千堂アリシア、愛想笑いを返す
「あなたには負けたけど、でも、千堂さんが誰を選ぶかはまだ分からない。諦めたわけじゃないからね。油断しちゃだめよ♡」
軽く酒が入ったことで、一層、艶っぽい表情を見せるようになったエリナの言葉に、
「ははは……」
アリシアは愛想笑いを返すしかできなかった。
けれど、こうまで堂々と宣言されると、むしろ気持ちいい。素直に、
『私も負けられない』
という気分にさせてくれる。
加えて、エリナは自分という存在を認めてくれているというのが感じられた。
もちろんこれは、JAPAN-2社のメイトギア部門という部署に働く人間だからこそのものというのもある。世間には、どうしてもロボットを見下すような感覚を持った人間も少なくない。
しかしメイトギアそのものを作り出す側の人間には、
『メイトギアは人間の仲間である』
という矜持が求められる。それを理解していなければ、<人間の仲間>を作り出すことはできないという、現社長の星谷の意向が反映されたものでもある。
もっとも、それが、メイトギアをはじめとしたロボットを<使い捨ての道具>としか見ない副社長派によるクーデターを招いてしまったという一面も少なからずあるのだが。
とは言えそちらの方は、
『理由があるからといって人の命まで蔑ろにするようなクーデターを起こしていいわけじゃない』
ので、事実は事実として受け止める必要はあるとしても、別の話ではあるだろう。
それにアリシアは、人間と同じように<暮らす>ことを始めた段階である。いきなりあまり厳しい環境に放り込んではどんな事故が起こるか分かったものではない。
かつて人間は、とにかく厳しい環境に放り込めば強く育つだろうと安易に考えて不慣れな者を過酷な環境に置くということを行っていたが、それはメリット以上のデメリットを生むことが無数の事例を精査したことで判明している。
適切なフォローがなければ、決して無視できない割合で非常に強い反社会性を生むということが。
苛酷な環境に置かれても自らを強く律することができるようになった人間について調査したところ、相当な割合でフォローが受けられていたり、本人にとって明確な指針となる教示を得ていたということが確認されていた。そしてそのことによって、<苛酷な環境>が緩和されていたという事実が確認されている。
つまり、『ただ苛酷な環境に放り出せばいい』というわけではなかったのだ。むしろ、
『苛酷な環境にあってもよい出逢いに恵まれることで結果としてそれが本人にとってよい経験となる』
ということなのだろう。




