星谷、祖先を誇りに思う
ロボットに限らず、ある程度以上の価格帯の機械については、現在、AIに施されている樹脂コーティングの技術がコストダウンかつ容易に施せるようになることで、将来的にはAIに限らずほぼすべての電子部品に施されるようになり、ボディ側の耐水・防水処理にそれほど頼らなくても済むようになっていくのだが、それについてはこの物語には直接関係ないのでこれ以上は触れない。
とにかく、皆、この時点で出来得る限りのことをしようと努力している。それだけの話だった。
だから連日、魔鱗2341-DSEの完成に向けて作業が続けられた。アリシアも協力する。
正直なところ、JAPAN-2社としては、<魔鱗2341-DSEの代金>だけではコストの回収が出来ないことは分かっていた。
しかし、火星全土から観客が集まる大人気のエンターテイメントショーである<ポセイドン>にJAPAN-2社のメイトギアが出演するとなればその広告効果は絶大であり、かつ、JAPAN-2社の技術の高さをアピールすることにも繋がる。
トップメーカー三社はひたすら要人警護仕様のメイトギアの性能競争に明け暮れているようだが、それはつまり火星におけるテロ被害の深刻さも同時に現していることになるので、JAPAN-2社の現社長<星谷>はそういう現状を憂いてもいた。
と言うのも、星谷の祖先が、今のメイトギアをはじめとしたロボット達を生み出されるきっかけを作った人物の一人、特に、メイトギアへと繋がるコンセプトの完成に大きく尽力した人物とみなされているというのもあるからだ。
その人物は、自身が立ち上げた企業で開発されるロボットを<仲間>と呼び、あくまで、ハンデを抱えた人々や、介護を必要とする高齢者、家事や育児が大きな負担となっている世帯などに寄り添い支えることを目指し、ロボットが軍事目的で利用されることに真っ向から立ち向かったのだと言う。
しかも、単に『反対反対!』と喚き散らすのではなく、<戦争や紛争の原因>にまで踏み込んで対処することで、
『戦争や紛争を続ける理由をなくす』
という実効性のある働きをしたのだとも伝えられているのだ。
無論、それらが一朝一夕でなされることはなかったし、実際にその人物が存命中に地球における<戦争放棄>がなされることはなかったものの、それに向けた流れを作った者達の一人であったことは間違いないだろう。
星谷はそんな自身の祖先を誇りとし、
『ロボットの存在は人間の幸福に資するべき』
を旨として、ロボティクス部門に期待を寄せていたのだった。
ただ、その分、他の部門については副社長の新良賀に任せることになっていたのも、先般のクーデター騒ぎの遠因になったことは否めないのだろうが。




