第一章7 『変遷の彩り』
遅れましたすいません……(やっぱ一人称は短文ばっかり活用してるから目標文字数まで届かず、必然的に遅くなる)←だって説明文が少ないんだもの(まぁそれが長所でもあるんだけどね?)
まぁとりあえず、近いうちに次話を出せる……はずです(不安しかない)←有言実行できない人間(故に無言実行を心掛ける)
眩しい日差し。雀の囀る声。
伏せた頭を起こし、目を擦れば、朝だという実感が湧く。
「―――」
寝ぼけ眼ながらに、現状を再確認するため昨日のことを思い出す。
さりげなく、働ききらない頭で。
「……っ」
起こる頭痛。思い出したくないものを思い出した、最悪の気分。
ふとパソコンへと目を移せば、スリープ状態の画面が一つ。
どこまで打ったのかと見て見れば、まだ全然……いや、上々のペースだった。
2年ぶりの自分にとっては、だけど――。
「……」
いつも通りの朝。いつも通りの日常。
違うことがあるとすれば――、
カーテンを開いた矢先、彼女と目が合い、今までのことが全部、都合のいい夢ではなく現実であるということ。
笑顔を向けてくれる彼女を見ながら、平然を装った愛想笑いを浮かべ、僕は逃げ去るように自室を後にする。
過去を振り返ったせいか、全部が全部、夢ではなかったのかと思わされるほど錯覚している。
凄く、堕落した気分。
下へと降りてみれば、暗闇の広がる風景があり、これは現実なのだと実感する。
いつも通りなら、ここで悲しみに暮れていた。
けれど今は、その複雑さ故か不思議と涙は出なかった。
「よし……」
寝起きの一杯。顔を洗って目を覚ます。
朝ご飯を食べ、支度する。やることはいつも一緒。
「行ってきます」
家族へのあいさつ。そして迎える見慣れた日射し。
僕はそこに頬を綻ばせながら玄関を後にする。
「おはよう」
「うん、おはよう」
家の前へと出ればすぐ、彼女と出会う。
偶然のような必然。
僕はそこに喜びを感じている。
出逢って3日目の今日。
僕らの日常は、今日も当たり前のように過ぎていく。
※
「おっす」
「ああ」
学校へ着いてしばらく、ふと教室にて話し掛けてくるトモ。
僕の顔をジーっと見つめては口元を緩ませる。
「なんかいいことでもあった?」
「え?いや、特には……」
「そっか」
「……?」
意味深な笑みを浮かべるトモ。
その視線が隣へと移され、そこに疑問符を浮かべていた僕は、それを追うようにして隣の席にいる彼女へと視線を移す。
相変わらずクラスの女子たちと仲良く会話を弾ませている彼女。
そのことに気を取られていれば、トモがまたこちらを見ながら微笑していた。
「何?」
「いんや?何でもねーよ」
「……」
屈託のない笑み。
心なしか、いつもより表情が綻んでいる気がする。
そんな風な笑顔を向けられるも、悪い気はしなかった。
※
時間は経ち、数学の授業。
黒板に書かれる文字をある程度写すと、暇になってか空を仰ぐ。
なんとなく眺めていれば、隣からツンツンと突かれるような感覚がした。
そしてそれは案の定、彼女のものだった。
「ん……?」
授業中のため小声で反応すれば、彼女はノートに文字を並べていた。
『小説、どこまで進んだ?』
「あー……」
その文章に目を泳がせ、思い出しながら考える。
昨日の記憶は嫌なもので、あまり覚えてはいない。
今朝軽くチェックしたが、正確には見ていない。
けれど確かと、大体の数字を思い出し、ノートへと記載する。
『1万文字くらい?』
「そ……」
安堵するような微笑。
この秘密の会話に僕は嬉しく思うも、ふと気づいたことをノートに書き記した。
『その問題、間違ってるよ』
「へ……?」
ノートを凝視する君。
すると調度、「青木、この問題解いてみろ」という先生の指示があり、君はあたふたと立ち上がる。
そこに僕はクスリと微笑を浮かべ、困り気な君にノートを貸してあげる。
さすがに間違ったまま黒板へ向かわせるのは、気づいた身として見過ごせなかったから。
「お~、正解だ。さすがだな」
「は、はい……ありがとうございます」
複雑そうな苦笑い。
そこに僕は、秘かに笑いこけてしまう。
君の、悔しそうで助かったという矛盾に囚われた表情が、たまらなくおかしかったから。
