異世界女子会 〜三人の若妻が旦那についてダベる〜
ヴァルナス共和国の都市シュテルストス。
ここは「自然と科学と魔法の街」を標語とする、モーテ平野に広がる大きな街である。
シュテルストスの中心街から少し離れたところに、『喫茶フライハイト』という喫茶店がある。落ち着いた雰囲気の隠れ家的な喫茶店で、この店はマスターが1人で切り盛りしているためテーブル席は3つしかない。
その中の一番奥の座席に、1人の若い女が本を読みながら座っていた。彼女の名前はコナユキ。長いストレートの黒髪、シルバーの細縁メガネ、水色のワンピースの、深窓の令嬢といった出で立ちだ。年齢は22歳。彼女はシュテルストス中央神聖図書館の司書だが、今日は有給休暇で休みをとってこの喫茶店に来ていた。
彼女は読んでいる本を横に置きホットコーヒーを一口飲んだ後、チラッと腕時計を見た。2時59分。この店に来てからもう10分も経つ。そろそろ待ち合わせの相手が来る時間だ。左薬指につけた指輪を触りながら喫茶店の入り口を見ていると、カランカランというベルの音とともに新しい客が入ってきた。
入ってきたのは、亜麻色のショートヘアーにビシッとしたスーツの女だった。彼女の名前はアティア。年齢は25歳。コナユキの待ち合わせの相手の1人である。
「さすがアティアさん。時間ピッタリですね」
「コナユキ、久しぶり! 元気してた?」
「私は……まぁまぁです。アティアさんは今日も仕事してたのですか?」
「見たとおり、午前は仕事よ。午後有給とるだけでも大変だったんだから」
アティアはため息混じりで答えた。彼女はシュテルストスに本社を置く商社『株式会社シーボア』で秘書として働いている、バリバリのキャリアウーマンだ。シーボアは来月からシャブシェ王国からの魔導素材輸入を始めるため、今は会社全体が多忙な状態だ。
「タフトさんも忙しいんですか?」
「聞いてない? あいつは先週からシャブシェ王国に出張だよ。帰ってくるのは再来週」
「え゛、いつの間に……」
「あいつ、教え忘れたな! 自分の妻に予定くらいちゃんと教えとけよ、もう」
タフトはアティアと同じシーボアで働く商社マンであり、コナユキの夫でもある。年齢は31歳。コナユキとタフトは9歳違う年の差婚だが、この国では珍しいことではなかった。
「そういえばコナユキ、あんたまだタフトのこと『さん付け』で呼んでんだね」
「え、だって……タフトさんって『タフトさん』って感じですから、つい……。あ、アティアさんも何か頼んだらいいですよ」
コナユキは話題を変えたそうに、アティアにメニューを押し付けた。アティアはやれやれといった顔でメニューを受け取りレモンジティーを注文した(レモンジはレモンとオレンジの中間のような果物である)。コナユキも追加で2杯目のホットコーヒーを頼む。
ヒゲをはやしたダンディなマスターが注文を受け焙煎したコーヒー豆を挽こうとしたとたん、店内の暖炉からススがモワッっと湧き出てきた。狭い喫茶店にススが広がり、アティアとコナユキがゲホゲホとむせた。そしてドタン、バタンと音をたてながら、暖炉の中から人が現れた。
「ハイン!!」
アティアとコナユキの2人は一緒に暖炉に向かって怒鳴った。暖炉の煙突から入ってくる人なんて、最後の待ち合わせ相手のハインしか居ないからだ。
「待たせたなっ! ハインちゃん参上!」
「参上、じゃない!」
「アティ姉、そんなに怒らないでよ~。アタシもこの入り方はちょっとミスったかなって反省してるんだから」
琥珀色のミドルヘアにススと泥で汚れたTシャツとジーンズの少女。彼女の名はハイン。年齢は20歳。職業はこの世界でも珍しいトレジャーハンターだ。
「あ、でもでも、丁度いいものがあるんだよ」
ハインは背中のリュックをおろし、中からカタツムリのような形の銀色の器具を出した。コナユキはメガネのズレを戻してもみあげの髪を耳にかけ、興味深々でその器具を見つめた。
「キジヴンの殻ですね。キジヴンはガルガ王国に生息する生き物で、風をおこして飛ぶという生態を持ち、その殻は魔導を与えると小さなゴミを収集するという特性がある、と本で見たことが有ります」
