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09.カーチャンの潮騒動

 俺はお店で釣竿を買って、NPC少年に返しに来ていた。


「わあ、僕の釣竿だ。いいの? お兄ちゃん」

「ああ、いいよ」

「ありがとう!」


 これでよし……俺もいい子の仲間入りだ。

 先ほどまでの流れがなかったかのようにNPCらしい対応をしてくれる少年。

 きっと彼の懐には何百本もの釣竿があるのだろう。


 さて、かしわもちはどうしてるかな。

 ゆうすけの案内でいろんなクエストをこなしているはずだ。

 一番楽しそうなクエストは終わらせたしなあ……。


「あの、お兄さん」

「あれ? クーピーちゃんはユースたちについて行ってないの?」

「あ、ちょっとお話したくて……」

「うん、じゃあそこ座ろうか」


 何の話だろう?

 ゆうすけが引きこもりなのは本当か聞いてきたりするのだろうか?

 噴水近くのベンチに2人で座って話を聞くことにする。


「かしわもちさんって、すごくいいお母様ですよね」

「そうかな? 普通じゃないかな」

「いえ、さっきもNPCのだめな母親に真剣に怒ってましたし……わたし感動しちゃったんです」

「そっか」

「それであの……かしわもちさんがこのゲームを始めたのってもしかして……」


 こないだのゆうすけの発言で、なんとなく察しはついているのだろう。

 まあ教えてもいいか。

 言いふらすような悪い子ではなさそうだし。


「うん。引きこもりのユースを心配してゲームを始めたんだよ」

「やっぱりそうなんですね……。うらやましいなあ」

「なにが?」

「私のお母さん……さっきのNPCみたいな感じで、わたしのことを放ったらかしなんです。わたしが学校サボってゲームしてても何も言わないし……。かしわもちさんに言わせたらきっと母親失格ですよね」

「そう……だね」


 もしかしてクーピーちゃんも引きこもり気味なのかな?

 だからゆうすけが引きこもりと知っても嫌いにはならなかったんだな。

 むしろ親近感を覚えたか。

 そしてさらにはかしわもちも好きになったと。

 でもこれを言われた俺はいったいどうすれば……。


「あ、ごめんなさい。いきなりこんなこと言ってもお兄さんを困らせちゃいますよね」

「ああいや、かまわないよ。でもどう返せばいいかわからなくてごめん」

「いいんです。聞いてほしかっただけなので……これからもよろしくお願いしますね」

「ああ、母さんはクーピーちゃんをえらく気に入ってるみたいだからね。仲良くしてやって」

「はい!」

「じゃあ2人の様子を見に行こうか」


 というわけでゆうすけたちの元へ向かおう

 地図で確認すると、どうも家具屋さんにいるようだ。

 たしかちょっとしたお使いをこなすことでちっちゃな棚がもらえた気がする。

 俺は部屋を飾ることに興味がないので即売った。

 そもそも家を持っていない。


 家具屋さんに到着すると、かしわもちがなにか興奮していた。

 そして俺たちに気づくと話しかけてきた。


「あ、タカシにクーピーちゃんどこ行ってたんだい? なんかね、このゲーム内で部屋を借りて飾りつけて住めるらしいじゃないかい。ゆうすけはないらしいけど、タカシも部屋ないのかい?」

「残念ながら俺もないよ」

「そうかい……。じゃあみんなで借りて住まないかい?」


 かしわもちは楽しそうにそう言うが……正直いやっす。

 リアルでの家族と同じ部屋に住んで何が楽しいのかと。

 ゆうすけも同じように嫌そうな顔だ。

 さて、どう説得すればいいんだ?


「あの、わたし趣味で部屋借りて飾りつけしてるんです。よかったら来ませんか?」

「さすがクーピーちゃん女の子だね。ぜひ行きたいよ! どこにあるの?」

「えっと……遠いんですがタルタロスの街です」

「どこ?」


 タルタロスの街はここアレクサンドの街から3時間ほどかかる場所だ。

 それも戦闘無しで行った場合の話。

 途中で船に乗る必要もあり、長旅となる。

 一度行けばワープを利用できるのだが、かしわもちはまず歩いていく必要がある。


「母さん、すごく遠い場所だけど行く?」

「うん。連れてってよ……ゆうすけ」

「じゃあ行こうか」

「やったー! ありがとゆうすけ」


 ではクエストこなしは中断して、大移動だな。

 長時間かかるということで、先にお昼や用事を済ませておこうということになった。

 主に母さんの家事だけどね。



     ***



 そしてリアルお昼1時。

 俺たちは再集合した。

 

――ミッション:Lv15調理師のかしわもちをタルタロスの街まで護衛せよ――


 俺は2番目にレベルの高いLv30戦士で来ている。

 何故2番目かというと、1番レベルが高いのは盗賊だからだ。

 盗賊なんて言うと、母さんそんな子に育てた覚えはないよと泣きだすのが目に見えている。

 だから仕方がない……。


 クーピーちゃんはLv30回復術師。

 もしかしわもちがモンスターに倒されても復活させることができるので助かる。

 そしてゆうすけはなんとLv60侍である。

 道中の敵はあっさり倒せるだろうから、全部こいつ1人でいいんじゃないかな?


