千堂アリシア、<心>を想う
リーダーであるエリナを欠いたことでコンペへの参加は非常に危ぶまれたものの、他のスタッフらの懸命な頑張りによって、何とか参加にこぎつけた。
元々のメインフレームはアリシアによって破壊されてしまったが、当然、万が一に備えて予備は用意してある。そちらに楓舞1141-MPSのバックアップデータを移植し、再セットアップ。問題ないことを確認するためのテスト運用を、連日会社に泊まり込みで行い、間に合わせたのだった。
それに元々、楓舞1141-MPSのセッティングはすでに完璧と言ってもいいものだった。
アリシアの協力のおかげである。
これがなければさすがにきちんとしたものを提示できるようにはならなかっただろう。
コンペにおいても楓舞1141-MPSは非常に高いパフォーマンスを発揮し、軍の審査官にも良い感触を得たようだった。
この時、他にも、市場のトップ3を占める一流ロボットメーカーがそれぞれ強力な軍仕様のメイトギアを提案してきて、最終的な結果は一ヶ月後ということになったが。
ここから先は軍がどのように運用するかということとの兼ね合いもあるので、高性能だから採用される、戦闘力が高いから採用される、というような簡単な話ではないものの、少なくとも悪くない感触を得たことは事実なので、JAPAN-2社としてもホッと胸を撫で下ろす形となった。
ただ……
「アリシアもよく頑張ってくれたな。ありがとう」
千堂京一に褒められてもアリシアは素直に喜べなかった。エリナ・バーンズのことがあっては当然だろうが。
それでも、楓舞1141-MPSのコンペが好感触だったことは単純に好ましいことだし、エリナの件が悪く影響したわけでもないので、千堂としても、
「人間の心というものは、本当に難しい。自らも心を持つ人間自身でさえ、それを完全には理解できていない。エリナ・バーンズのことについては、アリシアには何の落ち度もない。君が落ち込んでいてはエリナ・バーンズも負担に感じるだろう。
だから今は、彼女の回復と復帰をただ祈ってくれればそれでいいと思う」
「千堂様……」
仕事を無事に終えても晴れやかな表情を見せないアリシアに、千堂は穏やかにそう声を掛けた。
だからアリシアもそれで少しだけ気持ちが軽くなるのを感じる。
「心って、大変ですね……」
呟くように口にした彼女のその言葉は、本来は心を持たないはずのロボットであるがゆえの実感だったに違いない。
「ああ…そうだな。でも、私は、そんな大変な<心>を持っていることを、むしろ誇りに思うよ。いずれアリシアにもそれが理解できてくれたらと思っている……」
包み込むかのような彼の言葉に、アリシアは自分が救われるのを感じていたのだった。