「ごめいさつ! さっすがユキ姉だね。というわけで、この殻でススを吸い込んじゃいまーす」
ハインが魔導具を床に向けコツッと叩くと、ブイィンと音を立てながら喫茶店に散ったススを吸い込み始めた。だが、次第に音が小さくなり、そのうち止まってしまった。
「ありゃ、魔導不足だ。アティ姉頼む」
「なんであんたの不始末を私がしなくちゃならんのだ」
「え、じゃあこのまま!? ススが散ったままで飲食!?」
「……今回だけだからね。あ、あんたらあっち向きなさいよ。私、魔導込めてる時の顔を見られるの嫌なの知ってるでしょ」
アティはしぶしぶ魔導具をハインから受け取った。この3人の中で一番魔導力が高いのがアティなので、アティが魔導を込めるのは順当な流れだった。アティが魔導を込め終わると、魔導具がほんのり光った。魔導が充填できた証拠だ。
「よっしゃぁ! ミスの後始末はアタシの十八番!」
「そんなもの十八番にしなくていいですよ……」と、コナユキがすかさずツッコむ。
「それとアティ姉、あと2つあるからヨロシク」
そう言ってハインはリュックから同じ魔導具を2つ取り出した。アティアはため息をしながら、仕方ないと言った感じでその魔導具に魔導を込めた。
魔道具のおかげで、数分で喫茶店は綺麗になった。マスターはその間にレモンジティーとコーヒーを入れ直していて、掃除し終わった3人がテーブルにつくと同時にそれらを持ってきた。トレイからテーブルにカップを移しながら、マスターが3人に話しかけてきた。
「お掃除ありがとうございます、珍しい魔道具を見れてよかったです」
「いえいえ、コイツが変な事をしなかったら掃除する必要もなかったので、むしろ叱ってやってください」と、アティアがハインを指差しながら言った。
「ハハハ。つかぬことを伺いますが、ひょっとしてあなたがた3人は姉妹妻ですか?」
「そうなんですよ」「はい、その通りです」「ごめいさつ!」
マスターの質問にアティア、コナユキ、ハインの3人は同時に答えた。
この世界の人間は、男女比が1対3である。そのためこの世界の多くの国では1人の男が3人の妻を持つということが普通とされている。ヴァルナス共和国でも、法律で男は3人の女と結婚するよう推奨されている。
アティア、コナユキ、ハインは3人とも同じ男と結婚した仲なのである。このような関係を、この世界では『姉妹妻』と呼んだ。
「姉妹妻は仲が悪いってよく言われますけど、あなた方は仲が良さそうですね。羨ましいです」
「そう見えます? ありがとうございます」
店長とアティアの会話を、コナユキとハインがじと~っと見る。そんな目線など意に介さないかのようにアティアはメニュー表をハインにつきつけた。
「はい、ハインも何か頼むでしょ」
「じゃあアタシはレモンジジュースで」
「かしこまりました」
店長はメニュー表を持って店の奥へ去っていった。それを見てから、アティアは他の2人の方を向き、会話を仕切り始めた。
「本題に入りましょう。今日集まってもらったのは知っての通り、来月のタフトさんの誕生日の計画を立てるためです」
「えっと……、タフトさんは来月で32歳でしたっけ?」と、コナユキがアティアに聞く。
「そう、あのタフトももう32だよ。去年は誕生日にスーツ送って、一昨年は……本だっけ?」
「ユキ姉がチョイスしたやつ」
「私が選んだ本でしたね。あの本はクラム・トラッヘによって書かれた事実を元にしたフィクションで、その主人公ガーマルク・セバンティックの生き様がまさにタフトさんの……」
「だああぁぁ! コナユキ、ストップ! あんたのその話は長くなる」
「……すみません」
「一昨年がユキ姉で去年がアティ姉のチョイスだったし、今年はアタシが選ぶかなぁ」
「えっ……ハインが選ぶの?」と、アティアが一瞬引きつった顔をして言った。
「まあアタシが一番長いことタフトと付き合ってるわけだし、アタシが一番タフトの事をわかってるしね」
アティアとコナユキは、このセリフにピクッと反応した。年齢はアティア、コナユキ、ハインの順だが、結婚した順序はハイン、コナユキ、アティアの順なので、ハインが一番長く付き合っているというのは事実ではある。問題はその後の『一番タフトの事をわかってる』というセリフだ。
