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17.トーチャン初登場

 俺とゆうすけがまだ幼いころに父さんが亡くなり、母さんは女手一つで俺たちを育ててくれた。仕事の事故で死んだため、保険金と会社からの補償金で生活費については問題なかったらしい。ただ……事故の原因調査に時間がかかり、お金はなかなかもらえず俺たち一家は貧乏な時期があった。


(`Д) 今日はゆうすけの誕生日なのにケーキないの?

J('ー`)し ごめんね、今年はちょっと余裕なくて……手づくりのかしわもちで許してね

('∀`) 僕かしわもち大好きだよ

(`Д) でもこのかしわもち、葉っぱが巻いてないじゃん

J('ー`)し ごめんね、準備できなかったんだよ

('∀`) 僕これでいいよ。

(`Д) えー、こんなのかしわもちじゃないって

('∀`) そうだ、母さんの手を巻いててよ。僕葉っぱより母さんの手がいい

J('ー`)し ゆうすけ……



 今日は母さんの47歳の誕生日。

 俺は母さんの誕生日ケーキと共に、かしわもちを買いに来ていた。

 父さん、僕たちは元気にしていますからね。

 遠いところから見守っていてください。

 さあ、買い物も終えたし家に帰るとしよう。


「ただいまー」

「あ、タカシー。大変なんだよ! なにか変なのが来たんだよ」

「え? ちょ、ちょっと待って。部屋に荷物置いてくるから」


 あぶないあぶない、ケーキを見られるところだった。

 あらかじめクーラーをがんがんに効かせたゆうすけの部屋にケーキを置いておく。

 なおゆうすけは今エタっている。

 ゲーム内で誕生日会の準備をしているはずだ。

 さて、いったい母さんに何が起きたのやら?


「お待たせ、なにかあったの?」

「実はさっきエタゾンから荷物が届いたんだよ。母さんがいつも通販してるところ」

「うん、なんだったの?」

「わかんないんだよ。私宛に来てるけど、今日来る予定の荷物なんてないんだ。これってもしかして送りつけ詐欺ってやつかな? 開けた瞬間怖い人が金払えって来たりする?」


 母さんは箱を持っておろおろしている。

 あの中身はゆうすけから母さんへの誕生日プレゼントだ。

 俺が母さん宛に注文したから、母さんが知らないのは当然だ。

 俺は前もって用意していた電報……じゃなくてメールをゆうすけに送りつつ会話をする。


――ハハキズク スグカエレ――


「たぶん詐欺じゃないよ。それに発送間違いなら、開けた後でも返品できるから」

「そうなの? 爆発したりしない?」

「命を狙われる心当たりは?」

「そうだねえ……。あれは20年前、母さんがFBIにいたころの話なんだけど……」


 なんかおかしな話が始まったが、ゆうすけが戻るまでの時間を稼ぎたい。

 面白そうだからから聞いておこう。

 なお母さんは日本生まれの日本育ちで、パスポートすら取ったことがない。


「……というわけで、あんたとゆうすけが生まれたんだよ」


 結果的に父さんとの馴れ初めを聞かされただけで、命を狙われる話は出てこなかった。

 ゆうすけはそろそろゲームを出ただろうか?

 さあ、サプライズの始まりだ。


「じゃあゆうすけにも聞きに行こうよ。母さんの名前で頼んだのかもしれないし」

「そうなのかねえ……。でもあの子ゲームしてるから、邪魔したら怒られちゃうよ」

「最近外に出るようになったから大丈夫だよ」

「そうかねえ、ゲームにインして聞きに行った方が……」

「いいからいいから」


 ゆうすけの部屋に行くのを怖がっている母さんの背中を押していく。

 サプライズはもうすぐだ。


 コンコン。

 部屋に入っていいものか未だ戸惑っている母さんの代わりにノックする。


「どうぞー」

「ほら母さん、大丈夫みたいだよ」

「じゃ、じゃあ……」


 そして母さんが部屋に入ると……。


 パーン!


「ひゃあっ! なんだいなんだい?」

「母さん、誕生日おめでとう」

「えっ!? 私の誕生日……あああああっ!」


 ゆうすけがクラッカーを鳴らすとともに祝福の言葉を発する。

 母さんは驚いて落ち着いてまた驚いた。


「あわわわわっ……」

「母さん落ち着いて、その箱開けてみてよ」

「う、うん……」


 母さんは震える手でゆっくりと箱を開けていく。

 中から出てきたのは、可愛らしいラッピングに包まれたなにか。

 

