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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

REDNUMBER=レッドナンバー=

作者: しゃもじ

レッドナンバー。


それは 絶望の淵に立つものを乗せ、


幸福をもたらすと言われる


赤いナンバープレートを付けたタクシーのことである。


=====================================

「へぇ」

俺は下校途中に読んでいる都市伝説特集の週刊誌をを見て言った。


__そんなタクシーがあるなら、どうしてこう世間では不幸なニュースばっかりやってんだろうな。


俺は朝のニュースで見たいろんな不幸を思い出す。


誘拐。 事故。 殺人事件。 自殺。


たった一日のニュースでもこれだけの不幸がつづられている。

_ま、俺の周りじゃ縁のない話だけど。


俺はそれだけ思うと、まだ文を最後まで読んでいない週刊誌を元のごみ箱へ投げ捨て

再び家路につく。





この時のそんな考えが、今も腹立たしい。

誘拐。 事故。 殺人事件。 自殺。


どれをとっても「()()()()()」だなんて一つもない。


両親が血みどろになった姿を目撃して、俺はようやくそれが分かった。


俺の不幸の場合は殺人事件だそうだ。

この世に絶望した異常者が勝手に家に入り、両親を殺した。

不幸が不幸を呼んだ結果だ。


死体にあった喉の裂傷から、犯人は故意にすぐ殺さなかったらしい。

散々苦しめ、そして殺した。


犯人はその後、自ら命を絶ったらしい。



悔しみ


悲しみ


怒りが、


俺の中をずたずたにしていた。

死んだ相手には、復讐もできない。


この行き場のない気持ちを、どうすればいいのか

俺もわからない。

警察がいろいろな処理をする中、俺は涙も流さず


ただ「()()()()()」なんて思っていた自分を呪った。


俺はその後、適当な親戚に預けられたが

遺産だけもらうと、初めの笑顔が別物になった。


「学費がない」との理由で、俺の猛烈な反対を暴力で無理やり捻じ曲げて高校は中退させられた。

俺は必死で働いたが、給料はもちろん里親に渡った。


「一人暮らしがしたい」

そういっても反対され、

「拾ってやった恩も返せないのか、お前は俺たちの代わりに必死で働きゃそれでいいんだ」

と言われた。

後で知った話だが、この時里親の母のほうは仕事をやめていたらしい。


奴隷に近い扱いで過ごして一年。

俺は家を出た。そして死のうと思う。


里親に隠れて必死にためた数万円をもって、

俺は街に出た。


街灯と建物の光がまぶしい道路を見つめて、

俺は、


__このまま跳び出して、死のう。


そうして、俺は道路に足を踏み込んだ。





「お乗りですか?」


_え


目の前には一台のタクシーが止まっていた。

俺の足はすでに開いたタクシーの扉を通り、車内へと踏み込んでいる。

一瞬戸惑ったが、


_もう、どうでもいい


と思って、そのタクシーに乗った。


「どこまで行きましょうか」

ずっと前を向いて顔が見えない運転手はごく普通の対応で行先を聞く。


_考えてなかったな...


その時唐突に、昔読んだ週刊誌の内容を思いだした。




「......幸福まで」

痛い発言とは思ったが、どうせ死のうと思っているし もういい。


いたずらはやめろと言われると思ったけど

「かしこまりました」

運転手は息をするように返した。


__普通の対応? 


俺は疑問を覚えたが、消えた感情の中にかすかに潜む好奇心に身を任せることにした。

俺が乗ったそのタクシーは、静かに走り出した。


不思議と、落ち着く乗り心地だった。



タクシーが走り始めてしばらく、いつの間にか寝ていた俺は目を覚ました。

「ん...」

気づくとタクシーは止まり、フロントガラスから運転手が見えた。

なぜか顔だけは見えない。


「つきましたか...?」

一度外に出た俺は運転手に聞く。


「いえ、すいませんね。少しエンストを起こしちゃって」

運転手は車のボンネットを上げて何やら作業をしていた。

「少々お時間いただけますか?すぐ直りますから」

運転手は作業をしたまま言う。俺もすこし身体が固まったのでその場で体でも伸ばそうと思った。


「...え」

身体を伸ばすと、

俺はあることに気づいた。


__ここ、学校だ。


タクシーが停まった道路の横には見覚えのある建物があった。

壁にある特徴的な傷。壊れかけの百葉箱。

間違いない、俺が通ってた高校だ。


俺は偶然か必然かわからないその出来事に戸惑ってたが、それよりもおかしな点がある。


__うそだろ、あの町からここまで何百キロ離れてると思ってんだ。


里親の家からここまではだいぶ遠い。普通は新幹線でも何時間かかる。

このタクシー、もしかして本当に


ブロロォン!


