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ここまでリアルにする必要あるのか?

本日二回目の更新です。

リアルな描写に慌てふためく主人公。


 閻魔が目を覚ますと、見慣れたような草原だった。

「あれ? ログアウトしてないじゃん。ま、いいか」

 上半身を起し、深呼吸する。

 やけに空気が美味い。

「んーっ。結構リアルなんだな。脳波通信とはいえ、匂いまであるなんてね」

 左手に触る、芝のような草の感触。

 その間にある土のざらざら感。

 右手に持っていた愛用の銃を見ると、さっきよりも滑らかなグラフィックになっていた。

「ん? こんなにカッコよかったっけ? よし、そんなことより試し撃ちだ」

 立ち上がって銃を構える。

 リアルなほどのずしっとした重さを感じる。

 だが、身体が銃の撃ち方を憶えているようだ。

 右手で銃を構え押し気味にして、左手でグリップを軽く押し戻し固定するように木に向かって照準を合わせる。

 腰の部分に若干の違和感というか、重みを感じたが気にしないで引き金を引いた。

 ドンッ

 やけにリアルな銃声。

 魔法で撃ち出されているという設定のせいか、硝煙の匂いはしない。

 よく見ると木の幹に穴が開いていた。

 近寄ってみると、表面に小さな弾痕。

 裏に回ると大きくえぐれ、爆発したような大穴が開いていた。

「うぇ、すげぇなこれ。こんな固そうな木も貫通するのかよ……」

 さらに目を凝らして見てみる。

 木の繊維まで細かく描写されているような感じが見て取れる。

「ほほー。運営さん頑張ったな。ここまでリアルに再現するなんて、どれだけ予算使ったんだよ」

 閻魔は銃をホルスターに収める。

 そこでやっと腰にポーチがぶら下がっているのに気付いた。

 ジッパーを開けて中を覗く。

 そこには闇があった。

「えっ? なんだこれ?」

 手を突っ込む。

 何も掴めなかった。

「確かここに買っておいたミルクセーキがあったはずなんだけど」

 すると、手に何かの感触が。

 手を引っこ抜くと、右手には瓶が握られていた。

 コルク製の蓋がついている瓶の中には、それっぽい色をした飲みものに見える。

 ちょっと喉が渇いた閻魔は、構わずコルクを引き抜いて飲んでみた。

「……んっ、ぷはっ。うまっ。めっちゃ美味いわ。ミルクセーキ味のドリンクだわ。これまたリアルだな、おいっ。ってことはこのウェストポーチがインベントリなんだな。すげー。んくんく、ぷはっ。ポイ捨ても気が引けるからこっち入れておくか」

 空き瓶をポーチに入れると吸い込まれるように格納された。

「よしっ。試し撃ちもこんなのでいいだろう。弾が勿体ないわ。テレポートセルフ〔プレイヤーズホーム〕」

 何も起きない。

「あれ? テレポートセルフ〔俺の店〕」

 みょーん

「お、反応した。微妙な設定だな……」

 瞬間的に景色がブレたかと思うと、一瞬で視界が変わった。

「えっ? あれ?」

 そこは見覚えのある閻魔の店。

 だが違うのだ。

 往来に人々が歩いている。

「あれ? NPCってこんなに歩いてるものなのか?」

 閻魔は歩いて表に出てみた。

 どう見ても多様な種族が往来を歩いている。

「いや、しかしまぁ。グラもすごいな。本物の人にしか見えないじゃないか」

 自分の店の陳列棚を見ると、所狭しと販売マネキンに持たせていたはずの銃が並んでいた。

 不思議に思った閻魔は、奥の部屋へ行き、金庫を開けてみた。

 そこにはとんでもない数の金貨が入っている。

「うわ。ビジュアルではこんな風になるんだ。いつもは数字だけだったもんな。しかし俺もよく貯めたよな。一枚が一ゴルドとはいえ、数万枚はあったはず。足りないよな……。あ、銀行に預けてるんだっけ」

 実に独り言が多い閻魔。

 それは友人からも家族からも注意されるほどだった。

 本人はそれ程気にしてはいなかったが。


 ぼけーっと往来を見ていた閻魔。

 本来銃はそれ程売れるものではない。

 狩りに行って帰ってくると数丁売れている感じなのだ。

 剣や槍、弓などより人気のない武器だから仕方はないのだろう。

「それにしても、めっちゃ可愛い子も歩いてるよね。あの猫耳さんとか、犬耳さんとか、狐耳さんとか……。運営さん、どれだけケモナーなんだよ。俺も結構好きだけど……」

 ぐぅううう

 閻魔の腹の虫が鳴る。

「腹まで減るなんて、ゲームシステムは変わらないんだな。えっと確か」

 ポーチに手を突っ込む。

「コロッケパン」

 手に感触が感じられる。

 手を抜くとそこには熱々のコロッケが挟んであり、ソースの爆ぜる音がしそうなくらいに旨そうな匂いのするコロッケパンがあった。

 ひと口かぶりつく。

「うまっ。クリームコロッケか。ここまでリアルなのかよ。もう感謝感激雨あられだわ」

 表現のちょっと古いおじさんな閻魔。

 小腹が膨れると、さっき飲んだミルクセーキのせいだろうか。

 下っ腹が圧迫されて来る。

「ん? あれ? なんだこれ?」

 このMMOのプレイヤーズホームには使われないトイレがなぜか設置してあった。

 それは閻魔がこだわりを持って作っただけなのだが。

 閻魔は慌ててトイレに駆け込んだ。


 閻魔はトイレから出てくると頭を捻った。

「えっ? おかしくね? なんでしっこ出るんだよ?」

 今になって状況のおかしさを感じる。

 洋式便器の横にあるボタンを押すと水が流れる。

 じゃーっ

「今頃あっちでは寝小便とか勘弁してほしいよな。ここまでリアルにする必要あるのかよ?」

 洗面所で手を洗いながら、ふと目の前の鏡に映った自分の顔に気付いた。

「あ゛っ? なんだこれ、俺の顔じゃん。さっき見たときはイケメンのアイドル様様だったのに。どういうこっちゃ?」

 ベッドに戻り、座ると行動に移す。

「システム……。あれ? 出ない」

 目の前にシステムメニューが出ないのだ。

「システム、システム。おい、運営。どうなってんだよ? システムメニュー出せよ! システムってばよ」

 やっと自分の置かれた状況がちょっとだけおかしいことに気付いた。

 システムダウンしてるはずなのに、接続が切れていない。

 グラフィックがゲーム開始よりもかなりリアルだった。

 それに今見た、自分の顔。

 ゲームの中ではありえない生理現象。

「これってよ。あれか? ログアウトできないってやつか? どうなってんだよ運営さん。GM出せよ。いくら課金してないからって、イジメにしては酷くないか? 俺、明日仕事なんだよ。全くもう……。あ、今度はこっちかよ……。ここまでリアルにして欲しくないよな」

 またトイレに戻っていく閻魔。

 だが、閻魔はまだ気づいていなかった。

 自分が別の世界に来ていたということを。


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