千堂京一、深慮する
が、千堂アリシアはロボットなので、本来、水は好きではなかった。遠くから見ているだけなら平気でも、実際に入るとなると躊躇してしまう。
防水は完璧で、たとえ水深二百メートルでも問題ないように設計はされているものの、万が一、傷でも付いて防水が破れ内部に浸水すると、やはり不具合は生じる。
とは言え、AIについての防水はすでに完璧だった。AIそのものが特殊な樹脂でコーティングされていてたとえ水洗いしてもまったく、問題がないのだ。
ただ、このコーティング技術は実用化されてからまだ十数年しか経っておらず、非常にコストがかかるため、特に重要とされている部品にしか用いられていないこともあり、それ以外の電子部品についてはやはり水に弱いのである。
それを、表皮にあたる部分の防水性能で補っているだけなのだ。
しかし、カタログスペック上は『二百メートル防水!』などと高らかに謳われているので、普通のロボットは命令されれば躊躇うことなく水中にでも入っていく。
千堂アリシアには<心>があることで、いくら理論上は問題ないと言われても不安が拭い去れなかった。この辺りが、普通のロボットと千堂アリシアの明確な違いの一つだろう。
だから千堂も、
「私達は決して君に無理を強いるつもりはない。ただ、君の力を借りられれば助かるというだけなんだ。もちろん次善の策も用意している。断ってくれてもまったくかまわない」
と、アリシアには伝えてある。
その上で、アリシアは、
「いえ、やります。やらせてください」
と応えていた。
そんな彼女を見て、千堂は思う。
『軽々しく『自分が置かれてる状況はすべて自分が招いたこと』などと他人に向かって口にしてはいけないと思うが、実際に己の行いが自身に降りかかってくるというのは確かにある。
先日の、ジョン・牧紫栗という、当社社員の行いがまさにそれだろう。他人を妬み傷付けようとした行いが、ますます自分を苦しい状況へと貶める結果となった。これなどは完全に、己の行いが自身に降りかかってきた事例だ。だから、『自分が置かれてる状況はすべて自分が招いたこと』と言われても仕方がないようなものは現にあるだろう。
しかし、それがエリナ・バーンズに当てはまるかと言えば、たとえ当てはまるのだとしても、そのような言い方は私はしたくない。彼女は十分に傷付いた。その上でさらに傷付けるような真似が人として正しい行いだとは思わない。
このアリシアについてもそうだ。ロボットに生まれついたことは彼女の所為でない。『すべて自分が招いたこと』などと言ってしまっては、ロボットに生まれついてしまったことさえ『彼女の所為』と言っているのと同じになる。
私はそうは思わないのだ。
実際に本人が招いたことと、本人が生まれついた環境というものは本人にはどうしようもないことだというのははっきりと区別しなければならないだろうな……』




