千堂京一、エリナ・バーンズに問い掛ける
エリナ・バーンズが口にしたことは、事実だった。確かにクグリは、メイトギアの動きを熟知しており、容易くそれに対処してみせたのだ。
しかし、GJKトラストのゼネラルマネージャー、アレキサンドロ・マカトーニが有するメイトギア、フローリアM9がクグリと対峙した時には、一時的にとはいえ圧倒する瞬間もあった。それは、フローリアM9が千堂アリシアからコピーした、一般のメイトギアが持つものとは系統の異なる体術を用いたからというのが基本的な見解だった。
また、フローリアM9が格闘する直前にクグリと格闘した戦術自衛軍の月城香澄二等陸曹の戦闘データも参考となった。明らかに一般的な女性兵士のそれを大きく上回る体術に、クグリが防戦に回る場面もあったからである。
以上の点から、やはり相手の意表を突くというのは戦術的に意味があるとエリナをはじめとした第一ラボの技術者達は考えたというわけだ。
それに対して千堂京一は、
「なるほど。一理あるかもしれない。ただ、それが意味を成すには、このアームドエージェントなる機体のポテンシャルが従来の要人警護仕様機のそれと同等以上のものでなければならないのではないかね?
現状、このタイプのメイトギアについてはノウハウが十分ではないと、私自身、技術者の端くれとして認識している。ただ相手の意表を突くだけでは、すぐさま対応されてしまう可能性もあると思うのだが?」
とも指摘してきた。
だが、エリナも負けていない。
「ノウハウの蓄積が十分でないことは私ども第一ラボとしても承知しています。ですが、ノウハウというものはまず現物があってテストを重ねて運用して初めて蓄積されていくもののはずです。新しいものにノウハウがないのは当然です。だからこそ私はこれを形にし、そして運用することでブラッシュアップしていくべきと考えます」
真っ直ぐに千堂を見詰め返してそう言った上で、
「つきましては、特別開発チームの千堂アリシア主任に、楓舞1141-MPSの実働テストへの協力をお願いしたいと思います」
と提案した。
すると千堂も、
「うん。確かに彼女の役目はこのアームドエージェントのように特殊な用途のために開発されるメイトギアについてのサポートだ。
いいだろう。千堂アリシアくんに協力してもらい、次のコンペに間に合うように完成度を高めてくれたまえ」
と返した上で、他の役員達に視線を向けて、
「それでよろしいですか?」
とも声を掛けた。
技術的な面についての知識は千堂以上のものを持たない他の役員達は、
「そうですな。千堂氏がそうおっしゃるのでしたら」
まずは了承という結論に至ったのだった。




