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腹が決まってちょっと真面目になったかも

本日二回目の更新です。

 閻魔はロレッタを連れてその肉屋に足を運ぶ。

 もう色々吹っ切れたような気持ちになっていた。

 とにかく、ここはゲームの世界ではない。

 ゲームによく似た違う世界なのだ。

 幸い、閻魔が持っていたものはホームも含めて全て揃っているようだ。

 しばらくは生活に困ることはないだろう。

 何よりこの世界で死なないようにしなくてはならない。

 さっきナービスに聞いた通り、この世界では蘇生呪文はあっても使い手が少ないらしい。

 ヤドラだって気を抜けば殺されてしまうかもしれないモンスターなのだ。

 そう考えると、ロレッタの足の速さは相当なものなのだろう。

 ヤドラと戦わずにアースドラゴンの卵を取って来ようと思うくらいなのだ。

「おじさん、ここだよ。お肉屋さん」

「お、おう。すみません」

「はいよ。何が欲しいんだい?」

「いえ、買い取りってできるのかなって」

「何をだい?」

「ヤドラ一頭分なんですけど」

「なんだって? 一頭分か? 普通はその場で解体して一部だけしか持って来ないものだからなぁ」

 肉屋の店主はそう答える。

「丸々って買い取れませんか?」

「いや、あるなら売って欲しい、いや、買い取らせてくれたら助かるよ」

「どこに出しましょうか?」

「……こっち来てくれるかい?」

 店主は半信半疑のようだった。

 店の横にあるドアが開くと、店主は二人を招き入れる。

「ここに置いてくれるかな、ってこれから持ってくるのかい?」

 閻魔はその場にしゃがんで手をかざすと。

「えっと、ヤドラ」

 どすん

 体長二メートルはあるヤドラがその場に現れる。

「な、なんだい、無限持ちだったのか……」

「無限持ち?」

「あぁ、ごくたまにいるんだよ。無限に入るストレージ持ちがね」

「(なるほど、でもおかしいな。重量制限はあったはずなんだけど、ま、いっか)あははは」

「これなら一〇ゴルド、いや、二〇ゴルドでいいなら買い取るけど、どうだい?」

「んー、相場はわからないけど、おやっさんを信じて、それでいいかな? 騙したら怒るよ?」

「いやいやいや、これだけのものを持ってきてくれるんだ。またお願いしたいくらいだよ。小口だといい部位が取れないことが多くてね。助かるんだ」

「じゃ、それで」

「はいよ、二〇ゴルドね。また頼むよ」

「あぁ、また捕れたら来るよ」

 ぽかーんとしているロレッタを連れて店から出る。

「お、おじさん」

「ん?」

「二〇ゴルドって大金じゃないの?」

「そっかな。これ全部ナービスさんに寄付するつもりだけど」

「えっ? うそぉ……」

 パン屋のおばちゃんのおかげで、二〇ゴルドが二十万円ほどの価値があることは知っていた。

 ただ、ホームに帰ればこれ以上というか、腐るくらいゴルド金貨があるのだ。

 若干金銭感覚がおかしい閻魔だが、別に惜しいとは思っていない。

 無駄遣いするよりはマシなのだから。

「俺がヤドラをあっさり倒したの知ってるでしょ?」

「そういえば、おじさん強いもんね……」

「あとは、栄養のあるものを適当に買ってか。ロレッタちゃん。何がいいかな?」

「うんっと、ケーキ」

 凄くいい笑顔だった。

 この辺の物怖じしない感じは閻魔は好きだった。

「あのねぇ。まぁいいけど。あとは消化のいいものを作ってもらった方がいいか」

 もちろんゲーム時代にケーキや米など、結構多彩な食材があるのは知っている。

 昨晩閻魔が飲んだビールやミルクセーキがあるくらいなのだから不思議ではない。

 閻魔はケーキを何種類か包んでもらって孤児院へ戻っていった。

「ナービス先生、ただいまー」

「あら、閻魔様、ロレッタもお帰りなさい」

