エリナ・バーンズ、肩を竦める
しかし、いくら内部で処理をしようと思っても、それに対する答を持たなければ、延々と同じ思考を繰り返すことになる。
今、アリシアの前にいる獣型ロボットはまさにその状態だった。
で、なぜそのようになってしまったかと言うと、
「実は、この子は、近々軍で行われる時期主力レイバーギアのコンペティションに参加予定なの。従来のレイバーギアとは一線を画した画期的な軍用PA、私達はこれを<アームドエージェント>と仮称してるんだけど、それを私達、メイトギア課が開発してるっていう点で、分かるよね?
この子は、メイトギアがベースになってるって。
つまり、<獣型メイトギア>なのよ。
そこで、あなたから得たデータを基にしたアルゴリズムを組んで搭載したんだけど、本来は人型のメイトギア用のそれをベースにしたからか、獣に近い形態を持つことについて<納得>できてないのかもしれないと私達は推測してるんだけど、どうかな…?」
エリナの説明に、アリシアは得心がいったように、
「なるほど」
と顔を上げた。
そんな彼女にエリナが続ける。
「もちろん、私達も人型から獣型への移行ということで想定される問題については慎重に対処は行ったつもり。でも、知ってのとおり、今のAIは非常に高度だから、画面上に表示されるデジタルデータも途方もなく膨大なものになる。
プログラム班が全力でデバッグを行ってるけど、正直、JAPAN-2社のメインフレームに協力してもらっても、現時点では半年掛かるっていう試算も出てる。
それじゃ当然、間に合わない。そこで千堂さんに協力をお願いしたってことね」
エリナの言葉に、アリシアも、
「分かりました。私もできる限りのことはさせていただきます」
二つ返事で応える。
ただし、その上で、
「でも、必ず上手くいくとは申し上げられません。私の力が及ばない場合もあると承知していただけますでしょうか?」
と断りも入れた。
それに対してエリナも、
「もちろんそれは分かってる。これが上手くいかなかったら正直査定にも響くけど、私達だってそういうのは覚悟の上でこの仕事をしてる。むしろその覚悟のない人は開発には関われない。
そういうことだから」
笑みを浮かべてウインクする。
そして彼女の言っていることは事実だった。
JAPAN-2社では、過去に様々な企業が起こしてきた事件の教訓から、自身の仕事に誇りと覚悟を持てない者は重要な部署には配さないということを徹底してきた。
もっとも、それ自体が、メイトギアという非常に優秀なサポート要員を確保できたことで人員的な余裕が生まれたからこそできるものではあったのだが。