楓舞1141-MPS、運用テスト開始される
こうして楓舞1141-MPSは、千堂アリシアの協力の下、実用化に向けてのテストが行われることになった。それは、戦闘はもちろんのこと、それ以外の時間に問題なく人間の傍にいられるかということも含めてのものである。
いくら戦闘力が高くても、味方や一般市民に被害が出ては、軍では使えない。火星での大戦が終結してからは、テロは相変わらず発生しているものの大きな軍事衝突は起こっておらず、軍の装備品に対する世間の目は厳しくなっている。故に軍としても運用するロボットの安全性については慎重に確認する流れになっていた。
JAPAN-2社としてはその辺りを疎かにすることはない。目先の利益を重視するあまり、検査データを改竄したり、そもそも検査をしていないのに検査したと装ったという不祥事で危機に陥った企業の事例も見てきているので、その轍は踏まないということが徹底されている。
それでなくても、先般の副社長派によるクーデターの一件で企業イメージに大きな傷が付いているので、そこに重ねて不正があっては存亡の危機ともなるだろう。
もっとも、JAPAN-2社は、都市<JAPAN-2>そのものでもあるので、それが消えてなくなってしまうということはおそらくない。ただ、他の都市との力関係には大きな影響があり、場合によっては他の都市を構成する同規模の複合企業体の干渉を許し、場合によっては<乗っ取り>のようなことも起こらないとは限らない。事実、大きな不祥事を起こした複合企業体が他の複合企業体の支援を受けた結果、実権を握られて、有名無実の傀儡と化した例もある。
地球の日本にルーツを持ち、仮にも<JAPAN>の名を冠しているからにはそのような形で歴史に幕を下ろすわけにはいかないのだ。
ともあれ、そういった諸々の背景を背負いつつも、
「一緒にがんばりましょう!」
千堂アリシアは自分の脇に控えた楓舞1141-MPSに向かって小さくガッツポーズを決めた。
「……」
獣型ということで基本的には人語を発しない<彼>も、通信によって、
『よろしくお願いします』
とは返してきた。
ちなみに楓舞1141-MPSは男性型のメイトギア用のアルゴリズムを基にして組まれた専用のアルゴリズムNo.Mを搭載し、千堂アリシアのそれを基にして作られた戦闘用アルゴリズムNo.Pを合わせて搭載したS型ボディの機体なので、便宜上、<彼>と呼ぶことにしようと思う。
なお、彼のデザインは猫科の獣である<プーマ>をイメージしているそうだが、言われないとそこまでは分からないので、単に、
<大きな猫っぽいロボット>
と思ってもらえればいいだろう。そういう意味では、虎やライオンほどの威圧感はない感じだろうか。