「たしかに付き合いは長いよね。付き合いは」と、アティアは落ち着いた声で言った。
「その『タフトさんの事をよくわかってらっしゃる』ハインちゃんは、何を送るつもりなんでしょうか」と、コナユキも平静を装いつつ言う。
「うーん、そうだなぁ。よく靴下に穴開けてるし靴下でも贈るかなぁ」
「靴下なら私が先月、結婚記念日に買いましたよ。おそろいで」
「ユキ姉、それマジ?」
「はい、まじ。ハインちゃんはたまにしかタフトさんに会えないので、最近のタフトさんについて把握できてなさそうですね」
「そ、そうかもだけどぉ……」
「ご注文のレモンジジュースです」
ちょうど会話が途切れたところで、店長がレモンジジュースを持ってきた。コナユキは少し勝ち誇った顔でコーヒーをクイッと飲み、ハインはぐぬぬ……といった顔でレモンジジュースを飲んだ。
「やっぱりさ、今年は誰かが決めるんじゃなくて3人で話し合って決めない?」
「私はアティアさんの意見に賛成します」
「えー、うーん、じゃあアティ姉からアイデアどうぞ」
「そうだなぁ。誕生日プレゼントではないけど、そろそろ家とか欲しいよね。4人で暮らせるやつ」
「家ですか。アティアさん、でっかく来ましたね」
「そう、今ハイン以外みんな別居してるでしょ。姉妹妻同居って最近流行ってるらしいし」
「あぁ、それ私もちょっと気になっています。ちょっと怖いですけどね」
「それは超同意~。アティ姉とユキ姉が同居とか怖い」
「いやいや、ハインとコナユキが同居ってことの方が想像できないでしょ」
「私はアティアさんとハインちゃんが喧嘩しそうで怖いって言ったつもりだったんですけど……」
沈黙。
「ところで4人暮らせる家が欲しいってアティアさん言いましたけど、子供を産むことを考えたらもうちょっと大きくないとダメじゃないでしょうか?」と、コナユキが沈黙を破った。
「ああ、そうだねぇ。子供は欲しいよね」と、アティアが返す。
「アタシもお母さんになりたい!」
「ちょっと待て、ハイン。子供を産むためには何をすればいいか、知ってるのか?」
「アティ姉、アタシのことバカにしてる? もう20だよ、それくらい知ってるって。タフトさんとセック――」
「だああぁぁ! ハイン、ストップ! 知ってるならいいんだ、知ってるなら」
「ちなみにハインちゃん、もう子供を産む準備とかしてますか?」
「そ、それはぁ……なんといいますか……」
ハインが言葉を濁すので、コナユキは興味ありげに肘をテーブルの上に乗せた。アティアも身を乗り出して聞く。
「アタシ、タフトと12も歳が違うじゃん? さらにアタシって子供っぽいとこあるじゃん? だからタフトに大人の女として見られてなくて……」
「4年も一緒の家に夫婦として住んでるのに、一度もヤッたこと無いの?」
アティアの質問に、ハインはためらいながら「うん」と頷いて答えた。アティアは「あちゃぁー」と言いながら、顔に手を当てのけぞった。コナユキはプッと笑いを漏らした。
「あ、ユキ姉! 今 笑ったな!」
「だって、フフッ、タフトさんらしくてカワイイなぁって」
「ユキ姉だって、いつ子供を産むのさ。もう結婚して2年でしょ」
「私は、えっと……産めないんです」
「ええ!?」「はぁ!?」とハインとアティアが同時に言った。
「コナユキ、病気か何かだったの? 知らなかった……」
「い、いえいえ、そんなんじゃなくてですね……私、タフトさんと一緒に横になると、すぐ眠ってしまうんです」
アティアとハインはそれを聞いてぽかーんとした。コナユキは顔を赤くしてうつむく。
「ユキ姉、それマジ?」
「はい、まじ」
「2年間ずっと?」
「はい、ずっと」
ハインはどう反応したらいいか分からず、目線がフラフラしだした。ここでアティアがコナユキの真意を察したようにポンっと膝を打った。
「コナユキ、それあれでしょ。子供を生みたくないから寝たフリしてるだけなんでしょ」
「そ、そんなことないです!」
「そうだよねぇ、アンタ図書館の仕事大好きだもんねぇ。妊娠して子供出来たりしたら、その間仕事出来なくなっちゃうもんねぇ」