「あの、閻魔様ってやめてもらえませんか?」

「すみません、では、閻魔さんで、よろしいですか?」

「はい、それでお願いします。何だか罪人裁かないといけいない気分になるので」

「……よくわかりませんが、わかりました」

「あと、手を出してください」

「はい?」

 ロレッタはにまーっと笑う。

 不思議そうにナービスは、両手を閻魔の前に差し出した。

 その手の上にじゃらじゃらとゴルド金貨が置かれた。

「これ、寄付ですから。気にしないで使ってくださいね」

「えっ? うそっ。こ、こんなにいいのですか?」

「これでチロルちゃんに消化のいいものを食べさせてあげてください。それとこれお土産です」

「えっ、これ、ケーキですか?」

「はい。ロレッタが食べたいって言ったので」

「ロレッタ……、ありがとう」

 恥ずかしそうにお礼を言うナービス。

 きっと食べたかったのだろうと閻魔は思った。

「閻魔さん、私共には何もお返しすることはできません。どうしたらよろしいでしょうか?」

「んー、そうだな。ロレッタに身体で返してもらおうかな」

「うん、おじさん、なんでもやるよ」

「これ、ロレッタ。言われてる意味がわかってるのですか? ロレッタはまだ子供なんです。私が代わりに、その、身体で──」

「この町の反対側にある、俺の店で店番してもらうからね、ロレッタ」

「うん。みせばんー」

「えっ? あっ、その。しゅみましぇん……」

 さらに真っ赤になって噛み噛みになってしまうナービス。

 それを言うなら労働で返せだろう、閻魔。


 後から聞いた話だが、寄付は一月に一ゴルド集まればいい方だという話だった。

 一年分以上の寄付が集まってしまったのだから驚いたのだろう。

 ナービスは化粧を全くしていないが、なかなかの美人さんだ。

 ロレッタもチロルも可愛らしいと思っている。

 そんな人たちの役にたつのなら、寄付はいくらしても構わないと思っていた。

「閻魔さんのお店ってどのあたりにあるのでしょうか?」

「うん、と。ここからなら、丁度反対側にあるんだけど、閻魔大王って店知らない?」

「えっ? あの、有名な鍛冶屋さんではないですか」

「そんなに有名かな」

「はい、話には聞きます。鍛冶屋なのに売れない銃しか置いてないという……、あっ、すみません」

「いいんだ。趣味でやってる店なんだから(ちょっと悲しいなんて言えない)」

「あー、あのコロッケパンの美味しいおばちゃんのいる店のとなりー」

「そうそう。よく知ってたね」

「うん。月に一度だけ買ってもらえるから」

「これ、ロレッタ……。本当にすみません、私がいけないのです、貧乏がいけないんです……」

「でもなんでそんなに?」

「はい、話すと長くなるのですが──」

 実はナービスは正式なシスターではないらしい。

 ナービスの亡くなった母親がシスターで、ナービスがシスターになる前に亡くなったのだそうだ。

 それ以来、近所の人たちの善意でなんとか暮らしていけてるそうなのだ。

「無理にこの孤児院をやらなくてもいいんじゃないですか?」

「そうなのですが、母の大切にしていたところですので……」

「うーむ。正式なシスターじゃないと教会の支援も受けられないわけですね」

「はい、お恥ずかしい限りです」

「なら仕方がない。俺が支援します」

「えっ?」

「そんな冷たい教会なんてぽいしちゃってください。俺がなんとかします」

「えっ? えっ?」

「ロレッタちゃん、銀行どっちだっけ?」

「こっちだよー」

「ちょっと失礼。連れてって、こっちはあまり詳しくないんだ(ホームの近くもだけどね)」

「うんっ」

「あの、閻魔さん、それってどういう?」

 ちょっと暴走気味な、閻魔。


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