって作業できるサイズのレイバーギアや水中作業ロボットでは容易に進入できず、かといって進入が容易な小型のロボットでは流れに逆らって作業するのはこれまた困難。専用のロボットを開発するにしても時間を掛けていては遺体がまたどこかに流されてしまうかもしれない。
そうなってはまた捜索に時間も費用も割かれ、国民から『税金の無駄遣いだ!』と突き上げられる。
そこに貴社が水中作業用メイトギアを開発したと情報が入ったのはまさに<渡りに船>でしたな」




