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堂に入った演技と演出

本日三回目の更新です。

「ごめんなさい。卵返すから。あたし美味しくないからぁあああ!」

 前を走っている女の子が叫んでいる。

 閻魔は少し横にずれて、ヤドラに照準を合わせる。

「右に避けろ!」

「はぃいいいっ」

 閻魔の声を聞いた女の子は進路を変えた。

「よしっ」

 閻魔は引き金を連続して引いた。

 ドンドンドン

 射出された弾丸がヤドラの頭部に直撃する。

 ギィイイイ

 どさっ

 ヤドラはその場に崩れ落ちる。

「ちょっと撃ち過ぎたか? 弾もったいね。ってか、卵盗んできたのかよ、そりゃ追いかけられるわ。なんつイベントだよ、それともPCか? それにしちゃ知らなすぎるだろう……」

 仕留めたヤドラの近くに寄ると、意外なことが起きているのが解った。

「あれ? ルートできね。どうやるんだ? これ。まさかハンモンみたいに自分で剥ぎ取るとか新しいシステムにしたのかよ。めんどくせぇな……」

 そのとき閻魔の右肩をつんつんと突かれた。

「あのぉ……」

「ん? お前なぁ、卵盗んだら追いかけられて当たり前だろうが。ギルドとかで教わらなかったのかよ? まったく。倒せないなら無茶なことするんじゃねぇよ」

「助けてくれてありがとうございました。あたし、ロレッタって言います」

「あ? どうせ中の人は男じゃねぇのか?」

「中の人? 男? あたしこう見えても女の子ですけど……。あ、胸を見ましたね。どうせ小さいですよ……」

「ありゃ、ネカマじゃないのか。たしかにおっぱいは残念に見えるけど。それにしてもPCなんだろう? ギルドとかで教わっておけよな」

「ぴーしー? っていうか、残念って酷いですよ……」

「えっ? じゃ、NPCかよ?」

「えぬぴーしー?」

「あくまでもロールプレイを通すってわけね、おっけ、付き合ったる。ちょっと待ってくれるかな。これどうにかしなきゃならないから。このままインベントリに入れることできるのかな……」

 銃をホルスターに収めると、ポーチに右手で触って左手をヤドラの身体に触った瞬間。

 目の前からヤドラが消えた。

「お、格納できたっぽいな。よし、お前さん、いや、ロレッタって言ったっけ? どこから来たんだ? 送ってやるからさ」

「あ、あの、ミルカラベースですけど」

「あー、俺のホームのある町か。同じマップだったからそうだと思ったんだよね」

 ベースというのは、MMOだったときに死んだら復活するときに登録する場所のことだった。

 閻魔のプレイヤーズホームからは歩くと少し離れてはいるが、それほど遠くはない。

 ミルカラというのはこの国の名前。

 そこの城下町の外れにベースがあるのだ。

 閻魔のホームとは反対側だからベースに飛んだ方が早いだろう。

「まっぷ? いえ、地図は持ってないですけど」

「なんのこっちゃ? とにかくミルカラベースに戻ればいいんだろ? 卵は必要数とれたの?」

「はい。これ一個で足ります」

「んじゃ、戻ろっか。えっと。テレポートゲート〔ミルカラベース〕」

 すると閻魔の前に高さ二メートルくらいの青い鳥居のような物体が出現する。

「えっ? うそ?」

「ほい。移動するよ」

 閻魔はロレッタの背中を押してゲートの中へ押し出した。

「えっ? えっ?」


 ゲートをくぐるとミルカラの町に移動できた。

 二人がゲートからでたとき、ゲートは自然と消えていった。

「んで? どっちいくんだ? アースドラゴンの卵は高価なものだから、持ってるだけでPKされちゃたまんないだろう?」

「ぴーけー?」

「PKも知らんのか。ほんっと、初心者みたいだな」

 ロレッタは閻魔の服の裾を掴んで引っ張った。

「あの、こっちです」

「そっか、じゃ、いこっか」

 閻魔がついていくと、そこは教会のような建物だった。

 ロレッタをよく見ると、頭には犬の耳。

 スカートから穴が開いていて、そこからふさふさのしっぽが出ている。

 ゲームでは、モフリーという種族の中でも、人気のない犬型だった。

 機嫌がいいのか、それともそういう動作をしているのか。

 左右にふりふりとしっぽが動いている。

 可愛らしいお尻を左右に揺らしながら。

「ロレッタ!」

 協会の中からシスターの恰好をした女性が、ロレッタの名前を大声で呼びながら小走りに走ってくる。

「あ、ナービス先生。ほら、ドラタマとってきたよ」

 シスターの恰好をした女性はロレッタを抱きしめる。

「馬鹿っ! そんな危険なことして、怪我でも。死んじゃったらどうするのよ!」

「ごめんなさい。でもこれ食べたらチロルちゃん元気になるんでしょ?」

「(あれ? シスターの装備セットってあったっけ? それにしてもおっぱい大きいなこの人)」 ロレッタがPC、いわゆるプレイヤーだと思っている閻魔は、さすがに声には出せなかった。

