05.カーチャンは恋のライバル?
かしわもちこと母さんがゲームを始めて2日目だ。
俺は今日朝から夕方までコンビニでバイトをしていた。
今現在夜の8時、母さんとゆうすけはどうしているだろうか。
ではさっそくエタるとしよう。
「おいすー」
「おうカーターインしたな」
「あ、兄ちゃん。遅かったね」
「タカシー、いい景色だよー」
ゆうすけも母さんもいるな。
どうやら街から離れた山に行っているようだ。
2人ともLv15になってるっぽいし、今日もずっと狩りをしてたんだろうな。
ゆうすけはなかなか面倒見がいいな。
順調そうだし放っておくか。
このゲームは、中で普通にテレビを見ることも可能だったりする。
ベンチに座ってテレビを見つつ、ギルドメンバーと会話しながらのんびり過ごす。
すると、俺に話しかけてくる女の子がいた。
「カーターさん、今よろしいですか?」
「ああ、クーピーちゃんか」
目の前にいるのは、かしわもちと同じホビホビ族の小さな女の子。
赤毛でポニーテールがかわいらしい。
この子はゆうすけのフレンドだ。
俺も時々パーティーを組んだことがある。
「今日ユース君と遊ぼうと思ってたんですけど、先約がいたようで……」
「ああ、そうだね。新人がギルドに来たからさ」
「そうですか……。ユース君優しいですもんね」
「ああ、今回の新人は特に放っておけないらしい」
この子はゆうすけのことを好きなのかなって素振りをよく見せる。
なんでも初心者で困ってる時、ゆうすけに助けられたらしい。
ゆうすけはかしわもちを案内してるのを見るとわかるように、面倒見がいいようだ。
ギルドはリアル友達がいる別の場所に入っちゃったけどね。
「それでさっきユース君とその女の子を見かけたんですが……ユース君はその新人の女の子のことが好きなんでしょうか?」
「え? まあ……好きといえば好きだろうね」
「やっぱり……。ユース君、なんとも言えないような照れた顔してたんです。あれは間違いなく恋してる顔ですよね!」
うん、違うよー。
ここに素敵な勘違いが発生しているようだ。
このまま放っておけば面白くなりそうだな……。
でもゆうすけに恨まれそうだし、おかしな事態になりかねない。
ちゃんと誤解は解いておこう。
「クーピーちゃん、実はあれね……俺たちのお母さんなんだよ」
「お母さん? えっと……現実でのカーターさんとユースくんのお母様ですか?」
「そうだよ、急にこのゲームを始めてね。ユースが今いろいろ教えてるんだ」
「そうだったんですかぁ、わたしったら勘違いして恥ずかしい。そうだ、挨拶に行こうかなあ」
母親と一緒のところに女友達が現れる。
これもちょっと嫌なシチュかもしれない。
だが、これは面白そうなので放っておこう。
がんばれクーピーちゃん。
「そうだ、カーターさんもわたしとフレンド登録していただけませんか? お嫌でなければ……」
「うん、全然問題ないよ。フレ登録しようか」
フレンド登録しておけば相手の居場所も探しやすいし、会話もしやすい。
俺からしたら、もし2人が同じ場所にいればすぐわかるという素敵なシステム。
断る理由などない。
――クーピー・Pとフレンド登録しました――
「じゃあこれからゆうすけともどもよろしくね、クーピーちゃん」
「よろしくだなんて、なんだか照れちゃいます。あの……お兄さんって呼んでいいですか?」
「ああ、好きに呼んでいいよ」
「ありがとうございます。では失礼しますね、お兄さん」
クーピーちゃんは去って行った。
可愛い妹ができたようで悪い気はしない。
あの調子だと……かしわもちのことをお母様と呼ばせてくださいとか言いそうだな。
よし! 覗きに行こう。
「みんなー、ちょっくら落ちるわ。また後でー」
「おーう」
「いってらー」
もちろん落ちるのは嘘だ。
このゲームは姿を隠すという機能がある。
つまり、インしてない振りができるのだ。
1人で孤独にゲームを楽しみたい時に使うこの機能。
ちょっくら悪用させていただきますよっと。
悪用というのは人としてであって、ゲーム規約的には違反でも何でもないので大丈夫。
というわけで俺は姿を消せるアイテムを使用して、ゆうすけたちのいる山に来ていた。
ここらは障害物が多いので、隠れるには好都合。
いかに姿を消せるとは言っても、近づけば見破られるからな。
そしてゆうすけを発見した。
かしわもちもいるし、クーピーちゃんも現れた。
ちょうどいいところに来れたようだ。
おそらくフレンド会話で話をして待ち合わせたんだろうな。