※
移動教室、理科にて。
君と二人やってきた理科室だというのに、席の配置はバラバラで。
4人班を作って受ける授業は、トモと一緒ではあるものの、彼女と離れ離れになってしまったことに少し違和感を覚えてしまう。
授業中、彼女へと視線を向ければ、何やら嬉しそうにペンを動かしているし、自然と彼女を目で追っていることにも不思議に思う。
僕はほんと、どうしてしまったんだろうね――。
「お前、変わったな」
「え?」
ノートを執りながら、聞こえるは隣にいるトモの声。
呟かれた言葉に内心、覚えが無いわけでもない。
――でも、
「そう?」
自分でもわからないことだから、何のことかと確かめるように問い返してしまう。
「ああ。なんていうか、明るくなった」
またも見る今朝の笑顔。
その嬉しそうな理由が今になってわかった気がした。
「きっと、彼女のおかげだな」
感慨深そうに瞳を閉じるトモ。
そこに僕も同意する。
「うん――」
たった3日。されど3日。
僕の心は、彼女との思い出で埋め尽くされている。
「お前、青木のこと好きだろ?」
「へ?」
不意な質問。
同様の念を抱くも、「どうだろう……」とお茶を濁す。
だってほんとに、わからないことだったから。
――でも、
「嫌いじゃない、かな?」
確かに彼女のことは好き。心惹かれる時もある。
けれど僕には、こんな経験は初めてで、こんな気持ちも初めてで。
――だから、
「嫌いじゃない、ねぇ……」
呆れながらに笑みを溢すトモ。
気づけば授業は、実験のために皆立ち上がっていて、僕らも席を立ったのだが、僕の胸を友の拳が軽く小突いた。
「大事にしろよ」
何もかもわかっているような顔。
それでも、トモの言葉に対し、『何を』とは言わなかった。
伏せられた言葉の意味。
僕は軽く頷いて、微笑した。
それ以上の言動は、この場では蛇足だと思ったから。
※
時間はあっという間に過ぎて、放課後。
彼女から呼び出しがあり、来た美術室。
やっぱり今日も誰もいない。
いつもなら心密かに寂しさを感じていた。
でも今は、この静寂が少し、愛おしく思えて仕方がなかった。
――だって、
「おまたせー」
この教室で、僕はもう一人ではなかったから。
「待った?」
「ううん。今さっき来たとこ」
恋人同士の会話。
僕らはそんな関係ではないけれど、待ち合わせをしていた故に連想させられる。
そこに君は、二ヤリと頬を緩ませる。
「定番 (のセリフ)だね」
「でも、ほんとのことだから仕方がない」
言って気づいた僕の落ち度。
嘘ではないため、言い訳のしようもない。
「それで?今日は何をするの?」
気恥ずかしさを誤魔化すため、僕は話題を変更する。
それはここへ来た目的を問うた言葉。
聞かされていない理由。
君は僕を呼び出してまで、何をしようというのだろう。
僕がここへ来ても、意味はないというのに。
「ふっふっふー」
「……?」
怪しげな笑い方。
また良からぬことを考えてるようにしか思えない。
「じゃーん!」
けれどそれは、僕の勘違いに終わった。
――何故なら、
「これ……」
見開かれるノート。
そこにあったのは、シャーペンで描かれたラフ画。
荒い線のようで女の子故の繊細さが表れている。
紛れもない、僕の作品のイラスト。
「どう?どうどうどう?」
覗き込むようなドヤ顔。
僕はそれに見向きもせず、ただひたすらに彼女の絵に見惚れる。
「……」
言葉を失った反応。
声を出そうにも、口が開いたまま動かない。
だって、これは――、
「もしもーし?」
ありえない……明らかに絵のクオリティが上がっている。
写生大会でしか彼女の絵は見たことはない。
けど、彼女の絵は、異常な早さで上達している。
それは確かな、信じられない事実で――、
「ねぇねぇ」
「……ん?」
背後からの声。
気づけば、目の前に彼女はいなくて、後ろへと振り向こうとしたのだが、彼女の指がチョコンと頬を突いた。
「ふふ、引っかかった」
「……」
「ん?どうかした?」
「……いや、何でもない」
さり気ない悪戯。揺さぶられる心。上がる心拍数。
顔が徐々に熱くなっていくのを感じる。
