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プロローグ こんなときにシステム障害かよ

二十一世紀初頭に二十年以上も長く運営されていた老舗MMOがあった。

 剣と魔法、生産職の豊富な「さて今日はなにしようかな?」というノリでまったりと遊べるMMOだった、ロード・オブ・エトランゼ・オンライン。

 ユーザの間では頭文字を取って『ろえ』と呼ばれた一時期人気爆発したMMOだった。

 時代はPCで遊ぶMMOよりもスマホのソーシャルゲームに押されつつあった。

 あちこちのMMOが万歳してサービス終了へ追い込まれる中、それでも『ろえ』ユーザは細々と課金を続け、『ろえ』を支え続けることでなんとか運営を続けることが出来ていた。

 漫画やアニメでVRMMOと呼ばれる仮想空間で遊ぶものが題材になって、『ろえ』ユーザもそんな時代が来るといいね、といいながらも我慢して遊んでいた。

 『ろえ』ユーザが離れなかった理由は自由度の高さと課金武器が無双しないシステムだったからだろう。

 そしてテクノロジーはなんとか追い付くものだ。

 某メーカーから出ていた家庭用のコンシューマゲームから、ブレインステーションVRが発表した。

 それから没入型のヘッドセットによるゲームが増えてきて、また幾年。

 やっとVRMMOと呼ばれるヘッドセットを使って仮想空間へ旅立つタイプのMMOが増えてきていた。

 ちょっとづつユーザ離れから廃れつつあったロード・オブ・エトランゼ・オンラインも、社運をかけてVRMMOへの参戦を発表。

 数年後にやっとベータテストが発表されるということになった。

 『ろえ』で細々とガンスミス、いわゆる銃職人をしていた主人公、神代閻魔かみしろ えんま

 キラキラネームと呼ばれた名前だったが、幸い捌く側だったのでいじめられるようなことはなかった。

 もちろん、キャラネームもエンマ。

 自分で鉱石を掘り、自分で弾を作り、自分で銃を作って売って生計を立てていた。

 エンマブランドの銃は品質のいいものを安く扱っていると有名だった。

 大資本の鍛冶屋に目を付けられない程度、ぎりぎりの安さで売りに出し、家と呼ばれるプレイヤーズホームで販売をしていた。

 制作級の武器屋や防具には、ノーマルグレード、ハイグレード、マスターグレードの三種類が出来上がる。

 マスターグレードができあがると、製作者の銘が刻まれるというシステムがある。

 それ以外のグレード、俗にいう失敗作は自分で使うことにしていた。

 課金製造の武器やアクセサリ。

 その中でもクリティカルを誘発する籠手は銃や弓を使っているユーザの間では垂涎のアイテムだった。

 だが、閻魔は課金はしていない。

 ゲーム内でモンスターや獣を狩り、それで金策をしながら銃を作ってまたお金を貯める。

 そうして細々と貯めたお金でドラゴンズガントレットをやっと手に入れたのだ。

 クリティカルの効果は、通常攻撃の百五十パーセント。

 弾数を少な獲物を倒すことができるのだ。

 『ろえ』には攻撃ディレイと呼ばれる攻撃してから、再攻撃するまでの時間が発生する。

 その攻撃ディレイもクリティカルが発動することで短縮できる。

 要は攻撃力が上がった状態で、連射に近いことができるのだ。

 クリティカル効果をうまく使いこなしているガンナーをクリ銃使いと呼び、『ろえ』最大火力の一つとして数えられている存在でもあるのだ。

 一部の間ではそこそこ有名なガンナーでもあり、レイドではたまにルート(ボスの討伐などの権利を得たもの)を取ることがあるくらいで名前が知られていたのだった。

 ただひとつのデメリットは連射することで、弾の消費が多くなること。

 弾は買うと一発辺りが高く、他の近接武器や矢、魔法職よりもコストが馬鹿にならないのだった。


 βテストの前にロード・オブ・エトランゼ・オンラインVRに対応した自転車の競技用ヘルメットのようなヘッドギアが発表された。

 ブレインステーションVRのような初期のものと違うのは、各所に設置されたチップと呼ばれる電極。

 それに連動して催眠誘導が行われ、脳波をオンラインのサーバに転送することでVRMMOの世界が体験できるというものだった。

 安全面も回線が切断されると、催眠誘導装置が切断され、夢の世界から脱出されることは実証されているようだ。

 いわば夢の世界で遊べるMMOというものなのである。

 そう説明動画にあったが、リラグゼーションなどにも運用されているシステムなので、それほど心配はないと言われていた。

 確かにテレビなどで特集を組まれたヘッドギアにそっくりだった。

 いや、そのものだったのだ。

 それをMMOに転化させたのが今回のVRMMO。


 閻魔はなんとかロード・オブ・エトランゼ・オンラインVRのβテストまでにヘッドギアを手に入れて新しいクライアントソフトをダウンロードしヘッドギアへのインストールが終わった。

