聖王国の姫君
その日、聖王国クロスジオルにて双子の姫君が生まれた。
クロスジオルの王家クレステッドの長女次女として、トーカ・クレステッド、カレン・クレステッドと名付けられた。
紺色の髪をした長女トーカは王妃と同じ髪の色をして大層可愛がられたが、次女のカレンは王と同じ薄茶色でこれまた可愛がられた。
それから彼女らが生まれてから5年となった。
彼女らには同腹の兄が二人いて、長男は長女、次男は次女の面倒を見ていた。年の差は8歳差と6歳差だ。
トーカは聡明だが、嫉妬深くワガママな性格へと育っていった。
甘やかしすぎたのだと長男アレイストは言う。
王の自室にて声高らかに。
「なぜトーカのワガママを我慢させないのですか!?王族たるもの、人々の模範にならねばなりませぬ!」
「…うむ、奴とて考えて動いているに決まっておろう。あれだけ頭が回るのはあやつだけぞ。」
「いや!だとしても明らかにこれはやりすぎです!なぜカレンの物まで欲しいと言ったらそのまま渡してしまうのですか!カレンは自分の宝物を、メイド達と作った自分だけの宝物である花冠の氷像を、トーカが欲しいと一言いうだけであげてしまう。それが始めからカレンからトーカのためというならわかりますが、カレンは渡した後に自室でこもっていたのですよ!
このことを父上も承知の上で言っているのですか!?」
「何!?トーカはカレンの物を!?」
「そうです!弟のリーグが言ってました!これは誰の王冠かと。その答えにカレンは言ったそうです。母様にあげますと。これの意味がわかりますね?
トーカがやったことにカレンは大分まいってしまっています。トーカを叱れるのは私以外には父上しかいないのです!」
むうと唸って、錫杖を指でコツコツと叩きながら、王は考えていた…。
その答えは、
「ワシが直接言おう。」
「おお!父上!その気になって下さいましたか!」
「三十分後に我が自室に連れてくるように」
「わかりました!失礼します!」
足早に王の自室を去り、トーカのもとへと向かう。
王はその姿を虚ろな眼で見送った。
・・・・・・・・・
「お呼びでしょうか!お父様!」
「トーカ。そこに座りなさい。」
トーカは王の自室に駆け込むと、王の目の前にある椅子にさっさと座った。
「アレイストから聞いたぞ。よくやったな。」
「はい!お父様!!」
王は虚ろな目をしてトーカのことを褒め始めた。
「私の言いつけ通りカレンの宝物を自分の物にしたのだね。カレンは泣いてなかったかい?」
「ええ。少し涙は浮かべてましたけど、嗚咽は聞こえませんでした。満足には程遠いですね。」
「そうか。なら、次はもっと派手にやれば良いのではないか?」
「はい!わかりましたわ!お父様!」
「頑張るのじゃぞ。我が…」
「…?どーしたのですか?お父様?」
「いや何を頑張るのかとふと思っただけじゃが…」
(ふう。ざっと見て効果があるのは丸一日。私のこの力が効く時間が一日しか保たないか…)
「お父様。私の眼を見て。」
トーカは王の目を覗き込むように見た。
その目は紫色の渦を巻いていた。
「あ!あ、あああ…」
(上書きは見るだけでいけると。)
トーカは王に指示を出した。トーカの転生時手に入った恩恵、洗脳眼。まだレベルが低く催眠程度でしか使えない。
(トーカのする行為は王族として模範となる行為であり褒められるべき内容であるっと。)
「お父様、もう大丈夫ですわ!心配いりません。カレンとはうまくやっておりますので、仲の良い双子姫としてうまくやっていきますわ!」
「ん?…ああそうか。そうだな。トーカのいうなら大丈夫であろう。」
王の眼には光がない。トーカの術中に完全に入っていた。
(さあ、この国で能力の実験はできた。足がかりは作ったわ。早いとここの国を掌握して私の手足になってもらいましょう。)
トーカは画策している、この国の支配を。
それがまず新たなる人生の始まりと信じて。