やっと異世界だと認識する
主人公が異世界だと認識します。
とにかくナービスは頭を下げたまま上げようとしなかった。
ロレッタはきょとんとしたまま、交互にナービスと閻魔を見ていた。
「えっ? あたし変なこと言っちゃった?」
「いや、別に変なことじゃないと思うけど。それにさっき死んじゃったらどうとか、言ってましたよね? あれってリザレクトをかけたら復活できるでしょ?」
「いえ、難しいと思います。この世界にも数人しかそこまで高位の回復魔法を使える魔導士様はいないと聞いていますし。もしお願いできたとしても、一生かけても支払いきれない寄進が必要になります」
「えっ? そんな設定なかったと思ったけど……。デスゲーム化したのかもしかして。運営さん酷すぎるだろう……」
「ですげーむ? うんえいさん? 閻魔おじさん、何それ?」
「あれ? ロレッタちゃんってプレイヤーだろう? 運営さん知らないのか?」
「ぷれいやー? うんえいさんって知らないよ」
「ちょっと待てよ、だったら俺以外全員NPCかよ……。それにしちゃ、この人間みたいな受け答えもおかしいだろう。AIにしては全能すぎる。こんな十八禁展開になりそうなVRMMOなんてあるわけが……」
「えぬぴーしーって?」
「あの、閻魔様。大丈夫ですか?」
ここでやっと一つの疑問が浮かび上がる。
「あ……、可能性があった。まさか」
「まさか?」
ロレッタはくるくる変わる閻魔の表情が面白かったのだろう。
同じように真似をしてくる。
「これ、リアルなんじゃないか? ゲームじゃなく、異世界転移じゃないのか? うっそだろう、酷でぇよ。それは考えなかったわ。……ちょっとナービスさん失礼なこと聞いていいですか?」
「落ち着いてください。お世話になりましたのでなんでも言ってください」
「あの、ですね。ナービスさんは、おしっこしますか?」
「は?」
何を言っているのか解らなくて当たり前だろう。
若い女性に聞く質問じゃないのだから。
「ですから、トイレでおしっこしますか?」
ナービスは修道衣の太腿の部分を両手できゅっと握って、顔を赤らめながら恥ずかしそうに答える。
「……はい、約束したのでお答えいたします。……おしっこ、しますよ。生理現象ですから」
「うっ」
「う?」
ロレッタが首を傾げていた。
「うっそだろぉおおおおおっ!」
なんと、閻魔は綺麗なナービスが閻魔の質問を肯定したおかげで、やっと自分が異世界に転移した事実を認識できたのだった。
閻魔は両手をポケットに入れて前かがみになってしまった。
「閻魔様、その。どうかされたのですか?」
「いえ、ちょっと、個人的な……。(ナービスさんが恥ずかしがってるの見て興奮しちゃったなんて言えませんって)それより、さっきは本当にすみませんでした。あんな酷いことを聞いてしまって。俺、どうかしちゃってたのかもしれません。ほんと、ごめんなさい。すみませんでした。許してください」
「いいえ、恥ずかしかったですけど大丈夫です。お気になさらないでください」
「閻魔おじさん、どうしたの? ここが痛いの? よしよし……」
ロレッタは閻魔の前にしゃがんで、見上げてにまっと笑う。
ズボンの上から閻魔の股間を優しく擦っていた。
「ちょ、女の子がそんなことしちゃいけません!」
「だって、こんな風になってるの始めて見たし、なんか腫れてて辛そうだったから……」
そう言いながらもまだ擦り続けている。
「ロレッタ、そ、そこは男性の大事なところだから、触っちゃいけませんっ」
ナービスは手で顔を覆っていたが、指の隙間からしっかりと閻魔の股間を見ていたようだ。
「大事なところなら、余計心配じゃない。よしよし……」
「やめて、それ以上刺激したら大変な事になっちゃうからっ」
後ずさりながらロレッタの手から逃げようとしたとき、後ろにあったヤドラに引っかかって倒れてしまった。
ごつっ
閻魔はしたたか頭を打って気絶してしまう。
何やら顔の右半分が気持ちいい。
後頭部を撫でられているようにも思える。
物凄い悪夢を見ていたようだった。
夢から覚めたような清々しい朝が。
「来るわけねぇよな……」
