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試し撃ちに行ったら、何か来た

本日二回目の更新です。


 あれから少し時間が経って、やっと股間のたぎりが薄れた頃。

 ぐぅううう

 コロッケパン一個では腹が減るのだろう。

 仕方なく金庫から金貨を数枚ポケットに入れて隣の店に行くことにした。

「お姉さん。このカツサンド一個ちょうだい」

「おや、閻魔さんじゃないか。やめておくれよ、こんなおばちゃんをお姉さんだなんて。仕方ないね、おまけしてあげるよ。一個二シルバね」

「これでいいのかな? シルバなんて単位あったっけ……」

「はいよ、九八シルバのお返し。まったく、ゴルドで安い買い物なんて嫌味になるからやめておくんだよ?」

 じゃらっと九八枚の銀貨を渡される。

「えっ? 何これ?」

「えっ? じゃないよ。お釣りだよ。ほらあったかいうちに食べてしまいな」

「うん。ありがと」

 カツサンドなら高くても一個三〇〇円程度だろう。

 端数か一シルバをまけてもらったとして、二シルバ。

 一シルバ一〇〇円の価値。

 一ゴルドで一万円の価値があることになる。

 部屋に戻ってカツサンドを見ながら。

「あれ? このゲームの最低って一ゴルドじゃなかったっけ?」

 じゅわっと揚げ物のいい香りのするカツサンドを見てると涎が出てくる。

「ま、いっか。安いに越したことないわ。うん。美味い。柔らかい肉とじゅわーっとした肉汁がうまうま」

 ポーチからお茶を取り出して飲む。

「んく、ぷはっ。これまた合うな。美味いわ」

 またまた気付いていない。

 閻魔の金策で稼いだ資産は、その百倍の価値があったということを。

 思ったよりもカツサンドはボリュームがあった。

 ベッドに寝っ転がり、腹をぽんぽんと叩く。

「うー、満腹だ。でも毎日の日課がないからちょっと不安っちゃ不安だな」

 閻魔は自宅から会社まで自転車通勤、いわゆるじてつうなのである。

 休みの日も雨が降っていなければ、仕事柄運動不足になりかねないこともあって自転車で走ることにしていたのだ。

 そのおかげもあって、腹筋が割れるまではいかないがそこそこの体型を保てていたのである。

 身長は百八十を超えていて、体重は八十キロちょっと。

 おっさんとしては理想的な体型ではあった。


 夜になって、一人寂しくぽつんとベッドに横になっている。

 夜のお供もなく、テレビもPCもないのだ。

 こうなると酒くらいしかない。

「確か生産物にビールがあったはずだけど、こっちではどんな風になるんだろうか?」

 腰から外したポーチを引き寄せて、手を突っ込んでビールを脳裏に浮かべる。

 確か数本入れたはずだった。

 すると手に冷たい瓶の感触が感じられる。

「お、やった。ビールあったじゃないか。それも冷えてる。これは助かるな」

 キッチンに行くと、グラスがあったからそれに注いでみた。

「おっとっとっと。いい感じの泡も出るな。んくっ、んっ、ぷっはーっ。冷えててうめーわ。確かにビールの味がする。お、なんかアルコールもちゃんとあるっぽいぞ」

 一気に飲み干した。

 閻魔は再度ポーチに手を突っ込み、ビールを取り出す。

「いいねー。ゲームの中で酒に酔えるなんて、最高じゃないか。んでも、よく炭酸抜けねぇな。そこは仕様ってやつか? ま、酔えればなんでもいいわ」

 二本目を飲み干していい感じに酔ってきた。

 ベッドにごろんと寝っ転がると、急に眠気が襲ってくる。

「考えても仕方ねぇか。ふぁあ。寝ちまおう……、ぐぅ……」


「……んっ。もう朝かよ。しっかしまぁ、質の悪い夢だよな。ゲームで遊んでてログアウトが出来ないって。なんかのアニメかよ、まったく……」

 自然と体が動いた。

 実はこのホームは閻魔の部屋と同じ間取りをしていた。

 ふざけて配置していったらなんとなくそっくりにできてしまっていたのだ。

 洗面所で顔を洗い、トイレで排尿するといつものように朝起ちが収まっていく。

「今日も元気だな、我が息子よ」

 寒いボケをかましながら寝室へ戻ってきて我に返る。

「──って、ログアウトできてねぇじゃん」


 閻魔は現状を認識するために今ある情報をまとめてみた。

「とにかくだ。食欲、睡眠欲は満たされてる。あとは、性欲か」

 そっちかよ、と、突っ込みたくなるほどボケをかます。

「なんせ、ちんこが起っちまうんだ。これは健康に悪すぎる。なんとかしないと気がおかしくなっちまうからな。……って、そこまで至れり尽くせりな設定はないだろう……」

 閻魔は工房の机に座り、ポーチに手を突っ込んでヘビーブリットと呼ばれる弾を一つづつ取り出して並べていく。

 ずらりと並んだ拳銃の弾頭に似たものが約二〇〇発。

 このゲームでは射出は装弾も射出魔法というので自動で行われる。

 そのため薬莢も火薬も必要ないのである。

 鍛冶も部品単位で鍛冶魔法を使って作っていき、合成魔法で組み上げる。

 その職業に特化した魔法があるのだ。

 なぜ二百発並べたのか、単純に閻魔が取り出しては並べる行為に飽きたのである。

 確かこの前にログインしたときに、二〇〇〇発以上インベントリに入っていてることは記憶していた。

 この十倍以上やるなんて、めんどくさい。

 両手で適当に集めて、ポーチにざらざらと流し込んでいく。

「しかし、困るよな。ステータス表示がないと、銃の耐久とかもわかんないんだよな。まぁとりあえず店にあるヤツを全部突っ込んでおくか」

 陳列してある銃、おおよそ二十丁はある。

 それをポーチの中に突っ込んでいく。

「重量もわかんないから、突然歩けなくなると怖いんだよな」

 MMOだった頃、重量オーバーになると歩行が困難になる仕様があったのだ。

「あーでも、このままログアウトできないと会社行けねぇじゃねぇか。ま、あんなブラックな会社辞めっちまってもいいんだけど。サボると家まで迎えに来るくらいきっつい職場だったからなー」

 歩いてみたり、その場で飛び跳ねてみたりした。

「うん。重くて動けないとかないみたいだな。VRになってから重量が軽減されるようになったのかもしれないな。よっし、ちょっとヤドラでも叩いてくるか」

 ヤドラとはヤングアースドラゴンの略称である。

 ただ問題は場所を記録したときの名前だった。

「えっと。テレポートセルフ〔ヤドラ〕……。あれ? だめか。テレポートセルフ〔ヤ狩場〕だっけか?」

 みょーん

「お、当たったみたいだな。ったく、インベントリが見れないと不便だよな、ホント」

 景色がぶれて荒地のような場所に出る。

 馴染みの狩場そっくりな光景だった。

「うんうん、いい感じに再現されてるな。かなりリアルなとこが運営さん頑張ってるな、って感じ」

 ヤドラが現れる前に腰に吊るした銃、ミスリルマグナムをホルスターから抜いておく。

 すると少し離れた場所。

 後ろの方から地を蹴るような足音が。

 ギャァアア

 聞きなれたヤドラの鳴き声だった。

「嫌ぁあああ、やめてー。追いかけてこないでーっ」

 ヤドラの鳴き声と共に、女の子の悲鳴のような声も聞こえてくる。

「なんだなんだ?」

 閻魔が振り向くと、そこには頭にケモミミを携えた女の子がヤドラに追いかけられていた。


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