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千堂アリシア、浪逆の海に来る

千堂京一(せんどうけいいち)は、相手に対して、


『自分が置かれてる状況はすべて自分が招いたこと』


とは、言わないようにしている。そういうことを軽々に口にする人間は、物事を深く考えることができないことを知っている。


分かり易い例を挙げるなら、エリナ・バーンズに対して、


『自分が置かれてる状況はすべて自分が招いたこと』


と大上段に説教を垂れる人間を思い浮かべればいいだろう。犯罪被害者にそういうことを言ってのける者が物事を深く考えていると思えるだろうか?


ただ相手を正論で殴り、


『自分はいいことを言った』


などと自分が<良い気分>に浸りたいだけではないのか?


千堂自身、今より若い頃にはそういう感じのことを深く考えずに口走ってしまったことがあり、現在ではそんなかつての自分を恥じている。


だからこそ言わないのだ。


『自分が置かれてる状況はすべて自分が招いたこと』


という言葉をもし使うとすれば、それは自分自身に対してだ。自分が苦しい状況に陥った時に、それにキレて他人に当たってしまいそうになったとしたら、そんな自分を諌めるために使うだろう。この言葉は、他人に向けて発するべきものではないと考えている。


ましてや相手の背景も分からないうちからこのようなことを口にする人間は信用しないし、重用もしない。職場でそんなことを誰かに対して口にしている者がいれば確実に評価を下げる。


そういう彼だからこそ、千堂アリシアのような難しい存在を相手にしても受け止めることができるのかもしれない。


千堂アリシアはそんな彼を手本として<心を持つ者>としての在り方を学んでいた。


そして二人は、魔鱗(マリン)2341-DSEが出演を予定しているダンススイミング劇団が演じる水中ダンスショー<ポセイドン>へとやってきた。


それは、都市JAPAN-2(ジャパンセカンド)の郊外に建造された大型マリン施設、<浪逆の海(なさかのうみ)>に常設されたダンススイミング水槽で年間を通じて行われている人気のショーだった。


何しろ火星にはまだ地球のそれのような<海>がない。最も大きな<アフリカ内海>でも、地球の地中海とほぼ同規模の広さしかない。


だが人間にとって大量の水がある環境というのは本能的に求めてしまうものなのだろうか、浪逆の海(なさかのうみ)(霞ヶ浦の古名)という名前ながらも実際の大きさ的には震生湖(しんせいこ)という小さな湖とほぼ同等の、海を思わせる白砂の浜辺を持ちながら<巨大プール>と言った方がおそらくイメージしやすいここも、大変な人気施設なのだった。



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