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千堂アリシア、うずうずする

ともあれ、暇を持て余していた千堂アリシアだったものの、活気溢れるオフィスの様子を感じ取っている分には心地好かった。


ここには人間の<生の営み>が満ちている。すごく人間らしい。


だからついつい手伝いたくてうずうずしてしまう。


それは、<何もさせてもらえないストレス>とはまた別のものだった。


そんなわけで、昼前くらいになると、思わず、


「あの…何かお手伝いできることはありませんか…?」


と、自分の<部屋>から出て、近くにいたメイトギア課統括オフィスの女性職員に声を掛けていた。


するとその女性職員も、


「あ、それじゃこの書類をハーン部長のところに届けてくれる?」


手にしていた封筒を気軽にアリシアに任せた。


人間が火星を大規模テラフォーミングによって居住可能な惑星に改造した上で移住して数百年。それでも<紙の書類>はなくなっていない。


と言うのも、デジタル上の記録というのはどうしても電気的なエラーに弱いという弱点はいまだに克服されておらず、紙の書類の有用性は完全に否定されていないという状況にあった。だから重要な書類ほど紙のそれを用いるということは廃れていないのだ。


もちろんデジタル書類も併用されてはいるのだが。


それとは別に、立場上は名前だけの主任で実質的には新入社員であるアリシアにそんな大事な書類を任せるのはどうか?という心配もあるだろうが、メイトギアである彼女はさすがに人間の新入社員よりは信頼されている。


と同時に、これもやはり実験の一環でもある。この辺りもことも、メイトギア課の職員にはあらかじめ知らされていて、積極的に協力するように通達は出されていた。


なお、メイトギアというものに対して理解のない者はこの部署に配属されることはない。なので当然、彼女を差別的な目で見る者もいない。ただ、一部には、人間と同じ様に働かせることに対して、


『大丈夫なのだろうか…?』


という形で心配している者もいるのは事実であるが。


ただしそれさえ、<人間側の反応>という意味で重要な確認項目であり、そういう部分も含めての実験である。


とにかく、アリシアは言われたとおり、<パーソナルエージェント部>の部長、ラフカディオ・フィリップ・ハーンのところに書類を届けるために赴いた。


二十世紀の日本に居を構えたといわれている著名な随筆家にあやかってその名を受けた彼は、メイトギア、レイバーギア、ランドギア等の<人型ロボット>の統括する責任者だった。


なお、<パーソナルエージェント>というのは、まあ、要するに人型のロボットをなんとなくかっこいい風に言い換えた造語であり、実はあまり深い意味はなかったりする。



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