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千堂アリシア、エリナ・バーンズに問い掛ける

要人警護仕様のアリシアシリーズには、<武道の達人>から得られた動きがインストールされている。


だがそれはあくまで、<達人の動き>や<型>がデータとして記憶されているというだけでしかなく、実際には達人が至った<境地>と称されるものまでは再現されていなかった。


しかしこの時の千堂アリシアは、まさに武道の達人が達した<無我の境地>や<忘我の境地>と言われるものに到達していたのかもしれない。


目の前の状況をあるがままに受け入れることで、体が勝手に最適解を導き出すという。


ロボットである彼女がどうしてそれを再現できたのかは、後の調査でも判明しなかった。そもそも<達人の境地>と呼ばれるもの自体を技術者達が<眉唾物>と捉えていたからだろう。


『フィクションに良くある演出だろう』


と考えて。


が、クグリがそうであったように、時に人間は、数値では表せない、少なくともこの時点での科学や技術では解析しきれない<何か>を発揮してみせることがあるのだ。そして千堂アリシアも。


もっとも、この時は、アリシアの常識では有り得ない動きより、楓舞(フーマ)1141-MPSの<有り得ない挙動>こそが重視され、騒ぎになったのだが。


ロボットは、普通、決められたことを決められたとおりにしか動けない。事故が生じたのであれば、やはりそれはそのように動いてしまう<明確な原因>がそこにはあるのだ。そして楓舞(フーマ)1141-MPSはあくまで<普通のロボット>だった。


だから、本来ならアリシアを傷付けるところまではしないはずの彼がそれをしたのは、そうなる原因があったということだ。


「どうしてですか? エリナさん」


メインフレームを破壊され機能停止した楓舞(フーマ)1141-MPSをテスト場に残し、破壊された自身の右腕にも構うことなく、アリシアは車椅子に座ったエリナ(が遠隔操作するメイトギア)の前に立ち、あくまで静かにそう訊いた。


それでその場にいた者達も察してしまった。エリナがメイトギアを遠隔操作してまで自身で楓舞(フーマ)1141-MPSのメンテナンスを行うことに拘った理由を。


けれど、エリナは、エリナが遠隔操作するメイトギアは、何も応えなかった。当然だ。病院のベッドに横たわっていたエリナが端末を掴んで投げ捨て、壊してしまったのだから。


「うわあああぁぁぁーっっ!」


ベッドに横になったまま、エリナは両手で顔を多い、大きな声を上げて泣いた。その様子に、看護師達が慌てて駆けつける。


けれど彼女はなだめようとする看護師達の手を払いのけ、癇癪を起こした幼子のように泣き続けたのだった。



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