「うわ!」

急なエンジン音に俺はその場の思考を全て止めさせられた。

「失礼、直りました。」

運転手は運転席から俺に告げる。


「...はい。」

俺はまた黙って、その妙に乗り心地のいい車内へ入った。




「......」

俺は窓の景色を見回した。

さっきの学校といい、ここには見覚えのある場所が多すぎる。

学校からすぐの雑貨屋、ぼろぼろのカラオケ、ブランコが千切れた公園。


俺は少し不安になってきた。


__今通ってきたところは、俺の登下校の道だ。つまり、この先の目的地って......




「つきました。」


俺の家だ。


タクシーゆっくりとしたブレーキを終えると、乗客席のドアが開いた。

なぜだか怖くて、俺は硬直したままだった。


「っ......」

しばらく黙っていると、

「お客さん。」

運転手が前を向いたまま左手だけを俺に差し出した。


__......あっ、お代か


俺は金額メーターを確認する。

《010708》

頭に0? まいいか一万七百八円か


俺は財布から代金を取り出し、運転手に渡す。


「!......」




俺が降りると、タクシーはすぐさま動き出した。

車の後部を見ると、

赤一色の、プレートがつけられていた。

赤い(レッド)......ナンバー」



俺は代金を払った際に渡された、(かぎ)を見つめる。

特徴的なくぼみ、俺の記憶が正しければ......

いや、あのタクシーが 本物のレッドナンバーなら、


「これでこの扉は開く...」


俺は玄関の前でつぶやいた。


約五分ほど、その場で立ちすくみ


俺は、動き出した。


一歩、一歩。少しずつ、玄関へ近づいて行った。


「......」


(かぎ)を扉に差し込み、時計回りに回す。

この時間は一瞬だったんだろうが、俺には膨大な時間に感じられた。



ッガチャ



(かぎ)は差し込まれたところから、一回転した。

軽い金属音がなり、ドアの開錠を知らせた。


無意識に手がドアノブへと伸びて、少しだけ 力を加える。


「.........ぐっ!!!」


俺はその場で反対方向を向き、


全力疾走で走った。


向かう先は、タクシーが走ったその(あと)



__自分でも、馬鹿なのはわかってる。


  でもあそこで開けちゃ、だめな気がした


  死のうと思ってあそこに行くよりも、


  もっといい行き方があるって思った。


俺はただただ走った。

せめてあのタクシーが何なのか


それを知りたかった。



==================================



「ハアぁっ!ハアぁっ!ハァっ...」

どこまで走ったろうか、

俺の体は限界を迎えた。

全身に疲労。喉の奥から血の味がする。


その場で膝を付き、あきらめの意志が少しだけ見えてしまった。


その時だ


「...っ!」


ライトだ。


俺の視界に小さな赤い点が目に入った。


間違いない。あのタクシーのだ


「っ!...があああああ!」

俺はガタガタになった足を回した。


走って、走って。その小さな赤い光を追った。



=======================

何時間たっただろうか、


「ハアぁっ!...ハアぁっ!ガホッ!ハァっ」

俺はタクシーの前にまでたどり着いた。


「.........ご利用、 ではなさそうですね」


息は切れ、足に疲労がたまり、もう立っているのが精いっぱいだ。


「お...お前は、何なんだ...ハァっ、人の家の鍵持ってたり...

数百キロはある此処まで数時間できたり......ガはっ」


「......」

後ろを向き、やはり顔だけが見えない運転手は黙り込んでいた。

俺は切れた息の中、運転手を問い詰めた。


「死のうと思うような絶望の淵に立った俺の前に現れたこと...

ハアぁっ...メーターで出た0が頭にくる不自然な表示...語呂合わせで読めば

010708(レッドナンバー)になる......


そして何より...ガホッ...このタクシーの、赤いナンバー...


答えろよ! お前はいったい何なんだ!!」


叫びに近い問いを放ち、数秒の沈黙が起こった。


少し顔を上げて、空を見上げている運転手は...静かに喋りだす。


「......私はただの、

 

 タクシー運転手です。

 

 それ以外の、何者でもありません」


それだけ答えると、また運転手は黙り込んだ。

当然、その答えは俺の求める答えではない。


「ああそうだ! だが俺が聞きたいのは、お前が一体どんな奴なのかだ!」

俺はまた、叫ぶ。求める答えが返ってくるまで、そう続けるつもりだった。



運転手は俺の問いに微動だにせず、腕時計を見る


「...申し訳ありませんが、このタクシーは夜間営業です。

 そろそろ失礼しなければいけません。」


運転手は白みがかった空を見ていった。


「おい、待てよ! まだ話は  

 っ!?」


朝日に照らされた運転手とタクシーが、光を通す。


__透けてる...


透け始めた運転手は、口調を変えて


俺に言った。


「お前が、

 あの扉を開ずにここまで来たのなら、


 お前には...立ち上がる強さがある。」


「っ!!」


タクシーと共に、朝日を通している運転手は、聞き覚えのある声を発し


静かに振り返った。


懐かしいような、その微笑みに 俺は目を疑った。



「父......さん」




=====================================


俺は気が付くと、もと居た道路で寝ていた。


一度は死を決意したが


俺の心は吹っ切れていた。


戻ろう。


里親と本気で相談して、


一人暮らしを始めよう。


殴られようと、罵声を浴びさせられようと


絶対にあきらめないでいよう。


レッドナンバー(父さん)が送ってくれた


幸福まで、


あと少しだ。




俺は日が昇り始めたばかりの人気のない道路から立ち上がって


走り始めた。


父さんから受け取った


(かぎ)を握って。



レッドナンバー。


それは 絶望の淵に立つものを乗せ、


幸福をもたらすと言われる


赤いナンバープレートを付けたタクシーのことである。



だが、彼らの仕事は幸福まで導くことではない。


幸福までの旅に、背中を押すだけだ。



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