千堂アリシア、着任する
オフィスに現れた千堂アリシアの前に、次々と人が集まってくる。
「いらっしゃい、アリシアさん!」
笑顔でそう声を掛けつつ彼女の手を握った白衣でブロンドの美女は、第一ラボ所属の技術者、エリナ=バーンズ。将来を嘱望されている若手スタッフの一人である。
「これからは職場の仲間ですね、よろしくお願いします」
丁寧に頭を下げた、やはり白衣姿の若い男性は、敷島紘一郎。やはり若手ホープの一人と目されている技術者だった。
皆、アリシアの就任を祝福していた。
なお、獅子倉と共に彼女のメンテナンスを担当する姫川千果は、メイトギア課の第二ラボに所属しながら、ロボティクス部門の技術者のトップである獅子倉の補佐として、副主任の立場にある。
そうして皆に囲まれて、
「ありがとうございます。頑張ります!」
と笑顔を浮かべながら応えていたアリシアだったものの、内心では少し寂しさもあった。
と言うのも、彼女の主人である千堂京一が、役員として急遽、出張しなければならなくなり、この場に来られなくなったからである。
彼の役員という立場上こういうことは珍しくないと理解はしているものの、本音の部分では残念とも思う。
何しろ彼女は<心のようなもの>を持ったロボットだったから。
その彼女はこれから、ロボットでありながら人間と同じように<社員>としてこれから働くことになる。
それは、<心のようなものを持つロボット>という極めて特異な状態にある彼女を、人間と同等に扱い、人間と同じように働いた場合、それが職場やその周囲にどのような影響をもたらすかということを見るための<社会実験>でもあった。
ちなみに、本来であればロボットはあくまで人間をサポートするための<道具>であり、人間のように社員として働かせることは原則認められていない。
今回のケースについては、JAPAN-2社内に限定した社会実験であることを条件に例外的に認可が下りたものである。
これについても、アリシアは承知している。自分の働きが様々な影響を与えることを。
だから、今は、千堂が傍にいないことは寂しいし不安もあるものの、
『弱音は吐いてられない…!』
とも思えた。
それに、ここの人達はとてもあたたかい。ロボットである自分のことも大切にしてくれる。千堂が傍にいなくてもきっと大丈夫。
まず第一に、
『人間は、保護者同伴で働くわけじゃないですからね』
と、アリシアは自分に言い聞かせたのだった。




