5.猫、森の主に怯えられる
一応は週に1回出せたらなぁ…と考えてます。
「…かなりやばくないか…?これ…」
俺は、少し土煙が晴れ、はっきり見えるようになってきている遠くまで続く抉れた地面を見つめながら呟いた。
確かにルーヴァを蹴って後ろに飛ぶために力を入れて蹴った。ただ、いくら力を入れて蹴ったとはいえ、感覚的には3.4割程度の力で蹴ったつもりだ。
何せ、体がほぼ反射的に動いていたとはいえ、全力で振った手から飛んだ水が固いと言われる木を余裕で貫通する程の力を秘めた体なのだ。もしまた全力で、しかも直接攻撃したのなら、どうなるか分からない。しかもその対象が生物であるのだから尚更恐ろしい。
なので、動きを余裕で捉えられるというアドバンテージを生かし、一瞬の判断で力を抑えて蹴ったのだが…これは…また…なんとまぁ…。
抉れて一本の道のようになっている抉れた地面の先。そこには崖があった。恐らくほとんどが石でできた切り立った崖が。ただ、その崖には巨大な、某国民的アニメのドラゴンな玉の戦闘シーンでよく出てくる様なクレーターが出来ていた。
…ってこんなこと考えてる場合じゃない!
俺は全力で地面を蹴ってクレーターの方へと駆け出す。何だか走ったときの景色の流れ方が新幹線に乗っている時のようだ。…もう、この体には突っ込まないぞ…。
こうして、距離は凡そ100メートル。時間にして一秒と経たずしてクレーターの真下へとたどり着いた。
あんな勢いで蹴ってしまって…果たしてルーヴァは無事なのだろうか…?正直この体になる前の俺ならば一瞬で挽き肉だろう。いや、欠片すら残るか怪しいものだが…。
そんな思考をなんとか放り出し、瓦礫の中にルーヴァが埋もれていないかを隈なく捜す。あの巨体だ、意識せずともすぐに見つかると思うが…。
すると、案の定ルーヴァは見つかった。但し、体の3分の2ほどが瓦礫に埋まった状態で。
と、兎にも角にも瓦礫から出さなければ!
そう思い、先ずは、とルーヴァを覆い隠す瓦礫の中で、最も大きい瓦礫に手をかけ、力を入れて投げ飛ばす。ドガア!!と音を立てて盛大に瓦礫が宙を舞い、森へと消えていく。
俺は暫く無言で、かつ丁寧を特に心がけて瓦礫をどかし続けた。
◇◆◇◆◇◆◇
一分ほど経ち、埋まっていたルーヴァを何とか掘り出すことに成功した。因みにルーヴァは、俺のあの殺人キックをまともに喰らって無傷だった。見たところ大量に土埃や小石等が付いていてぼろぼろに見えるが、一切の傷はない。
何らかの能力の力だろうか……?
何にしても無事で良かった…。
少し気になったので鑑定で調べてみると、恐らく助かった要因であろう能力を見つけた。
=== ===
『強靭』
自身が死亡するような一撃を受けた場合、2秒間あらゆるダメージを無効化する障壁を張る。ただし、このスキルが発動した直後に2分間意識を失い、尚且つ1度発動したら24時間は発動しない。
=== ===
だから無傷だったのか……いや待て、無敵が2秒間なのに無傷ということは…俺が蹴ってこの崖にぶつかるまでに2秒かからなかったってことなのか…。
一応先に手を出してきたのはこいつだが…。
俺は派手なクレーターの出来上がった崖を見た。
流石にこれは過剰防衛の域を超えている様な気がする。というか確実に超えている。やばい。
たまたまルーヴァが特別な能力を持っていたから良かったものの、普通ならば即死だろう…。
本当に力の使い方を考えねば何が起こるか最早わかったものではない。
と、そんなことを考えていた時
「……ぐるぅ……」
一応瓦礫の上から木陰へと運んでおいたルーヴァが欠伸じみた呻き声をあげ、体を起こした。
「……?……」
ルーヴァは寝起きがいい方ではないのか、先程までの鋭い眼光の欠片もなく、微睡んでいる瞳で辺りを見回している。良かった。特に体に異常は無さそうだ。
そして、辺りを見回している内に、ふとルーヴァと目が合った。
刹那、ルーヴァが凄まじい気迫を纏った。
…やっぱり、また飛び掛ってくるのか…!?
ルーヴァが鋭い気迫を纏い、その巨大な口を開いた。
俺はその動作に対して身構える、が、
「許して下さい魔王様ぁぁぁあ!!!」
「………は?」
凄まじい気迫を纏った、謝罪に度肝を抜かれ、ため息のような声が俺から漏れる。
…というか、魔王様!?俺は違うって否定したはずなんだが!?
だが俺の考えている事などルーヴァが知る訳もない。
ルーヴァは謝罪の叫びを続ける。
「奴隷にでも下僕にでも!何なら椅子にでもなりますから命だけは!命だけは……!!」
『伏せ』の体勢で泣き声のように謝ってくる。
というか、口調変わってない!?
と、取り敢えず誤解を解かねば……。
「俺は別に魔王なんかじゃ無いんですが……」
「そんな!僕みたいな犬にそんな話し方は必要ありません!魔王様、どうか、どうかお許しを……」
「いや、だから魔王じゃないって…」
「どうか…どうか……」
「いや…だから……話を……」
駄目だこの狼さっきもだったけど話聞いてくんない。
「と、取り敢えず魔王云々は置いといてなんでも許すから!まず落ち着いて!」
「あ、ありがとうございます…ありがとうございます…」
より一層伏せの深さを高める。何かもう伏せというよりうつ伏せで寝ているように見えてきた。
それから叫びすぎて息切れを起こしているルーヴァが落ち着くのを待って、話し始める。
「…取り敢えず、落ち着いたか?」
「は、はい!魔王様のお手を煩わせてしまって申し訳ないです……」
先程の凄まじい気迫を纏った謝罪と違い、幾分かしおらしく、ルーヴァは答えた。
「あー……ええと、何から聞いていいものやら…」
「魔王様の頼みならなんでも答えます!だから命だけは……」
「いや命を取ろうなんて思ってないって。落ち着いて…」
「は、はい!」
まず本当に誤解を解かなければ話が全く進まないだろう。
「それと、さっきも言ったけど魔王なんてものじゃない。俺はヴァイス。多分ただの猫だ」
「た、多分……ですか……?」
正直自分が普通な猫の自覚なんて無い。絶対普通じゃない。こんな猫が普通ならば世界はとっくに滅んでる。
「取り敢えず、魔王じゃないってことは分かってもらいたい」
「わ、分かりました!」
そう言い、ぺたぁ…と少し起き上がっていた体を付せの体勢にする。
あれ?これ、話が全然進みそうにないんだけど……?
自分で考えておきながら話が進むか分からなくなってきました。誤字脱字、意味不明な文等ご指摘いただけると非常にありがたいです。