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ジョン・牧紫栗、鬱憤を募らせる

JAPAN-2(ジャパンセカンド)ロボティクス部門統括技術主任である獅子倉玄戒(ししくらげんかい)などは、悪態は吐くものの基本的に差別主義者ではなかった。地球だろうと火星だろうと、地球人だろうと火星人だろうと、自身の研究に役立つのなら何でも利用するタイプである。


また、副主任の姫川千果(ひめかわせんか)は、あの独特のしゃべり方とペースが余人には付いていけないというだけで、彼女も他者を蔑む意図は微塵もない。


さらに、元副社長の新良賀(あらが)は、本人は極度の差別主義者ではあったものの経営手腕は確かで、ロボティクス部門に比べるとやや苦戦していた家電部門の業績を改善した実績を買われ副社長にまでなった。


が、それでもさすがに殺人教唆などの犯罪に手を染めるとなれば容赦はされず、副社長の職は解かれて逮捕され、現在は裁判を待つ身となっている。


しかもそれまでは自身の権力で隠蔽してきた数々の余罪が捜査の過程で明らかになり、本人は財力にものを言わせ優秀とされる弁護士を何人も雇って徹底抗戦の構えを見せているものの、ここは火星。たとえ無罪を勝ち取ろうとも再浮上の目はないと見られていた。


そのため、本人は地球への帰還を望み、地球で裁判を受けるべく根回しをしているという話もある。


とは言え、それはあくまで新良賀(あらが)ほどの地位や財力があればの話。両親が総合政府の官僚といえど所詮は庶民に毛が生えた程度のジョン・牧紫栗(まきしぐり)の立場ではまったく何もできない状態だったが。


牧紫栗はそれに対しても不満を抱いており、


「こんな社会はクソだ! 自分は不当に差別されている!!」


と、懲りもせず捨てアカウントを使ってネット上に発信している有様だった。


しかしそんなことで自身の状況が改善されるはずもない。いくら他人を罵ろうと社会を恨もうと、それはむしろ状況を悪くするだけでしかない。そのようなことをしていてもなお浮上することができるのは、それに見合う才覚を持つ人間だけであり、そして牧紫栗にはそれだけの才覚がなかった。


実に単純な話であるが、彼にはそれが理解できないらしい。特別扱いしてもらえるだけの才覚がないのなら社会に適応して慎ましく生きるのが結局は自分のためになるのだということを。


ありもしない<秘めた才能>を信じ、社会が自分を不当に扱っていると逆恨みし、ただただ鬱憤を溜め込んでいる状態だった。


実に嘆かわしい。


さりとて、そんな人間でもこの社会は<権利>を認めてくれる。自由に出歩いて酒で憂さを晴らす程度の権利は。


だから、懇親会を終えて店から出てきたエリナ・バーンズの一行と鉢合わせるなどという偶然も起こってしまうということだ。



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