千堂京一、アリシアを誘う
水中でダンスパフォーマンスを見せるメイトギアとなると、はっきり言って千堂アリシアにとっては専門外もいいところかもしれないが、しかし、実は、<水中での困難な作業>という意味であればまったく無関係というわけでもなかった。
それはやはり、<クイーン・オブ・マーズ号事件>でのことだった。クイーン・オブ・マーズ号の船底に仕掛けられたC-7爆薬を除去するためにフィーナQ3とルシアンF5が水中作業をした際、別メーカーだったことでリンクまではできなかったものの詳細なデータのやり取りは行っていたため、実質的には水中作業の経験があるのと大きくは違わなかった。
とは言え、航行中の船舶の船底での爆発物除去など、メイトギア本来の運用方法ではないため、普通であれば<無用なデータ>としてメンテナンスの際に消されるか、少なくとも別に保存されて、水中作業用のレイバーギア等の専用のロボットに活かされるという形で利用されることになる。
ただ、千堂アリシアの場合は、迂闊に触れることができないため、そのまま残されていたのだった。
なお、<クイーン・オブ・マーズ号事件>の後、獅子倉玄戒自身の手によって千堂アリシアのAIについては拡張が行われ、普段の情報処理は増設された部分が用いられている。元々の部分は、特別なコマンドを用いなければ<書き込み>は行えなくなっており、ある意味では無意識の領域のような形になっていた。
この点からも、彼女はすでに一般的なメイトギアを大きく超えた性能を有しており、機能の面からも特別な存在になっているとも言えた。
もっとも、単純に<性能>ということであれば、カスタムタイプのメイトギアの中にはさらに高性能なものも少なからずあるのだが。
まあそれは余談なのでおくとして、今回、魔鱗2341-DSEの開発に協力するに当たって、
「水中ダンスショーを観に行くか?」
休日朝に千堂京一が不意にそう言い出したのを、
「! 行く! 行きます!」
アリシアは飛び上がりそうになりながら応えた。
突然だったのは千堂のスケジュール調整がついさっきまでかかっていたからで、彼としては前もって準備をしていたりもする。
「えへへ~♡ 千堂様と久しぶりのお出掛け~♡」
「悪いな、もっと出掛けれられればいいんだが」
上機嫌なアリシアに千堂が申し訳なさげに言うと、彼女は、
「いえいえいえいえ! こうしてたまに出掛けられるからもっと嬉しいんです!」
と彼を気遣ってくれる。
どちらかが一方的に相手を気遣うのではなく、お互いに自然に気遣い合えるからこそ二人の関係は上手くはまっていたのだった。