「大丈夫、逃げ足だけは自信あるから」

「馬鹿ね、ドラタマはね薬じゃないのよ。栄養はつくと思うけど。あら? この方は?」

「うん、あたしね、このおじさんに助けてもらったの」

「おじさんって、確かにそうだけど。そんなストレートに言われてもなぁ……」

 ナービスと呼ばれた女性は閻魔を見ると、深々と頭を下げた。

「初めまして、私ナービスと申します。この度は私が経営する孤児院の子、ロレッタを助けていただいてありがとうございます。大したお礼はできませんが、中にお入りいただけますか?」

「あぁ、別に忙しくないからいいですよ」

「おじさん。いこっ」

「あのなぁ、俺、閻魔って名前あるんだけど」

「閻魔、おじさん?」

「はいはい」

 案内された教会の奥には孤児院が併設されているようだった。

「すみませんね。貧乏な孤児院なので、大したお構いができませんが」

 お茶を出してくれるナービス。

「いえ、大丈夫ですよ(様になってるロールプレイだな。これはこれで面白いわ)」

「ナービス先生。チロルちゃん、まだ具合悪いの?」

「そうね。朝からお熱がねとても高いのよ」

「えっ? それくらいなら回復魔法でちょいちょいと治らないんですか?」

「いえ……。私の孤児院では、そんな高位の神官様が使うような魔法をかけてもらうことはできないのです」

「(ユーザイベントみたいなものか?)俺、回復魔法取ってないからな、ならポーションでいけるか? チロルちゃん、でしたっけ。その子のところに連れていってもらえますか?」

「はい、こちらです」


 奥には孤児たちの部屋があるようだ。

 そこには小さなベッドに十歳くらいの女の子が、辛そうに脂汗を流しながら寝ていた。

 演技にしては堂に入りすぎている。

 チロルだけがNPCなんだろうか。

「すみません、コップありますか?」

「はい、今お持ちします」

 ナービスからコップを受け取ると、閻魔はポーチからヒールポーションを取り出す。

 閻魔はダメージを負うと、ヒールポーションをがぶ飲みして凌ぐタイプだったからインベントリにかなりの本数をストックしていたのだ。

 コップに少しだけ中身を入れて、指先でちょっと舐めてみる。

「うん、甘いシロップみたいなんだな、こっちでは。これならいいか。ナービスさん、チロルちゃんに飲ませてあげてもらえますか?」

「そ、そんな高価なもの、よろしいんですか?」

「いいんですよ。いつも湯水のように使ってる消耗品ですから」

 ナービスは遠慮がちにコップを受け取ると、チロルを抱き起してゆっくりと飲ませる。

「はい、チロル、お薬もらったのよ。ゆっくり飲んでみてね」

「うん、ありがと……」

 チロルはこくこくと喉を鳴らしながら、少しづつ飲み込んでいく。

 するとどうだろう。

 さっきまで脂汗をかきながら、顔色の悪かったチロルの表情が穏やかになっていった。

「あ、苦しくないです……」

「よかった。チロル、よかったわ……」

「(演技が凄いな。ここまでやるなんて、演出としても大したもんだわ)薬が効いてきたんですね、きっと」

「はい、ありがとうございます。でも、私共のような貧乏な修道院では、その、お返しするものがないんです」

「あぁ、それなら、これ換金すればそこそこのお金になるんじゃないかな」

 閻魔はポーチに手を突っ込み、インベントリからヤドラを取り出して下に置いた。

 ずんっ

「えっ? これ、閻魔様が仕留められたのですか?」

「閻魔様だなんて、そんな地獄の沙汰も金次第、みたいな。ぷぷぷぷ、久しぶりに呼ばれたな」

「うん、凄かったのよ。閻魔おじさん、銃でどんどんって倒しちゃったの」

「えっ? 銃って……、ガンナーをされてる方がまだいらっしゃったのですか?」

「そりゃコストが高いからやる人少ないけど、そんなにいないのかな……」

「それにね、こう。門みたいのを出してね、あたしが半日かけて走ったとこから、ぎゅーんってあっという間にここに着いちゃったのよ。びっくりしたぁ」

「えぇえええっ。空間魔法を使われたって、そんな高位の魔導士様だったのですか……」

「えっ? 高位って、そんなことないでしょ。それに俺、魔導士じゃなく鍛冶屋兼ガンナーなんだけど」

 ちょっと困ってる、閻魔。


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