 さあ、この4人PTで出発だ。


「なんだか旅行みたいだね。わくわくするよ」

「強いモンスターもいるから気をつけていこうね」

「そっか……ちょっと怖いねえ」

「ユース君が守ってくれるから大丈夫ですよ、お母様」

「たよりにしてるよゆうすけ」


 旅行気分で歩き始めた俺たち。

 実際余裕だろうから、それで問題ないと思う。

 ゆうすけはさぞかし大活躍するだろから、かしわもちも満足するだろう。


 問題なく草原や森を抜けていき、海の見える海岸までやってきた。

 ここからは強めのモンスターが出るが、ゆうすけの敵ではない。

 でっかいカニをあっさりと倒して進んでいく。

 なお、侍は様々な技を使う厨二病御用達の職業だ。

 いろんな技を見せつけ、かしわもちは大喜び。

 その中でも一番気に入ったのは……。


「はあああああああ! 月光!」

「ゆうすけかっこいー!」


 これはゆうすけの背後に満月が出てきて、そのかっこいい演出の中敵を斬るという技だ。

 あの月に何の意味があるのかは、今のところ誰にもわからない。


「ゆうすけ、げっこう。ほら、げっこう」

「かしわもちさんすごいです!」


 かしわもちは卵をフライパンに割って、げっこうと名付けられた目玉焼きを作る。

 調理師の技は珍しいためか、クーピーちゃんも喜んでいる。

 こんな感じで楽しく進んで行った。


 1時間ちょっと歩いて港街へ到着だ。

 ここから船に乗って移動だ。

 うまいこと船が来たのでチケットを購入して乗船だ。


「船なんて何年振りだろうねえ。潮風が気持ちいいよ」

「母さん、今度は落ちないでね」

「あんなことそうそうないよきっと」


 かしわもちは船の周りの見えない壁に向かってぽよぽよ体当たりしている。

 前回の川落ち事件だって滅多にないバグだったんだ。

 さすがに船から落ちることはないだろう。

 もし落ちたら……カーチャンの潮騒動として末永く語り継ごう。


 さて、俺はのんびり釣りでもしていようかな。

 船釣りは大物が釣れるんだ。

 今日こそカジキマグロを釣り上げるぜ!


「ゆうすけ、タコがいるよ。っていたたた……殴られたよ」

「母さん、離れてて」

「お母様、キュア!」


 なんか楽しそうだけど、俺は釣りに集中するのみ。


「えいっ! えいっ!」

「母さん……殴らずにはなれてて……」

「お母様、近くにいると範囲攻撃のタコストリームアタックをくらいます」


 お、竿になにかかがかかった感触。

 大物の予感だ。


「ゆうすけ、月光見せて、月光」

「はああああああ! 月光!」

「やっぱりそれかっこいいねえ。あ、でもまだ倒せないんだね」

「このタコはHPがやけに高いんですよ」


 くそっ……魚に逃げられた。

 餌も取られたし、きっと大物だったんだろうなあ。

 よし、再度チャレンジだ。


「あーれーーー……」

「母さーん!」

「お母様ー!」

「うう……クーピーちゃん、ゆうすけのことは任せたよ……。がくっ」

「はい!」


 魚はなかなかかからない。

 それにしても平和だなあ……。


「そいやああっ! ふう、やっと倒せた……」

「リザレクション!」

「あれ? 私生きてるのかい?」

「はい、回復させました。でもしばらく休んでいてくださいね」

「そうしようかねえ、なんだか体の動きが鈍いよ」


 お、また来たぞ。

 今度こそ釣り上げよう。


「母さん、強い敵と戦う時は離れて見ててね」

「うーん、ごめんね。ゆうすけが殴られてるの見るとつい……」

「お母様やさしいんですね」

「まあいいけどさ……」


 よし、ぎりぎりだが釣り上げられそうだ。

 ここが集中のしどころだな。


「ところでさっきのタコは食べられないのかい?」

「運が良ければ足落とすんだけど、残念だったね」

「そうかい……。えっと、レシピ帳見るとお寿司とかてんぷらにできるんだね」

「てんぷらおいしそう……」

「じゃあ今夜はてんぷらにしようか」

「うん……食べに行くよ」


 釣れたー!

 目当ての魚ではなかったけど、大きめのイカだ。

 イカゲソてんぷらとかもいいなあ。

 かしわもちの調理スキルがもっと上がったら作ってもらおう。


「お母様の手料理美味しそうですね」

「クーピーちゃんも食べにおいでよ」

「行きたいですけど……」

「母さん、無理言って困らせちゃだめだよ」

「えー? 何がいけないんだい?」


 さて、もうすぐ船がつきそうだし大物狙いはやめて小物を釣るかな。

 イワシあたりを釣っておいて後で料理してもらおう。


「基本的にゲームの中では現実の話はしないのがルールなんだよ」

「そうなんだ……。タカシもそんなこと言ってたねえ。じゃあしょうがないか。ごめんね、クーピーちゃん」

「いえ、誘っていただけて嬉しかったです」


 うーん、今日は入れ食いだ。

 3匹同時に釣れた。

 現実で一緒に食事は無理だけど、この魚でゲーム内の食事を楽しもうよ母さん。


 こうして船旅は無事終わり、港に着くのであった。

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