「ななな、なに言ってるんですがアティアさんは。言いがかりにもほどがありますよ! わたしはそんな事考えてないですし、むしろ私だってタフトさんと出来なくて悔しく思ってるくらいですし、そんな旦那より仕事を優先しちゃうような女じゃないですし、そそそそうですね今度からはもっとコーヒーを飲んで眠気を飛ばしてみようかなあ!」
そう言いながらコナユキはごまかすためにコーヒーを飲もうとカップに手を伸ばしたが、手がぷるぷる震えてカップの持ち手に指をうまく通せなかった。コナユキは嘘がバレると手が震えるクセがあることを2人は知っていた。
「ユキ姉のこれは言い訳モードに入ってますな。アティ姉ごめいさつ」
「図星だったかぁ。まぁでも、コナユキの気持ちは分からなくはないよ。私も仕事優先したいし子供産む気だってないんだよね」
「へ?」と、コナユキが間の抜けた声を出した。
「そもそもさ、私にとってタフトって仕事仲間って感じだし結婚もなぁなぁで結婚したし、異性として見てない所があるんだよねぇ」
「えぇー、アティ姉が最初に子供を産んでくれると思ってたのに」
「それを言ったら私だって、コナユキはもうすでに妊娠しててもおかしくないと思ってたぞ」
「これはハインちゃんが子供を産むって流れでしょうか?」
「きゃっか! アタシも今はトレジャーハントが楽しくって仕方がないし、みんなの話を聞いたら子供が欲しいって気が無くなりました。アティ姉かユキ姉が産んでください。以上!」
「私はヤダよ。タフトとはビジネスな関係なんだ、そういう恋愛はコナユキがやったらいい」
「なに勝手に決めてるんですか! 私はタフトさんのことは好きですし愛してますけど、子供とか仕事できなくなるとかはまた別の話です!」
3人とも言いたいことを言うだけ言ってから手元の飲み物を飲もうとしたが、すでにどれも中身が空になっていた。
「「「おかわり!」」」
店長はおそるおそる近づいてきて、メニューをとった。
「とにかく、3人とも仕事したいから子供を産みたくない、それでいいな」と、アティアが話をまとめた。
「それでいいです」「いろんなし」とコナユキとハインは同意した。
「じゃあちょっと待てよ、ハインはタフトとヤッたこと無いんだよな?」
「ないよ」
「で、コナユキも?」
「無いです」
「アタシも無い。ってことは、もしかしてタフトって実はまだドウテ――」
「そこは禁欲的とか非肉体的恋愛主義と言ってあげてください!」と、コナユキが大声で言った。
「タフトったら、32歳既婚で童貞かぁ。昔っから性欲薄かったからなぁ」と、ハインがしみじみと言った。
「今度の誕生日、タフトにあんたらの処女を捧げるとかどうよ?」
「さっすがアティ姉だね。そんなゲスくて下品な発想はとても真似できない」
「あちゃぁー、お子ちゃまにはまだ早いか」
「そうだね~。タフト以外の男で処女捨てたアティ姉と違って、アタシはまだピュアで若いって事だね~」
ハインのセリフをアティアは「ハハハ」と笑い飛ばしたが、明らかに心の中では笑っていない笑いだった。
「ご注文の品です」
店長がおかわりのレモンジティーとコーヒーとレモンジジュースを持ってきた。
「アティアさんの案は却下するとして、誕生日プレゼントはどうしましょう」と、コナユキが切り出した。
「タフトは昔っから旅行が好きだし、旅行でもプレゼントする?」と、ハイン。
「旅行ねぇ……タフトのスケジュールは私が決めてるから、日程はどうとでもなる。悪くないかも」と、アティアも同意する。
「問題は行き先と、誰が一緒に行くか、ですね」
コナユキがそう言った途端、3人とも口が止まった。お互いに牽制の目線を送り合う。最初に口を開いたのはハインだった。
「アティ姉もユキ姉も仕事が忙しいんじゃない? アタシの仕事はフリーだから好きなときに休めるし、アタシが一緒に行くのがベストだと思う」
「はぁ? タフトのスケジュールも私のスケジュールも私が管理してるんだから、私が都合が合わせられないわけ無いじゃない。姉として私がタフトの面倒を見ます」
「え~、アティ姉はタフトとビジネスな関係って言ったじゃん。休みの旅行に仕事の気持ちなんて持って行きたくないでしょ」
