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困惑中

主人公、まだ気づいてませんね。


 じゃーっ

「なんつ、リアルな。こんな匂いまで再現すんじゃねぇよ……」

 イジメにしては酷過ぎる。

「俺達みたいな金策で買い物するやつがいないと、課金した人のアイテムが買ってもらえなくてゲーム内の経済が回らないから見逃されてたはずなんだけどな」

 誰かがゲームマネーで買い物をしないと、誰も課金してもらえなくなるはずなのだ。

 無課金ユーザがいて、課金ユーザが課金して羨ましがられる。

 目一杯金策してお金を貯めてから、課金ユーザのプレイヤーズホームから買い物をする。

 その構図は昔から変わっていない。

 武器は消耗品だったため、閻魔のような武器屋が存在するのだ。

 閻魔の店は安い値段設定をしてたため、そこそこ有名だった。

 だが、それはガンナーの間だけ。

 銃は安くない。

 弾も安くない。

 だからそれ程売れない。

 家の維持をするので精いっぱいになってしまう。

 閻魔の収入の殆どは、狩からの収入だったのだ。

 効率よく牛や弱い龍種を倒し、町に持ってきてそれを必要とするユーザに買ってもらう。

 そのユーザは料理をしてそれを売りに出す。

 実にうまく流れていた。

「もしかしてサーバがまだ再起動されてないとか? でも俺が動けるわけないんだよな。どっちにしても困るんだよ。ログアウトできないと」

 閻魔は外に出てみた。

 往来の人の言っている言葉は理解できる。

「でもなぁ、ログアウトの方法をNPCに聞くなんてないよな。困ったな、こりゃ……」

 このゲームの街並みや世界設定は剣と魔法の世界でありながら、中世ヨーロッパではない。

 どっちかというと、色々なテイストを盛り込みすぎてわけわからない状態になっている。

 この街並みも、中世っぽいような、西部劇っぽいような、それでいて昭和初期の日本のような感じがする。

 隣の店から声が聞こえた。

「おや、閻魔さん。今日は店にいたのかい?」

「えっ? あ、うん。そうですね。ところでどちら様でしたっけ?」

「つれないこと言うんじゃないよ、まったく。毎日パンを買ってくれてるだろうに」

 優しそうなおばさんだった。

 それにしてはおかしい。

 なんで会話が成立するんだろうか。

 ボケに対してツッコミを寄越すような、流れるような会話。

 例えAIだとしても出来が良すぎる。

「あ、そうでしたっけ。コロッケパン。いつも美味しくいただいてます、っけ?」

「そうだよ。うちの看板商品なんだ。美味くないわけないじゃないか。ほんっと馬鹿だねぇ」

「酷い言われようだ」

「あははは、また買いに来ておくれよ? お得意さんが買ってくれないとうちは潰れちゃうからね」

「そんなご謙遜を。あんなに美味しいものが売れないなんてないじゃないですか」

「褒めてもまけてあげないよ。じゃ夕方の仕込みもあるからまたよろしくしておくれ」

「はい、ではまた」

 閻魔は店の奥、自室に戻って頭を抱えた。

 ありえない。

 あそこまで会話が成立するゲームなんて見たことがない。

 お世辞に対してあのような返しも、まるで人と会話しているようだ。

 もし、運営サイドでいちいち会話を打ち込んでいるとする。

 それにしても違和感がある。

 なぜシステムメニューが出てこないことに気付かないのか。

 ズボンのベルトを外し、ズボンのボタンとチャックを下げる。

 パンツゴムを前に伸ばして自分の局部を見る。

「間違いなく俺のちんこだよな。なんで運営がここまで再現できるんだよ。俺ここまで細かく設定したつもりないぞ? 爪も昨日切った長さだし。それに、あんなリアルな感じ、ありえないだろう……」

 もう一度店から外を見てみる。

 そのときちょっと強めの風が吹いた。

「きゃっ」

 目の前を通った狐耳の女の子のスカートがふわっとめくれて、尻尾の根元あたり、可愛らしいショーツが見えてしまった。

「物凄く貴重なものを、ごちそうさまです」

 閻魔は両手を合わせて小声でつぶやいた。

「ケモナーもいいよね。いいものを見せてもらい……、えっ?」

 自分の身体の異変に気付く。

「ちょ、待て。なんで勃起してんだよ。いや確かに元カノに振られてからそんなことはご無沙汰だけど。えっ? 俺、そんなに飢えてたのか? ってそういう問題じゃないだろう。なんでこんな現象まで再現してんだよ?」

 それを押さえてみると、どくんどくんと脈動しているような感覚があった。

「えっ? まじか。まじ起ってるよ。どうすんだよこれ」

 虚しい空気がそこに流れたようだった。

 ますますおかしい。

 ここまで再現性の高いゲームなんてありえない。

 自分の手首に指先を置いて脈を測ってみる。

 するとどうだろう、間違いなく脈動する感覚があるのだ。

 ここまでリアルな感覚、どれだけ力いれたんだろうと思ったとき。

「あ、あのおじちゃん、ちんちんおっきしてる。ママと仲良くしてたパパみたい」

 閻魔を指さして小さい女の子がとんでもないことを口走っている。

「これ、見ちゃいけません! って何言ってるのよっ」

 それに気づいた母親だろう。

 女の子を抱き上げ、目を塞いでそそくさと行ってしまった。

「うっそだろう。そこまでツッコミあるのかよ。ってか赤裸々すぎるだろう。そんなにオープンな家庭の設定かよ。マニアックすぎるだろう……」

 まだ状況に気付いていない閻魔。

 ゲームの設定だと思っているのである。


 ゲームシステムにあった通り、腹は減る。

 喉が渇くうえに、尿意などもあるときたもんだ。

 確かに生活感のあるMMOがあれば面白いと思ったときはあった。

 だが、ここまでする必要があっただろうか。

「おまけにちんこまで起つときたもんだ。困るだろう、これ……」

 まだ治まってくれていない。

 ギンギンなのである。

「かといってなー、ここでひとりエッチするわけにもいかないだろう。おかずもないし」

 実に下品な面もあるというより、これが普通なのだろう、男としては。

「せめてなー、おかずがあればな……。そうだ」

 ポーチに手を突っ込んで。

「エロ本。アイドルの水着写真集。エロ漫画でもいいっ」

 便利なポケットじゃないんだから出る訳がない。

「駄目か。サービス悪いよ運営さん」

 まだゲームだと思っている閻魔。


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