 『ろえ』のユーザ数はピーク時は数千人に及んだが、今は数百人しかいないのではないかと言われていた。

 よく運営会社は耐えてくれたと閻魔は思っていた。

 今日は日曜、βテストの開始も朝十時からだ。

 閻魔はIT土方と呼ばれる業種に勤めるサラリーマンで三十路過ぎの隠れオタクである。

 日曜だというのに有休を申請しないと遊べなかったので、渋々申請をして今日に備えたのであった。

 つい先日、三年付き合った彼女に、振られたばかりで日曜に予定なんてなかった。

 どうせ、有休をとらなければ仕事だったのだ。

 思いっきり遊んでやるつもりだ。

 トイレは行った。

 食事も軽く済ませた。

 

 既存のユーザはそのままのキャラクター、そのままのアイテムで遊べるということもあり、今か今かと待ち遠しかった。

 そして十時になった。

 ベッドに横になり、ヘッドギアのクライアント起動ボタンを押して頭に被る。

 アイウェアと呼ばれるバイザーを下ろすと目の前には没入型のモニタが見えた。

 そこには予め登録の終わっているログイン処理の終わった画面。

 スタートボタンがわざとらしくロゴの下にどどーんとあり、脳波関知型のマウスポインタを動かしてボタンを押した。

 催眠誘導装置が働き、閻魔は眠気に襲われる。


 閻魔が目を覚ますと、そこは馴染みのあるプレイヤーズホーム。

 現実の世界の映像よりは若干の粗さが残るが、紛れもない仮想空間。

「おー、こりゃ凄いわ」

 視界に慣れるのに若干時間がかかったが、勝手が違うとはいえシステムはほぼ一緒。

 ただ何をやるにも自らの動作が必要になると公式に書いてあった。

 閻魔はシステムメニューを出してみる。

「システム」

 すると視界に重なるように見覚えのあるステータスが読めるようになった。

「お、ステも変更なしか。装備は? お、あるある。消えてないな」

 たまにアップデート時にアイテムが紛失するなど、お茶目な障害があった『ろえ』。

 自分の腕に装備されている腕装飾アイテム。

 ドラゴンズガントレットのプラス九。

 精錬強化で限界まで性能が上げられた、閻魔の財産である。

 腕を見ると見事な装飾の籠手が見えた。

「かっけー。こんな風になるんだ」

 『ろえ』には姿見と呼ばれるプレイヤーズホームに設置できる鏡のような装備をビジュアルで確認できるアセットアイテムがある。

 店舗部分の横にあるそれを見ると、初めて自分の姿が確認できた。

 『ろえ』にある種族は五種類。

 人間に近いヒューマ。

 大柄で力の強いオルグマス。

 可愛らしく背の低い人気のあったホビマニー。

 エルフのようなエルーマグ。

 根強い人気の獣人、モフリー。

 閻魔はヒューマの男性キャラだ。

 なるべく自分の容姿に近い状態にカスタマイズしてあったが、実際見てみると何倍もイケメンだ。

「ないわな、これじゃ国民総ディーンズだよ」

 男性アイドルグループの老舗の名称だった。

 インベントリに格納してあるはずの、愛用のハイグレードを四段階強化してある銃を取り出してみる。

 瞬時に装備される武骨だが鈍色に光る銃。

 ステータス上に銃弾と矢のための専用インベントリ格納できる弾を弾切れまで撃ち尽くせるという不思議仕様なゲームシステムだったが、魔法で弾を射出するようなものなのだろう。

 弾を込める部分は用意されている感じのスロットは見受けられるが、システムが同じであれば込める必要はないようだろう。

 さすがにここで試し打ちをするわけにいかないから、いつもの狩場に行こうかとも思ったが、失敗するのも怖いので比較的弱いMOB〔獲物〕のいる場所へ飛ぼうと思った。

 『ろえ』には魔法があり、移動系は空間魔法というものがある。

 スタンダードなものでテレポートセルフという魔法があった。

 予め記録した座標や、死亡時に強制転移される場所へ飛ぶことのできる魔法である。

「確か、魔法名を言えばいいだけだっけか? えっと、テレポートセルフ……。あれ? テレポートセルフ〔雑魚狩場〕」

 みょーん

 力の抜ける効果音と共に周囲の映像がぶれる。

「こうだったのか。それにしてもこの音、相変わらずひどいな。なんとかならないのかよ」

 苦笑しつつ、転移に身を任せる閻魔。

 その時だった。

【運営サイドより緊急通知。運用サーバの障害が発生しました。ユーザの皆さまは速やかにログアウトしてください】

「ちょっと、ゾーン移動の暗転中だってばさ」

 ブツッという嫌な音が耳に痛いくらいに響く。

 その瞬間、ブラックアウトして閻魔は意識を失った。


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