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02.行列のできるカーチャン

 このゲームは、始めて1か月以内の人の頭に初心者マークがつく。

 世話好きの人はそういった人に声をかけたりするのだ。

 当然俺の母であるかしわもちの頭にも初心者マークがついている。

 しかし、そのかしわもちの前に初心者マークを付けた冒険者たちが並んでいる。

 なんとも異様な光景だ。


「はいはーい、料理はどんどん作るから待っててくださいねー」

「ほんとにタダでもらえるんですか?」

「はーい、そうですよー」


 母さんが作った料理を初心者たちに配っている。

 行列を仕切っているのは、うちのギルドメンバーだ。

 今日はここに8人ほど集まっている。


 何故こんなことになっているかと言うと……。

 俺はギルドメンバーと一緒に、ゲーム内での基礎を教えた。

 そして調理師のレベルを上げるべく、料理スキルを上げさせることにした。

 スキル上げにちょうどいい食材を俺達が集めてきて、母さんが料理をするわけだ。


「わー、すごい。炎の中から料理が出てきた」

「あれがアイテム合成かあ。わたしもやってみたいなあ」


 かしわもちの料理作りに初心者から歓声が上がっている。

 かしわもちがフライパンに材料を投げ込み、材料に手をかざすと炎に包まれ、しばらくすると完成する。

 このゲーム内でのアイテム作りは、はたから見るといろいろややこしいことをやっているように見えるが、実は自動で体が動いている。

 アイテム錬成と言う名前で、正しい材料と適切なスキルが有れば実行できる。

 最初は簡単な物しか作れないが、スキルを上げると作れるものが増えていく。


 本来なら、スキル上げをすると料理が大量にできてしまう。

 だから捨てるか売るかして処分するんだけど……。


『料理ってのはね。ちゃんとみんなで食べないといけないんだよ。それが料理に対する礼儀』


 という母さんの一言で、みんな納得してしまった。

 俺達ギルドメンバーで食べたが、すぐにおなかいっぱいとなった。

 というわけで、初心者たちにも配り始めたわけだ。

 幸い夏休みなりたてなので、初心者は多い。

 簡単な料理とはいえ、初心者にはかなり役立つ食事だしね。


「へい! このウサギ肉のグリルは食べるとどうなるんだろうな」

「そいつを食べると攻撃力が上がるらしいぜ。」

「そいつはCOOLだ。これで俺達が最強のエターナルメンだな」

「じゃあさっそく羊のキングにリベンジと行こうぜ!」


 なんだか外国人らしき初心者もいるな。

 まるで深夜の通販のようなノリだ。

 母さんが今配っているウサギの肉料理を食べると、物理攻撃力が上がる。

 あれを食べるだけで狩り効率が上がるはずだ。

 羊のキングはたぶん、高原にいる巨大羊のことだろう。

 街からわりと近くににいるのだが、初心者に倒せる敵ではない。

 見た目的にも強そうなのに、あいつら戦いを挑むとはチャレンジャーだな。


「はーい、配給は今並んでいる人で終わらせていただきます」

「また今度配るんですか?」

「未定でーす」


 集めた食材を使い切ったようだ。

 たしか60個分用意してて、何度か失敗してなくなってたから……。

 だいたい50個分くらい配ったわけか。

 夏休み効果で初心者だいぶ増えてるんだなあ。


「母さん、スキル上がった?」

「料理スキルが5になったよ。なんだか楽しいねえ」

「そっか、おめでとう」


 料理スキルの最大値は80だ。

 5というと低く感じるが、1時間程度でここまで上がるのは結構なハイペースだ。


「みなさん、本当にありがとうございました。特にファームさん、たくさん食材を用意していただいちゃって」

「いいんですよ。このゲームでは農家を営んでましてね。材料は大量にあるんですから」

「まあまあ、農業されてるなんて立派ですこと」

「いえいえ」


 ファームさんはお髭を生やしたドワーフ。

 見た目の通り力持ちで農作業にはうってつけだ。

 なんとほとんど冒険に出ることなく、農作業ばかりして過ごしている。

 このゲームは、戦いだけでなく何をしてもレベルが上がって強くなれる。

 つまり、母さんも料理していただけで調理師Lv3となっていた。


「かしわもちさんも料理を極めるってのはどうです? 農家のうちと組めば料理屋だって出せますよ」

「わあ、うちのギルド料理してる人いないからちょうどいいかも」

「うんうん、ユースも喜びますよー」


 なんだかかしわもちを囲んで盛り上がっておられる。

 理論上は料理をしているだけでも、魔族を統べる闇の王……よりも強いウサギの肉を狩れるほど強くなることができる。

 といっても料理をするための高級食材は狩りに出ないと手に入らないので、それを実行するのは難があるけどね。

 母さんはそんな会話の中、少し考えて俺に話しかけてきた。


「タカシ」

「俺はカーターだってば……」

「似たようなものさ。ねえ、みんなが手伝ってくれるのは嬉しいけどね。母さんも自分で食材を買ったり集めたりしたいな。そうやって作った料理をゆうすけに食べさせたいんだよ」


