千堂アリシア、千堂京一と共に帰路に就く
楓舞1141-MPSは、野生の猫をイメージした獣型メイトギアである。
ただし、人間に似せて作られる一般的なメイトギアとは違い、外見上もロボットらしいロボットでもある。これは、<軍用の戦闘ロボット>という用途も意識していることで、見た目にも特異性を盛り込んだ結果だった。
要するに、ロボットとしての構造はメイトギアをベースにしつつもその特性はレイバーギアに寄せた結果と言えるだろう。
故に、メイトギアでもなくレイバーギアでもなく<アームドエージェント>という新しいカテゴリのロボットということになるわけだ。
が、いかな軍用の戦闘ロボットとは言え、人間の兵士と一緒にいる時間はランドギアなどよりは長くなると見積もられているので、普段は人間に必要以上の威圧感は与えないようにするために、仕草は猫っぽいそれを意識されている。
だから、オフィスで千堂アリシアと共にいる時には、まるで彼女のペットのように寄り添っていた。
それもあってか、
「カワイイ♡」
という声も上がる。
それについてはアリシアも、
「カワイイですよね♡」
と共感していた。
さりとてまだ社外に出すわけにはいかないので、アリシアの勤務が終わると、
「また明日♡」
若干の名残惜しさはありつつも手を振って彼の待機室に戻っていくのを見送った。
彼もさすがにロボットなので動物のように寂しがったりはしない。何度か振り返って見せたのは、そういう<演出>である。
で、今日の会議に合わせて出張から帰ってきた主人である千堂京一と共に、アリシアは、秘書が運転する自動車に乗って彼の邸宅に帰宅に帰っていく。
その途中、千堂が訊いてきた。
「どうだ? 会社は」
それはまるで、就職したばかりの自分の娘に問い掛けるかのような口ぶりだった。
「はい! 楽しいです!」
アリシアもまるで子供のように笑顔で応えた。しかし、
「そうか。それは良かった。
で、仕事の話で申し訳ないが、楓舞1141-MPSについてはアリシアはどう思う?」
父親の顔からJAPAN-2の役員の顔に戻った千堂の問い掛けに、アリシアも姿勢を正して、
「はい。今のところはすごくフレンドリーでカワイイと思いました」
真面目に応じる。
「うむ。その辺りは私も第一ラボのすることだから心配はしていないんだが、何しろ彼は軍用の戦闘ロボットとして運用されることが前提だからね。明日以降の戦闘テストと普段の切り替えが上手くいくかどうかという部分については慎重に見守らなければと思っている」
千堂のその言葉に、アリシアも、
「そうですね。彼は始めてのアームドエージェントです。前例がないというのはいろいろ大変だというのは、私も覚えがありますから」
と、<心のようなものを持ったロボット>という自身の特殊性も思い浮かべながら応えたのだった。