「これは……」

「もちろんプレゼントだよ。僕一昨日兄ちゃんと出かけでしょ。あれ実は2人でバイトに行ったんだよ。だからそれ……僕の人生の初給料で買ったんだ」

「ゆうすけ……」


 母さんの目には涙が浮かんでいる。

 誕生日だからなにかが起こることは予想してかもしれないけど、ゆうすけがバイトまでしてプレゼントを買うなんて予想していなかっただろう。


「ゆうすけ……がんばったんだねえ……」

「うん、開けてみて」

「なんだろう……がさごそ……」


 そう言って母さんが取りだしたのは……たくさんの花で飾り付けられた小さな鳥かごだ。

 プリザーブドフラワーという、花を新鮮なままの見た目にしておけるやつだ。

 写真では見たが、実物もなかなか綺麗だな。

 あ、中に可愛い鳥のおもちゃが入っている。


「綺麗だねえ……えっと……ブリザード……フラワー? 凍らせてるのかねえ?」

「プリザーブドフラワーだよ、母さん」

「そうなのかい……歳のせいか目がかすんじゃって読めないんだよ……うう……」

「何言ってるの。まだ若いんだからさ……」

「ううう……」


 いい意味で親を泣かせるのって気持ちいいもんだなあ。

 あれは何年も枯れずにもつらしいし、母さんの宝物になるだろう。

 母さんが落ち着くのを待って、俺はケーキを出すことにした。


「母さん、俺からはケーキだよ」

「うう……タカシもありがとうねえ」


 このままゆうすけの部屋でやってもいいが、やはりケーキはちゃんとしたテーブルで食べたい。

 3人でリビングまで移動することにした。


 ロウソクを47本も立てるとスプリンクラーが作動しかねないので、4と7の形をしたロウソクを立てて火をつけた。

 そしてゆうすけとハッピバースデーの歌を歌い、ちょっとした誕生会ははじまった。


「このケーキ可愛いねえ。上に乗ってるお菓子の人形、かしわもちみたいだよ」

「母さんのキャラに似てるのがあったから、それにしてもらったんだ。それ食べていいよ」

「じゃあ僕切るね」


 ゆうすけがゆっくりとケーキを切りわけ、3つの皿にのせた。

 母さんの皿にはおめでとうのチョコプレートと、緑色のおかっぱあたまの人形ものせられた。


「今日はいい日だねえ。生まれてきてから一番いい日だよ。一番おいしいケーキだよ」


 なんていうか、俺もゆうすけもやり遂げた気持ちでいっぱいだった。

 ゆうすけはどんなバイトをしたのか、母さんに語って聞かせている。

 後ろめたさも何もない、いい顔をしているな。

 母さんはとても優しい顔でそれを聞いている。


 さて、そろそろいいかな。

 ゲームの中にも母さんを連れていかなくては。


「母さん、今日は家事あと何が残ってるの? 手伝うから終わったらゲームしようよ」

「もうほとんど終わってるよ。次はお昼ご飯作って、昼過ぎに洗濯もの取りこむだけだよ」

「じゃあさ、俺がおごるから昼は出前にしようよ」

「あらあら、タカシのおごりなんて嬉しいねえ」


 というわけで出前の注文予約だけしておき、3人でゲームの世界へ入っていくのであった。



――Welcome to Eternal Fantasy――


「母さん、こっちだよ」

「はいはい、どこ行くのかねえ」


 各街には、貸し切りにできるイベントスペースがある。

 今日の誕生日パーティーのために押さえておいたわけだ。

 そこにギルドメンバーとクーピーちゃんが集まって、先にわいわいしているはず。

 俺がもうすぐ行くと伝えてあるので、今待機しているはずだ。


「さあ母さん、ここ入って」

「ふふ、今度は何が出てきても驚かないよ」


 かしわもちが入り口をくぐると……たくさんのクラッカー音が出迎えた。


「かしわもちさん、誕生日おめでとー」

「おめでとー」

「おめでとう!」

「お母様、おめでとうございます」

「まあまあみんな、ありがとうねー」


 驚きはしないが、とても嬉しそうにみんなに挨拶をしていくかしわもち。

 だが実は、俺はもう一つサプライズを用意してある。

 えーと……この中にいるはずなんだけど。

 お、見慣れぬホビホビ族の男がかしわもちに近寄っていく。

 初心者マークをつけているので、ゲーム始めたてのようだ。


「やあやあ、かしわもちさん」

「えっと……どなたでしょう?」

「ふふふ、私だよ」

「だれ?」


 急に現れたその男こそ……。


「君の夫だよ」

「え!? あんたなのかい? でもどうして……」

「タカシにいろいろ聞いてね。昨日ゲームの設定を済ませた。日本には帰れなかったが、こうして会いに来たよ。誕生日おめでとう」

「そ、そうなんだ……ありがとね……」


 そう、あれこそが俺とゆうすけの実の父親である。

 なお、冒頭の話は俺の創作だ。

 父さんは単身赴任で海外に行っている。

 忙しいため、母さんの誕生日には帰ってこれなかった。

 でもゲームにインする時間だけは作った……というか作らせた。

 俺が最近の近況報告をして、母さんへのサプライズで始めさせたわけだ。

 俺もなかなかやるとは思わないか?


「かしわもち、愛しているよ」

「あんた……」


 そしてたくさんの人がいる中で抱き合うホビホビ族2人。

 なかなか絵になるな。

 まわりから拍手や歓声が飛び交っている。

 あれ? 泣きながら走って出ていく鎧姿の男がいるぞ。

 あんなのうちのギルドにいただろうか?

 まあいいか……。


 とまあこんな感じで、母さんの誕生日は無事に過ぎ去ったのだった。

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