 この言葉で、食材を提供する気満々だったギルドメンバーは感動したらしい。

 とはいえ協力したいのは事実。

 ファームさんは食材を売ることになった。

 相場を知らない母さんには内緒で、格安にするようだ。

 他メンバーも、何かしらアイテムを持ってくれば等価交換すると約束した。

 等価と言うのは、メンバーの気分しだいで決まる。

 つまり、石ころを宝石に交換することも可能ということだ。


「じゃあタカシ、まずお店に行ってみたいな」

「わかった。案内するよ。じゃあみんな、今日はありがとう」

「ああ、しっかりな」

「親孝行するんだよー」



 というわけでギルドメンバーと別れ、母さんことかしわもちと2人きりだ。

 まずは食材を売っているお店に来た。

 ただし、NPCが売っている食材は高い場合がある。

 このことを説明すると、主婦である母さんはあっさりと納得した。


「なるほどね。ぷれいやあさんも売ってるから安いところを探すんだね」

「そうそう。そういえばまだお金持ってないよね。これ渡しとくよ」


 母さんの所持金は、初期の100Gしかないはずだ。

 正直回復薬すら買えないはした金だ。

 とりあえず1万Gほど渡そうとトレード画面を呼び出す。

 しかし……受け取ってくれなかった。


「これはあんたが稼いだお金だろう。とっときい」

「いやあの、ゲーム内のお金だしね」

「ゲーム内でもお金はお金。いざという時のために貯めとくんだよ」


 この後も問答をするが、受け取ってはもらえなかった……。

 これが噂に聞く母の愛と言うやつなのだろうか。

 無理やり押し付けてもよかったが、その場合使われずに金庫にでも入れられそうだ。

 とりあえずあきらめようかな。


「あ、そろそろお昼の時間だね。昼食作ってからまた来るよ」

「ああ、わかった。俺もあと少ししたら食事時間だ」

「ちゃんと食べるんだよ。カップラーメンばっかじゃだめだよ」

「わかってるって」


 そう言ってログアウトしていくかしわもち。

 ちゃんと教えた通り、ギルド会話で挨拶をしてから消えた。

 ううむ、何気に面白かったな。

 さて、ゆうすけが来た時に驚かないように前もってメールしておくか。


――母さん今日からエタるってよ――


 よし、これでいい。

 どこでログアウトしようか悩んでいると、フレンド登録している大学の友達に遠隔会話で話しかけられた。


『おい、噂で聞いたんだけどお前のギルドに新しい姫が来たって?』

「は? 姫って何だよ」

『なんかお前のギルドメンバーが集まって、初心者の可愛い女の子にいろいろ貢いだって聞いたぜ。それが姫でなくなんだよ』


 そうか、あの光景は姫にみんなが貢いでいるようにも見えるわけか。

 母さんが姫って……。

 面白いからこの友達には誤解させたままでいよう。


「まあそう思いたきゃ思ってればいいよ」

『じゃあほんとなのか。今度紹介してくれよ』

「わかったわかった」


 そう言って会話を終了する。

 なんだか愉快な誤解をされてるんだな。

 さて、向こうのベンチでログアウトしようかな。

 歩いていると、なんだか関係ありそうな会話が聞こえてきた。


「あの料理配ってた女の子なんだったんだろうね」

「あの女はね、男に貢がせた食材で料理して……配って人気取りしてたんだよ」

「そうなんだぁ、よく知ってるね」

「ううん、知らないけどきっとそう」


 母さんのよからぬ噂がこんなところにまで……。

 たしかにあの料理配布は目立ってたし謎だったものなあ。

 まあ、所詮は誤解だ。

 面白くなりそうだなと思いながら俺はログアウトする。


 さあ、カップラーメンでも食うかな。

 お湯を沸かしていると、ゆうすけからメールが来た。


――どういうことだよ……兄ちゃんの差し金?――


 なんか誤解されてるみたいだな。

 俺が母さんを引きこんだと思ってるみたいだ。

 返信しておくか。


――俺も今朝知ったんだよ。初心者だからいろいろ教えてやってくれ。あと昼飯今作ってるみたいだからちゃんと食ってこいよ――


 これでよしと。

 では俺もちゃんと食事をしないとな。

 カップラーメンだけじゃだめって言われたから生卵も入れよう。

 その後、ゆうすけからメールの返信はなかった。

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