JAPAN-2社の義務
こうしてエリナ・バーンズを狙った<復讐屋>は報いを受ける形にはなったものの、それは所詮、たまたまでしかない。世の中というのはそのように都合よく<因果応報>など起こらないのだ。
事実、宗近2122-HHSを襲った方の復讐屋はまんまと逃げ延び、今ものうのうとしている。
だが、死亡した方の復讐屋らについては誘拐の容疑で捜査が行われ、家宅捜索で押収された端末に残されていた履歴からジョン・牧紫栗からの依頼であったことも判明。
「知らない! 関係ない!!」
と否認したものの、職場の同僚の一部に、酒に酔った勢いで復讐屋への依頼を吹聴していたことが証言され、しかもその酒場で運用されていたメイトギアに残されていた音声および映像データも物証として差し押さえられ、私用の端末にしっかりと残された通信履歴とも合わせて動かぬ証拠となるだろう。
もっとも、もしこれで有罪が確定したとしても、JAPAN-2社を解雇されることはない。再び配置転換はされるだろうが。
いくら『仕事に貴賤はない』と言っても、希望者があまりいない職種というものはある。正直、リサイクル資源回収部門というのもそういう職種の一つではあったものの、さらに希望者の少ない部署へと移されることになる。
それは、都市の郊外で、ロボットと一緒に開発を行う仕事だった。本当はすべてロボットに任せてしまってもいい仕事なのだが、今回の牧紫栗のような問題を起こした従業員を雇い続けるために敢えて残されている仕事でもあった。
エリナ・バーンズを拉致した復讐屋の運転手の男も、実はJAPAN-2社の従業員だった。その男も同じ部署に移動させられるだろう。それによって確実に収入は得つつ、行政が立て替えた被害者への補償の弁済と、JAPAN-2社から起こされた損害賠償請求の支払いが行われるということだ。
『損害賠償請求するくらいならそもそも給料など払わなくてもいいのでは?』
という意見もあるだろうが、話はそう単純ではない。以前にも触れたとおり、JAPAN-2社はそれ自体がすでに国家に準じた組織である。国が国民の権利を保障する必要があるように、JAPAN-2社にも従業員の生存権を保障する義務があるのだ。
なので、安易に解雇するわけにもいかないのである。
そもそも解雇したところで他に仕事があるわけでもない。ないこともないが、それらは極めて限定的で特殊な仕事なので、元より求人など滅多に行われないのだった。




