テロリストの発生要因
テロリストとなった者達の背景も、徹底的に精査されてきている。
テロに走る人間の大半が、貧困層だった。それも、ただ物質的に貧しいというだけでなく、精神的にも過酷で貧しい境遇に育っていた者がほとんどだった。
もちろんテロリストの中には経済的物質的に豊かな環境に育った者もいる。しかし詳しく調査してみれば、それさえ、精神的な面では過酷で貧しい境遇であったことが分かっている。
人類すべてが同じ境遇であれば『そういうもの』として納得もできるのかもしれないが、現実に穏やかに暮らせている者とそうでない者がいる以上、<そうでない者>が不満を募らせるのはむしろ当然のことなのだろう。
無論これは、テロリストに同情するために行われた調査ではない。人権派と呼ばれる者達の間ではテロリストの人権を守るための根拠としてそれを挙げる者もいるが、実際には極めて論理的合理的機械的に<テロに走る要因>を分析するために行われたものでしかなく、それによって、
<テロリストの発生を抑制する効果的な手段>
を探ることを目的に行われたというのが厳然たる事実だった。故にテロリストに対する厳しい対応そのものは続けられている。
<テロリストの発生要因の解明>と、<テロ行為への具体的な対処>は同時に行われなければならないということで。
この世というものは、Aが駄目ならB、Bが駄目ならAというような単純なものではない。そんな単純なものであれば、とうの昔に誰かが完璧な人間社会を作り上げているはずだ。
しかし現実にはそうではない。AとB両方を取り入れつつ、さらにC、さらにさらにDを取り入れ、その上でバランスを取ることを要求される。
そういうもののはずだ。だから難しい。どんな大英雄でも英傑でも賢人でも成し遂げられないほどの難易度であった。
とは言え、『どうせ不可能だ』と諦めてしまえばそれこそ実現しない。どんなに先が見えなくとも、不可能に思えようとも、それを解明してきたのが人間という種のはずだ。
『どうせ人間なんて』
などと人間を軽んじているのはテロリストも同じ。だからこそテロなどという短絡的な行為で自分達の目的を果たそうとするのだろうから。
人間を信じていないから命を軽んじる。
人間を信じられるような経験をしてきていないから人間を侮る。
現実を見る勇気があるのなら、人間がこれまでどれだけ多くの<不可能>を覆してきたかその事実と向き合うべきだろう。一年二年で解決できなくても、百年かけて解き明かした難題もあるはずだ。
千堂アリシアは、ロボットであるが故にこれまで人間が蓄えてきた膨大なデータに容易くアクセスすることができる。そうやって人間の歴史に触れることができるからこそ、人間を愛することができるのだった。