「でもハインと2人で旅行となると、タフトがしんどいでしょ。ハインの面倒見なくちゃいけないから」
「アタシは結婚前からタフトと何度も旅行してるのに? しんどいわけないじゃん」
「でもそうしたら、タフトさんはハインちゃんとの旅行は飽きてるんじゃないですか? 気分転換の旅行なら私が一緒に居るほうが良いんじゃないでしょうか」
「ユキ姉こそ仕事が忙しくて無理じゃない? 図書館なんて休みの日の方が忙しいんでしょ」
「図書館だって有給休暇くらいあります! むしろ有休が余ってて困ってるくらいです」
「やっぱ4人で行こう、4人で。それなら文句ないだろ」
アティアの意見にコナユキとハインは反論しようとしたが、2人とも良い返しが思いつかなかった。
「4人旅行で良いと思います」と、コナユキが渋々納得した。
「はい、じゃあ次は行き先ね。グラスメアで温泉とかどう?」と、アティアが提案する
「温泉! 行きたい」と、ハインが跳ねるように喜んだ。
「グラスメアって遠くないですか? 行くだけで2日かかりますよね?」と、首をかしげながらコナユキが聞く。
「どうせ来月からもタフトは忙しいし、旅行は3ヶ月くらい後になるでしょ。その頃にはアレが開通する」
「あぁ、魔導列車!」
アティアの言葉で納得したように、コナユキが手をパンと叩いて言った。魔導列車とは魔導で線路の上を走る列車で、馬車より速い移動手段として数年前に発明されたものだ。それが3ヶ月後にはシュテルストスまで開通すると予定されている。
「魔導列車を使えばグラスメアまで半日で行けるはず。2泊3日で温泉を堪能できるはずだよ」
「へぇ、アタシ魔導列車って乗ったことないや」
「ハインちゃんが仕事で行く先ってだいたい僻地ですもんね……。魔導列車で温泉旅行4人旅。アハ、楽しそうです」
「よっしゃ。じゃあ今年の誕生日プレゼントはこれで決定ね。タフトの予定は私がどうにかしておくよ」
そう言ってアティアは鞄からメモ帳を取り出し『旅行の予定を組む』と書いた。
「では私はグラスメアの名所や特産を調べておきますね」と、コナユキも張り切る。
「んじゃアタシは、トレジャーハンター仲間にグラスメア出身の人が居るし、良い宿とか良い店を知らないか聞いておくよ」
「了解。あぁー、決まって良かったぁ」と、アティアが背伸びしながら言った。
その時、カランカラン、と喫茶店の入り口にかけられたベルがなった。別の客が来たのだ。「いらっしゃいませ」と言って店長が対応を始める。
「この後どうしますか?」と、コナユキが2人に聞く。
「アタシは特に用事も無いし、このままここで駄弁るだけでも良いよ」
「じゃあ、私いちど行ってみたかった雑貨屋があるんだけど、一緒に来てくれる? 1人だと入りづらくて」
「アティアさん、基本的にスーツですもんね……。私は良いですよ、ハインちゃんは?」
「アタシも行く!」
「じゃあ行こうか。店長さん、会計!」と、アティアが店長を呼ぶ。
「私はコーヒー3杯なのでこれだけ」
そう言ってコナユキが財布からお金を出そうとするのを、アティアが止める。
「いや、私が出すよ」
「出させてください。私が一番飲んでるんですし。ハインちゃんも出しますか?」
「あ、アタシは財布の中が今空っぽだから。アティ姉ヨロシク!」
「ほら、コナユキも私に奢られなよ」
コナユキは不服そうに財布を閉じた。アティアが店長に代金を渡し、3人は一緒に座席から立ち上がった。
「じゃあ、後でアクセサリー屋でも奢らせちゃいますよ」
「そいつは勘弁してくれ」
「さぁ、トレジャーハンターの腕がなるぞ! 一番アティ姉の好みなアクセサリーを見つけてやるもんね」
「よろしく頼むよ」
「私の好みのも探してくれますか?」
「値段がどうなっても知らないよ」
「大丈夫です。アティアさんがおごってくれるはず」
「こらこら、勘弁って言っただろ」
そして、3人は喫茶店を後にした。
異世界女子会、楽しめたでしょうか?
あらすじに書いたとおり、オチも何もないただダベるだけの話でした。世界観や雰囲気をほんのり感じ取れるように書けたつもりです。
三人の会話を書くのは、やはり難しいですね。問題なく読めたでしょうか?
ご意見や感想を頂けると、今後の励みになります。