1.死亡
初投稿です。
仕事から帰り、家の扉を開け、家の中へ入る。
荷物の片付けもほどほどに、冷蔵庫からビールの缶を取ると、ソファにドカッと腰掛ける。もうかれこれ15年以上も繰り返している事であり、何だかんだと習慣になりつつある事だ。まぁ、酒はそこまで得意でなく、呑むのは休みの前程度なのだが。
ともあれ、また一週間が終わり、愛しの休日がやって来る事に対して大きな幸せを感じつつ、プシュッと小切れの良い音を立て、ビールの缶を開ける。
開いたビールの缶から出た、麦酒特有の苦味を含む良い香りが心地良い。
缶に口をつけ、ぐいっと一気にビールを喉へと流し込む。
「ぷはっ………」
そんな幸せを噛み締めつつ、幸福感に浸っていると、ふと違和感を感じた。
(あれ?来ない…?)
俺は、元々動物好きなのもあってか、独り暮らしを始めたばかりの若い頃、自宅アパートの隣に死んでいるのでは、と思えるほど衰弱していた一匹の子猫を見つけた。独り暮らしの寂しさもあり、多少生活が苦しくなるものの、どうしても放っておくことができず、その猫を飼う事に決めた。
「タマー?どこだー?」
ありふれた名前ではあるが、俺はその猫を「タマ」と名付けて、可愛がっていた。タマはとても人懐っこく、かなり食い意地のはった性格の猫で、俺が家に帰ってソファに腰掛けていると、ほぼ必ず、遊んで欲しい、冷蔵庫の中にある少し高めの餌が欲しい、という言葉が、今にでも聞こえそうな表情をして、俺の膝の上に乗ってきていた。
俺はビールの缶を小さな一人用テーブルに置き、
タマを探す事にした。
探す事10数秒。
「あぁ、寝てたのか…でも珍しいな、いつもなら速攻で起きて俺に突撃してくるのに…」
見れば、俺のベットで、俺の枕に寄りかかる形で、ぴくりとも動かずぐっすりと寝ていた。
…タマが嫌がるかもしれないが、我慢できずに、寝ているタマを抱き上げた。
実際よく寝ているタマを抱き上げてフシャァー!、と怒られた(?)事はよくあった。
当然いつもの様にそうなると思っていた。
───だが、タマは俺に抱き上げられても、鳴き声を上げることもなく、動くこともなく、
そして、小動物特有の暖かさを感じることも無かった。
◇◆◇◆◇◆◇
少し雨が降った後の肌寒い夜。俺は、外を歩いていた。
別段、用事が会ったわけでは無い。強いて言えば、
少し夜風に当たって落ち着きたいなと考えただけだ。
タマも、既に12歳で、今年でもう13になろうという、かなり年のいった猫だった。
猫にしてはとても長生きだったはずだ。
既に、両親も、祖父母も他界した身であるから、
多少なりとも悲しみに慣れているかとは思ったが、
当たり前だがそんな訳もなく。
死、というものの悲しさをつくづく考えさせられた。
……なんだかんだと一人暮らしを始めてからの10年以上を共に暮らしてきた猫だった。
当然、悲しくないわけがない。
「はぁぁ………」
意図せず大きなため息が漏れる。
と、そんな悲しみを感じていた時、あるものを視界の端に捉えた。
10mほど先から迫るトラックと、地面に何か気になるものでもあるのか、地面に釘付けの猫。
「……ッ!!!」
気が付けば、俺は猫めがけ、道路に飛び出していた。
若かりし頃の身体であれば、猫を抱えたまま、
反対側の歩道まで渡れたのかもしれない。
だが、生憎と今の俺のような三十路後半、四十路目前のおっさんではもう無理だ。
急いで猫を抱き上げ、反対側まで乱暴ながらも投げるのが限界。寧ろ、我ながらよくそこまで動けたものだ。
「ミニャァッ!?」
と、投げられた猫が反対側の歩道に着地し、驚きの混ざった悲鳴を上げたと同時。
「……がっ…………」
──俺の意識は、今にもと迫るトラックによって刈り取られた。
次で転生する予定です。