千堂アリシア、完敗する
千堂アリシアの首がもぎ取られたかのように見えたそれは、もちろん、戦闘シミュレーションを映像化しただけのものにすぎないので、アリシアの首が実際にもがれた訳ではない。
加えて、特異な事情を抱えるアリシアに対してはそれ用の配慮もなされていて、ダメージが彼女自身のメインフレームにはフィードバックされないようになっていた。
普通のロボットであれば別に問題ないものの、彼女は<普通>ではないので念の為の対処である。
「え…? 私、負けたんですか?」
あまりにも一瞬のことだった上にダメージがフィードバックされなかったことで、アリシアには自分が負けた実感がなかった。
しかし、その時の映像が再現されると、
「うひい……」
と凄惨な光景に思わず声を上げる。
なにしろそこには、首をもがれた上に、それによってセンサーの多くを失って動きが鈍った彼女に容赦なく楓舞1141-MPSは襲い掛かり、胸に食らいついて引き裂き、内部のAIを収めた部分まで噛み砕いて完膚なきまでに破壊する様子が映されていたのだから。
メイトギアの頭部は基本的にセンサー類や通信用の装置が詰まっているだけで、それを失っただけでは致命傷にはならない。しかし、胸部に納められたAIを破壊されれば、これは完全な破壊を意味する。
「はあ…さすがですね……」
アリシアはもう言葉もなかった。事前の予測通りの結果とはいえ、ここまで完璧にやられてはぐうの音も出ない。
そう。事前の、戦闘用アルゴリズムだけでのシミュレーションでも同様の結果が出ていた。今回のそれはシミュレーションの確度を上げたという形になる。
「強いですね。楓舞。おみそれしました」
アリシアはにっこりと笑いながら楓舞1141-MPSの頭を撫でた。すると、戦闘モードを解除してしていた彼も、どこか嬉しそうに首をアリシアの体にすりつける。その仕草も完全に猫のものだった。
それでも、戦闘時の冷酷非情さはやはりロボットならではと言えるだろう。
この切り替えの確実さも、今回のテストで確認する点である。
戦闘時は冷徹に、しかしそれ以外の時にはフレンドリーに。
これが彼には求められている。少なくとも今回はしっかりとそれが確認できた。
そして一時間のメンテナンスの後、再び戦闘シミュレーションとなる。
今度は、市街戦を想定し、かつ、先程のあまりに一方的な結果を考慮して、アリシアには対ロボット用大型拳銃<ハンドカノン>と超振動ナイフが装備された。
なお、実は楓舞1141-MPSの牙や爪も超振動ナイフである。と言っても、実機の方にはまだ装備はされておらず、武装は全てダミーだが。
あくまでシミュレーション内で再現されているだけであった。