「ユース君、こんにちは。そしてはじめまして、かしわもちさん」
「こんにちは。ゆうすけゆうすけ、この可愛い女の子は誰だい?」
「このゲーム内での友達でクーピちゃんって言うんだよ、母さん」
「はい、ユース君と仲良くさせてもらってます。今日はここまで会いに来ちゃいました」
「ゆうすけに女の子のお友達が……。しかもこんなところまで会いに来るなんてねえ……」
クーピーちゃんは満面の笑顔でかしわもちにあいさつをしている。
かしわもちは驚きつつも興奮気味。
ゆうすけは、とっても困った顔になっている。
うんうん、わかるぞゆうすけ。
俺もそんな状況は嫌だ。
何もできないけど、見守っているからな。
「クーピーちゃんかい、ゆうすけにこんな可愛いお友達がいたなんてね。しかも仲よさそうだねえ」
「可愛いだなんてそんな……。はい、ユース君にはいつもお世話になってます。一緒にいろんなところ冒険してるんだよねー」
「うん、まあね……」
「あらまあ、それはあれかい? デートなのかい?」
「デートだなんてそんな……えへへ」
「違うでしょ……」
クーピーちゃんがゆうすけを好きなのは間違いないな。
ゆうすけは特に何も思ってないようだが……。
母さんはきっとクーピーちゃんを気に入るだろうなあ。
娘も欲しかったって時々言ってたし、俺やゆうすけに彼女ができたら連れてきてねとよく言っていた。
義理の娘と一緒に料理をするのが夢らしい。
「それでユース君、まだ狩りを続けるのかな?」
「いや、今から母さんに釣りを教えようと思うんだ」
「そうなんだよ。料理の食材に魚が欲しくてね。ゆうすけが肉ばっかり食べるから、魚も食べさせたいんだ」
「あ、調理スキルあげてるんですね。わたしも最近上げ始めたんですよ」
「そうなのかい? じゃあ一緒に釣りしようよ」
「したいです!」
おお、母さんの夢がゲーム内で叶いそうな予感だ。
料理や食材調達の話題で盛り上がっている。
ゆうすけは少し困った顔で2人を見ている。
うーん……ゆうすけがクーピーちゃんをどう思っているのか、今度聞いてみたいものだ。
「ユース君、どこで釣りするの?」
「街に戻って竿を調達して、近くの川に行くんだ。クーピーちゃんは釣りの経験は?」
「実はわたしもないんだ。教えてほしいなあ」
「そっか、じゃあ兄ちゃん呼んでみようかな。得意だから」
「タカシ今何してるんだろうね。忙しいのかな?」
「メールしてみるよ」
おおう、俺も呼ばれてしまうのか。
では、覗き見することなく堂々と観察できるわけだな。
「とりあえず街に戻ろうよ。私クーピーちゃんとお話しながら帰りたいな」
「はい! でもわたし移動魔法使えるんです。一気に戻りましょう。お話は釣りをしながらしましょう」
「あらあら、そんな便利な魔法があるんだね。じゃあお願いするよ」
そして移動魔法により消えていく3人。
俺も街へこっそりと戻るかな。
移動魔法は使えないが、同じ魔法が封じ込められた巻物を持ってきている。
これを使えば街へ戻れる。
ただ、すぐに戻ると3人と鉢合わせてしまうので時間をつぶそう。
少し待つとゆうすけからメールが来た。
――今から母さんと友達と釣りするんだけど、兄ちゃんも時間あれば来ないかな? 2人とも初心者だから教えてあげてほしいんだ――
さっきの会話の通りのメールがやってきた。
見ていなかった体で返信をするかな。
――今さっき用事が終わったんで、これからエタるよ。釣り道具持ってなかったら貸せるのもあるからな。餌だけ買っておいてくれ――
よし、これでいい。
俺も街に戻ろう。
無事街に戻り、ゆうすけたちと偶然会ってしまうこともなかった。
ではログイン状態を公開するかな。
「おいすー、ただいまー」
「おかー」
「おかえりー」
「タカシー、ミミズ買ったよー」
「おー、どこ行けばいい?」
「東門で待ってるね」
というわけで、かばんから釣竿やらの道具を取り出しつつ移動だ。
目的地についてからだせばいいわけだが、釣りに行く気分を高めたい。
道具を持って移動する方が気分が出るからな。
東門に着くと、3人が俺を待っていた。
「お待たせ―、友達ってのはクーピーちゃんだったんだ」
「はい、お兄さん。先ほどはありがとうございました。おかげでかしわもちさんとも仲良くなれそうです」
「そうなんだよー、クーピーちゃん可愛いよねえ」
「ははっ、よかったね」
そして4人で川へ向かって移動していく。
これははたから見たらダブルデートだな。
片方は46歳のおばちゃんだけど……。
とりあえず、何が起こるか楽しみだ。