エリナ・バーンズ、出勤する
事件に巻き込まれたことでエリナ・バーンズは休業を余儀なくされたが、エリナ本人のたっての希望でタブレットを使って、それどころか、専用の端末を体に装着、彼女そのものを投影したメイトギアを会社に置き、病室から直接指示を出す形で楓舞1141-MPSのテストは続けられた。
このため、緊急手術の間と集中治療室にいた間の八日間休んだだけで、以降は出勤扱いとなる。
なお、人間そのものをメイトギアに投影して運用するための端末というのも、JAPAN-2社の商品である。
仕組みとしては<VR技術の発展型>とでも言えばいいだろうか。人間の脳波および筋電を検出し、それでメイトギアのボディを<義体>のように操るのだ。
実は専用の義体も作られてはいるものの、どうしてもメイトギア以上に高価になる上に、メイトギアを利用したものでもそれほど問題もないということで、一般的にはそちらが用いられる。
今回、エリナは病院のベッドの上であり重症なので完全には操れないため、メイトギアも車椅子に座った状態で職場に来ているが。
ちなみに、エリナ本人は専用のゴーグルとヘッドセットをつけた状態でベッドに横になってる形だ。知らない人間が見たらその異様さに驚くだろう。
となればタブレットなど使っての通話だけでもいいと思うかもしれないが、彼女は楓舞1141-MPSについては自分でちゃんと触れたかったので、せめてもということでメイトギアを使っているというのもある。
しかも今日からは仮想空間でのシミュレーションではなく、実機同士によるテストが始まる。よって、テスト後のメンテナンスも念入りに行わなければいけない。
メンテナンス用のナノマシンが実用化されてからは日常的なメンテナンスについては、メンテナンス用のカプセルに入りナノマシンによるメンテナンスを受ければ微小な傷などについては任せてしまえるようになったものの、負荷の大きな運用の後などにはやはりまだ人の手によるメンテナンスが必要だった。
エリナ・バーンズは、それについてはやはり自分でしたかったのだ。
『エリナさん……』
そこまでして楓舞1141-MPSを完成させたいという彼女の想いにはアリシアも圧倒されるものを感じずにはいられなかった。
「楓舞1141-MPS、あなたにはたくさんの人の情熱が注がれています。私も協力します。共に人間達の期待に応えましょう」
人間も着ることのできるビジネススーツから、軍用仕様のアリシアシリーズに施される<戦闘用外装>へと着替えてテスト場へと現れたアリシアは、真剣な眼差しで楓舞1141-MPSに話しかけた。
「……」
楓舞1141-MPSも、言葉は話さなかったものの、『了解した』という意味の信号を返し、アリシアと向かい合ったのだった。




