千堂アリシア、休息をとる
機転を利かして能力差を埋めるのは、人間であればよく行うことだ。テロリストなどはまさにこれである。機転を利かせることで戦力差を補っているのだから。
千堂アリシアがこれだけのことをしてきたのであれば、テロリストなどはそれこそ奇想天外な対処法を編み出してくる可能性がある。だからこそテロを防ぐのは難しい。
「今度は勝てると思ったんですが、さすがです」
そう言ってアリシアは楓舞1141-MPSの頭を撫でて賞賛したが、当の彼はうなだれてどこか落ち込んでいるようにも見えた。
危ういところだった結果に納得がいかないとでもいうように。
アリシアと違って彼は普通のロボットなので、実際には落ち込んだりしない。しかし、良好な結果が得られなかったことを<好ましくない事態>と捉えることはできる。
だからこそそれを経験として次に活かすことができるのだ。
そのためにも、
「じゃあ、今日のところはここまでにしておきましょうか。お疲れ様でした。後はメンテナンスをしっかりと行います」
エリナ・バーンズは笑顔でそう言って、シミュレーションの終了を告げた。
こうしてアリシアはメンテナンスを受けた後、自分の部屋に戻り、休息をとった。スリープモードに入ったのである。
専門のスタッフにより、今回のシミュレーションによって生じた断片化ファイルについては除去されたものの、彼女自身が自らの経験を十分に活かすには、<夢>を見ることで追体験する必要があった。これは、いつしか彼女が身に付けていた現実への対処法だった。
「あれ? 千堂さん寝てる?」
雑用を頼もうと部屋を覗いた女性職員が声を上げる。すると別の職員が、
「ああ、彼女はああやって頻繁に自己メンテナンスする必要があるの。だからそっとしておいてあげてね」
と説明する。
「あ、そうなんですか? すいません」
言われた職員も素直に納得した。
このように、JAPAN-2においては、個々の事情については配慮される。それを補うためにメイトギアがサポート役として配されているのだから。
おかげでアリシアもゆっくりと<夢>を見ることができた。何度戦っても楓舞1141-MPSに勝てない夢だったけれど。
でも、これによって自分が楓舞1141-MPSに勝てないという現実を受け止められるようにもなっていくのである。
勝てなくて悔しいのは事実でも、だからと言ってその現実から目を背けてもそれが覆るわけじゃない。
勝ちたいのならそのための努力をすればいい。それを理解するためにも必要なことなのだった。




