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ただのモブにこんなに役割を押し付けるんじゃねぇ!

作者: 上上手取

25/07/05 ちょっと強引だった結末を改稿しました

――この世界はゲームの世界だ――


 なんて言ったら普通は頭の中身を心配されるだろう。だがこれは本当のことなのだ。少なくともこの俺が生まれ変わったこの世界では……」


「お兄ちゃん何ブツブツ言ってるの? ちょっと変だよ? また眠れてないんじゃない」


 そういって妹のネイがこちらを心配そうに見つめてくる。


 いかんいかん、昨日はギルドにたまった仕事を片付けてた影響であんまり眠れてないんだよな。心配をかけてしまったか。


「心配しなくても大丈夫だよ。まぁ……ちょっと寝不足かな?」


「もう、お兄ちゃんも仕事の量をもう少し減らせばいいのに。だいたいおじいちゃんもお父さんも……」


 妹の家族への愚痴を聞き流しながら「残念ながらそれはできないんだよなー」と聞こえないようにひとりごちる。何故ならばそれがこの世界で俺に与えられた役割だからだ。




―――




 とあるゲームの話をしよう。ゲームの名は”エバラスティング・リズム”。ジャンル:友情育成シュミレーション、というギャルゲ黎明期、様々なタイプのギャルゲーが出ていた頃の作品だ。

 主人公のグラフィックは目が前髪で隠れているといえばどの時期のものかわかってもらえるだろうか?


 特徴的なのは友情をメインに扱っており男主人公なのに攻略キャラには男キャラも含まれる。

 もっとも友情を歌っている割にはベストエンドはどれも砂糖を吐きそうな甘々なエピローグが流れるのだが。


 さて、そんなゲームの世界に俺は気がつけば転生していた。

 幼児プレイはなく気がつけば前世の意識と今世の意識が融合していたという感じだ。

 死んだ時の記憶はないがゲームの世界の魔法を現実で引き起こすにはどうすればいいのかを至極まじめに討論していたことは強く印象に残っている。


 今世での名前はロイ・ネクトール。”エバラスティング・リズム”二作目攻略キャラのネイ・ネクトールの兄だ。

 もっとも作中ではネイ・ネクトールには兄がいることを匂わせる程度の扱いだったので作中には関わらないいわゆるモブというやつだ。

 ついでに言うと”最強のモブ”、”残機x99”、”瞬間移動魔術の使い手”、etc……などとネットで囁かれていたキャラの立ち絵を幼くしたものに俺の容姿がそっくりだった。

 だがこれは驚くことではない。なぜならこの容姿を持ったキャラは所謂”使い回しキャラ”だからだ。


 使い回しキャラというのは低予算のゲームにはよくあることで表示されているキャラ絵は同じだが中身は場面によって全く別人というやつだ。


 作中で名前が明示されなかったので”このキャラ”と呼ぶがこのキャラはとにかく使いまわされた。

 メインシナリオではもちろんのこと攻略対象のキャラクターシナリオでも最低一度は出てくるしメインではないサブシナリオでもとにかく都合良く使われまくった。

 ファンブックでシナリオライター達が「いやー彼はちょっとでしゃばりすぎましたねー」なんて言われるほどにだ。


 つまりはエバラスティング・リズムの舞台であるこのフィードエンドの街には俺のそっくりさんが何人もいるということになる。

 シナリオでは”このキャラ”はとにかく死にまくるのだがゲームの二作目においてネイ・ネクトールの兄の生存は確認されている。

 一作目でやり過ぎたので二作目では”このキャラ”は出てこないので俺に危険はない。


 念のためゲームの時期になったらイベントが起こる周辺には近寄らないようにしておいたほうがいいだろうがゲームにおける俺の安全は保証されているということだ。




 ……そう思っていた時期が俺にもありました。




―――




 その事実に安心した俺はちょっとした好奇心で俺のそっくりさんを探してみたんだが一人も見つけることができなかった。


 そのことに疑問を感じていると祖父と祖母が長い旅行から帰ってきてお互いに俺を後継者にすると言い出した。

 今まで隠していたが祖父は暗殺者ギルドの長、祖母は魔術師ギルドの長なのだそうだ。

 その事実に驚愕していると今度は商人の父がいやこの子は俺の後継者にすると三つ巴の討論バトル。

 その討論は一晩中続き俺がベッドから起きてみれば”とりあえず全部叩き込んで適正を見てみよう”だったのだから笑えない。


 だがここで俺の直感は嫌な方向にひらめいた。

 ”このキャラ”が適用されたグラフィックには”学園に通いながら魔術師ギルドの長を務める天才”、”トロルの急所を一突きするだけで絶命させる凄腕のアサシン”、”情報を商品とし主人公に色んな物を売りつける怪しい商人”がいるのだ。


 え? もしかしてゲームの中の”このキャラ”が担った役割全部俺がやらなきゃいけないの?