それ故に自然と、彼女から目を逸らしてしまう。
そこに何度も、『動揺するな』と、自分に言い聞かせながら。
「それで?感想は?」
自信ありげな顔。嬉しそうな君。
気まずくも横目で眺める僕に、君はいつも通りで。
ほんと、こちらの気持ちなど知りもしないで。
「……」
もう一度、彼女の絵へと目を通す僕。
やっぱり、何度見ても圧倒される。
見た瞬間に広がる、自分がそこに立っているのではないかと錯覚させられるほどの世界観。
絵を見ただけで、その世界の景色が脳裏に焼き付けられる。
鉄棒に座った少女。僕の作品のヒロイン。
風に靡く長髪。その視線の先に広がるは、彼らの住む町。
主人公である僕が、街を眺める彼女をそっと見つめている。
そんな光景が一目でわかるイラスト。
こんな感覚は初めてで、見る度に唖然とする。
彼女は、天才だった――。
「……凄いと思う」
「そう?」
「うん……」
納得のいく話。
そのたった一言で、全てが片づけられる。
諦めのような一言。
「どこが凄い?」
しんとした空気。
春の日差しが射し込むこの部屋に冷たい風が入り込む。
もうすぐ5月だというのに。
「こんな上達が早いんだって、驚いた」
「ふふん♪人は成長するのです」
満足気な君。
見るからに天狗になっているのがわかる。
その姿が僕には微笑ましい。
「ラフ画でこんなに想像を掻き立てる絵は初めて見た」
「そうでしょうそうでしょう」
素直な感想。
告げ終えて思う事があるとすれば、
「でも大丈夫?あと1週間でもう1枚描かないといけないんだよ?」
締め切りを守れるかどうかの心配で。
でもそんなのは、
「まっかせーなさーい。カラーは半日あればできるし、モノクロなら一瞬だよ」
「そうなんだ」
僕の杞憂に終わった。
――はずだった。
「君はどうなの?」
「僕?」
「間に合いそう?」
「……」
まさかの返し。当然と言えば当然の。
よくよく考えてみれば、心配している場合ではないのは確かで、
「……わからない」
僕はそう、答えるしかなかった。
「明日明後日は休日だから、フルで使えばなんとかなりそうではあるけど……」
残り1週間。運が良いのか悪いのか。
次の日は休日のため、まだ可能性はある。
結構なハードスケジュールだけど……。
「え?え?」
「ん?」
戸惑い気味の君。
どういうわけかオロオロしている。
「明日って……」
信じられないような反応。
「土曜日、だね」
「……」
問われたことに当たり前のように答えると、君は驚愕の表情を浮かべている。
――そして、
少しのフリーズをした後、君は唐突にも声を上げる。
「明日明後日は仕事場に集合っ!」
「え……」
急な申し出。
僕は驚き気味にも後ずさりして、
「いい!?わかったっ!?」
「う、うん」
僕は強引な君に微笑する。
指を差し、睨みつけられるその瞳には何かしらの覚悟があって、赤らめた頬とその本当の意味を知る由もなく、勘違いしながら。
ころころ変わる君の表情は見ていて飽きないなと、呑気な想いを胸にして――。
「さて、それじゃあ仕事場行こうか」
「え、今日も行くの!?」
「当たり前でしょー!ただでさえ時間足りないんだからっ!」
「そうだけど……」
誰のせいだよ……まったく……。
「なにー?何か文句あるわけ?」
「いや、流れ的に今日はここで解散だと思っただけ……」
「そんなわけないでしょ、もう。ほら、さっさと行くよ!」
「わ、わかったから。引っ張らないで……っ」
また、手を取り、走り出す君。
美術室を飛び出した瞬間、
「わぁっ!?」
中尾の悲鳴が鳴り響いた。
「あ、詠美ちゃん!」
「唯ちゃん?」
走り去りながらの会話。
振り返ろうとするも、僕は掴まれた腕を解けず流し目する。
「ちょっと間遠君借りるね!」
「え、う、うん……」
戸惑い気味の中尾。それもそうだろう。
こんな光景を見せられれば、誰だって驚く。
正直、僕自身ついていけてないのだから。
でもほんと、悪くはないと思ってしまうのは何故だろう。
「―――」
微笑する僕。
この時、中尾が複雑そうな顔でこちらを眺めていることに、僕は気づかずにいた――。
――目標へと向かい、変わっていく日常。
僕の心は、彼女色に染められる――