「あ、閻魔おじさん、大丈夫?」
閻魔の目の前には犬耳ロレッタの逆さまの顔が見える。
悪夢は終わっていなかったのだ。
「ロレッタちゃんか。この気持ちいい膝枕は」
「うん、あたしだよ。頭ぶつけたみたいだからね、ずっと擦ってあげてたんだよ」
「あーうん。ありがとう。それとすっごいところに顔が乗ってるような気がするんだけど」
寝ているところはベッドの上らしいが、困ったことにロレッタの生足の上に顔を乗せているのだ。
「うん、あたしの太腿だよ。気持ちいいでしょ? チロルちゃんもね、いつも気持ちいいって言ってくれるのよ」
「うん、俺はロリコンじゃない。大丈夫、大丈夫……」
「ろりこん? なにそれ?」
「うん。君みたいな可愛い少女にね、変な気を起す人たちのことを言うんだ」
「えっ? あたし、少女じゃないよ。一八歳だし。今年成人したのよ?」
「それでも俺より一二歳下じゃないかーっ!」
そう、閻魔は今年三十歳になったのだ。
童貞じゃないから魔法使いにはならなかったのだが、ここではさっき魔導士と言われていた。
「あ、閻魔おじさん、三十歳なんだ」
「その閻魔おじさんってやめてくれないかな」
「んー、じゃ、おじさん」
「もういいです」
なによりその、ぴっちぴちの一八歳である犬耳ロレッタの太腿に、閻魔の唇がくっついているのだ。
これはもうやばい。
一八歳だと、ストライクゾーンに入ってしまう。
一生懸命素数を数えるようにする。
それでもこの感触には負けてしまう。
「(そうだ。ロレッタちゃんはおっぱいが残念だから子供だと思うことにしよう)うん、そうしよう」
そう自分に言い聞かせてちょっと残念だが、身体を起すことにした。
よく見るとロレッタのしっぽが左右にぶんぶんと振れていた。
確か、犬は機嫌がいいとしっぽを振ることがあったはず。
「あ、もう痛くないの?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとうね。ところで、ロレッタちゃん機嫌良さそうだね?」
「よくわかったね、おじさん。チロルちゃんの具合がよくなったからねー」
「そっか、それはよかったよ。あ、そういえばヤドラはどうした?」
「うん。あのまま」
「おいおい。腐ったりしないよな……」
明るい方が出口だと思い、そっちに歩いて行く閻魔。
それにしっぽふりふりついてくるロレッタ。
思った通り、チロルが寝ていたベッドの横にヤドラが横たわっていた。
「うぁ、とりあえずこれなんとかしないとな。どっか買い取ってくれるとこあるかな?」
「んー、ナービス先生に聞いてくるね」
とりあえず、ヤドラに触って格納してみた。
あっさりその場から消えて一安心。
チロルの顔を見ると、具合の悪そうな感じはもうないみたいだ。
静かな寝息を立てている。
「そういえばここ、孤児院って言ってたよな」
「はい。そうですね。気が付かれたようで安心しました」
ロレッタがナービスを連れてこちらへやってきた。
「ここには三人だけなんですか?」
「はい、恥ずかしい話、資金不足でですね、その」
「ってことは、ロレッタちゃんも?」
「そうだよおじさん。あたしもここで育ててもらったんだよ」
「ところでナービスさん」
「はい」
「この孤児院の運営ってどうやってるんですか?」
「はい。ご近所の皆さまから、たまにいただける寄付だけでなんとかやりくりしてきました……」
確かヤドラの肉は、塩と一緒に焼くだけでヤドラステーキという料理になったはず。
それならば買い取る店もあるだろう。
「もちろん、足りてないんですよね? チロルちゃんの薬を買えなかったみたいですし」
「はい、お恥ずかしい話……」
「さっきのヤドラを買い取ってくれる場所ってありますか?」
「そうですね、ここから一〇件ほど先に肉屋さんがありますので、そこであれば」
「よし、ロレッタちゃんついておいで。あれを売って美味しいものを買ってこようか」
「うん」
「いいのですか?」
「いいんですよ。弾三発分なので、微々たるものですから」
ヤドラが腐る前でよかったな、閻魔。
これ以降はお下品な表現は減ると思います。
いろいろごめんなさい。