 そんな疑問を他所に俺の地獄の日々が幕を開けたのだった。




―――




 そんな馬鹿なと内心思いつつも、特訓で疲れた体に鞭打って走り回ってみたが残念ながらこのフィードエンドの街で俺のそっくりさんに出会うことはなかった。

 とするとゲームのイベント全部俺が担わなければいけないのか? そんな疑問を抱きつつ、俺はシナリオライターたちが考えていた”このキャラ”にまつわる設定を思い出してみる。



・シナリオライター1


「最初は攻略キャラのライバルとして設定しました。年若くして魔術師ギルドの長に上り詰めた天才です。ただ年齢のこともあり不承不承学園に通っているという感じです。尊大で人を見下しています。ただ実戦経験に乏しく彼女の最後のシナリオで見せた醜態はそういうことです」



・シナリオライター2


「彼は暗殺者の家系で戦闘能力はAランク指定されている魔物と戦って無傷で倒せるほどです。普段は市政に紛れており余程のことがない限りその力をふるうことはありません。あるキャラのシナリオで最初に妖刀に操られ彼女を下しますが妖刀の力ではなくもともと実力者だったということもあります」



・シナリオライター3


「基本露天で商売をしていますがその裏の顔はどんな情報でも扱う有名な情報屋です。基本対価を求めますが情に厚いところもあります。立ち位置的には主人公のサポートといった感じかな。その割にひどいものを売りつけたりしてますが(笑」



・シナリオライター4


「いやー犠牲者が必要だったんだけどキャラ絵少ないじゃん。それに女キャラが犠牲になるのは僕的に嫌なので(笑)彼にはそれを一心に受けてもらうことになりました。彼にはひどいことをしたと思ってます(笑」



 ……お前らちゃんと設定すりあわせておけよ! おかげで俺がいま苦労してるんだよ! あとシナリオライター4! てめぇは許さねぇ! 絶対にだ!



 だがどれだけ怒り狂ってもキャラの叫びがシナリオライターに届くわけもなく無情に月日だけが流れていった。




―――




「あ、そういえば梓おばあちゃんが行き倒れを拾ったって話聞いた? 記憶喪失だって話だけどちょっと胡散臭いよね」


 ああ、もうそんな時期か。ネイが話してくれた行き倒れが一作目の主人公、名前は……設定されてなかったから後で調べておかないとな。


 梓おばあちゃんは一人暮らしをしていて、この街に張り巡らされている古い結界を守護する一族なんだ。

 だけど後一年ほどで寿命でなくなるんだよな。そして結界にほころびが生じて魔族が暗躍しだしそれをどうにかするのがゲームの内容だ。


 一応主人公次第でイベントが発生するかどうかは変わるんだけどストーリーイベントだけは絶対に起こるんだよな。俺30回位殺されるけど。


 分身の術とか覚えられたらよかったんだけどそれはとある攻略キャラのイベントでしか手に入らない血筋によるものだし。


 一応擬死技術は爺ちゃん直伝で仕込まれたけど痛いからあんまり使いたくない。




 はぁー、憂鬱だ。表面上は妹に心配をかけないように溜息を吐き憂鬱そうにしながらも、心のうち、内面ではこの世界に対する怒りが渦巻いていた。




 ただでさえ忙しい魔術ギルドの副代表なのに長になれってババアから圧力はかかるし、その上学園へ通って若い人脈を築けとか無茶ぶりが来るし、ジジイからは定期的にAランクの魔物の討伐依頼が舞い込むし……この間なんてSランク一人で倒して来いなんて無茶ぶりきたし! 倒したけど! 糞親父は俺の築いた情報網で大儲けして恋人ができたとかのろけてくるし! リア充もげろ! ていうかお前の商会大きくなりすぎて俺が情報流すのやめたら路頭に迷う人間が大量発生するんだよ! おかげで放り出せもしねぇ。おまけに避けてたはずの攻略キャラはいつの間にか知り合いになっていて起こるイベントのことを考えれば定期的な交流を疎かにできないし……




 俺モブなんだよな? と、思わずかきむしりたい衝動を抑え込み。


 これから始まる目の回るような忙しさを思い、再び溜息を吐いた。


 あ~くそっ! ただのモブにこんなに役割を押し付けるんじゃねぇ!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 思わずにやけるほどに面白いです。 続きがとても欲しくなりました(笑)
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