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16.大魔王カーチャン

「ふはははは! お前たちの力はそんなものか」

「くうっ! 強い……」


 俺たちは今魔王かしわもちと戦っている。

 だが……圧倒的な強さの前に敗北寸前だった。


「ながれよ、げっこう」


 魔王かしわもちが空にフライパンをかざすと、空からたくさんの目玉焼きが降ってきた。

 げっこうメテオ……避ける術はなく、俺たちは瀕死となった。


「だめだ、逃げるぞユース」

「でも……母さんをあのままにしておけないよ」

「気持ちはわかるが今は引くんだ。母さんを助けるチャンスはきっと来る!」

「ううう……」

「ふはははは! 逃げられると思うてか。復活せよ、四天王」


 逃げようとした俺たちの前に……倒したはずの四天王が現れた。

 白い粉、水、こしあん、柏の葉っぱ……。

 だめだ……もう全滅か……。


「そもそもタカシにゆうすけ、そんな装備で魔王討伐に来るなんて何考えてるんだい? そんな安物ばっかり買ってないで、レアモンスターをはりこんでいい装備を取ったらどうなんだい?」

「くうっ!」

「だいたいね、1時間のダメージレートが5万程度だなんて……母さん恥ずかしくて世間様に顔向けできないよ」


 なんということだ。

 まさかゲームを始めたての母さんにここまで言われてしまうなんて……。

 どうして……こんなことになってしまったんだ……。



   ***



 話は3日前に遡る……ということもない。

 俺は今、エターナルファンタジーを題材とした小説を書いているんだ。

 目的はエターナルノベル大賞に応募することだ。

 『みんなでエタれば怖くない』を合言葉に、割とみんな執筆しているようだ。

 なにせ賞品はゲーム内のレアアイテムだったり、ユニークスキルらしいからな。

 そりゃあはりきるさ。


 俺は最近の母さんの行動をそのまま書けばいい線行くと考えた。

 で、書いてみたはいいが文字数が足りないんだ。

 そんなわけで、でっちあげの話を追加したんだが……正直だめだな。

 ネタがないからって、こんなあからさまなウケ狙いはよくないと思う。

 こんな小説が連載されていたら、きっともうすぐ打ちきりだろう。


 というわけで俺はネタを求めてかしわもちを探しに行くのであった。

 なお、本日かしわもちは第3の街……ガルームの街にいる。

 夏祭りは各街でイベントがあるため、すぐワープできるように冒険して移動したんだ。

 その道中はたいして面白いことはなかった。

 せいぜいかしわもちが砂丘のアリ地獄に引っ掛かって、たまたま空を通りかかった鳥の守り神様が助けてくれたくらいだ。


 さて……とある民家でかしわもちを発見した。

 どうやら今日も1人で街を観光しているようだ。

 ここもなにかしらのクエストを受けられる場所だったかな?

 中ではかしわもちとNPC人妻が会話をしていた。


「あらまあ、息子さんが亀の甲羅に閉じこもっちゃったのかい?」

「そうなんです……なにかいい手はないでしょうか」

「そうだねえ、私の息子も最近似たようなことがあってねえ。あることをしたら外に出るようになったんだよ」

「まあ……ぜひその方法を教えていただきたいですわ」


 ああ、ここはたしかひきこもり息子がいる家だったか。

 あろうことか、巨大な亀の甲羅にひきこもってしまったのだ。

 亀の甲羅の中が落ち着くという謎の行為、一説には亀の呪いと呼ばれている。


「息子の趣味を一緒にやってみたんだよ。そしたら少しずつ心を開いてくれてねえ」

「なるほど……。じゃあ私も同じように甲羅に入ってみれば通じ合えるのかしら?」

「きっとそうだよ、やってみなよ」

「でもあんな大きな甲羅いったいどこに……。冒険者さん、甲羅を取って来ていただけませんか?

「まかせときな!」


 なんかクエストを受けたらしい。

 基本的にクエストはランダムでいろんなバリエーションがあると聞く。

 かしわもちは俺の知らないクエストを見つける天才なのかもしれないな。

 

「タカシー、どこー?」


 おや、母さんが俺を呼んでいる。

 いつも通り物陰で姿を消す魔法を解いて現れるとしよう。


「母さん偶然だね、なんか呼んだ?」

「あ、そっちにいたのかい。そんなわけだから、亀の甲羅探し付き合ってよ」

「う、うん……」


 まるで俺が話を聞いていたことを知っているような口ぶり……。

 もしや母さんは俺が姿を消して見守っていたことを知っているのだろうか?

 あなどれぬやつよ……。


 というわけで、珍しくかしわもちと2人PTを組んで外へ冒険に行くことになった。

 ゆうすけは今夏祭りの準備中だ。

 なんでも、屋台で売るための木工品を作るんだとか。

 きっと木彫りのかしわもち人形でも作っているのだろう。


「それで亀はどこにいるんだい?」

「湿地帯の方にいるはずだよ。少し歩くから」

「亀だから水のあるところなんだねえ」


 景色をのんびり眺めながら、てくてくと歩く。

 いい天気だし気持ちいいなあ……どうせならもっと若い女の子とデートしたかったよ。

 あれ? なんだかかしわもちがやけに俺にくっついてくるぞ。


「母さん、どうしたの?」

「タカシ君、2人っきりだね」

「え? なんか気持ち悪いよ」

「いいんだよ、ゲームの中なんだから今日は私を恋人と思いなよ」


 俺はかしわもちの顔を見つめてみた。

 とてもとても可愛らしい顔をしている。

 だが……その顔とダブって真実の姿が俺の脳内に映し出された。


「お断りします……」

「つれない子だねえ……。ゆうすけとクーピーちゃんをうらやましがってそうだから気を効かせてあげたのに」

「もっと別方向でお願い……」

「そうかい」


 と、あほなことをやっている間に沼についた。


「わあ、亀が2足歩行してるよ。どんな進化したんだい?」

「たしかね、昔人間が亀の卵を盗りまくったらしいんだ。それで絶滅しかけた亀が自分たちを守るために急速進化したらしいよ。だから亀だけど足は速いからね」

「やっぱり親は強いんだねえ。でもその話聞いたら甲羅奪いにくくなっちゃうよ……」

「ゲームの設定だから問題ないよ」

「そっか……じゃあ殴っちゃおっと」

「あ、待って!」


 止める間もなく、かしわもちは1体の亀をフライパンで殴りつけた。

 この亀……こちらから攻撃しないかぎり襲ってはこないのだが、攻撃すると近くにいる亀も参戦してくる。

 今……亀はすごい近くに並んでいたんだ。

 つまり……5匹の亀がかしわもちに向かって走ってきた。


「母さん、走って逃げるよ!」

「え? え? ひゃあああー!」


 かしわもちも危機を察したようで、大慌てで逃げだす。

 よし、楽しいイベントが起きたぞ。

 ただ……これだけではネタとして弱い。

 もう1個くらいなにか起きないかなあ?


「タカシー、あれ全部は倒せないの?」

「さすがに無理! ある程度逃げたらあきらめるから走って」

「あいよー! あ、でもあれやってみようかね。エグディル!」


 時々2、3個卵を生み出すそのスキルを発動させると、かしわもちの手に卵が3つ現れた。

 いや……今使っても意味ないでしょうよ……。

 そして、走っていたせいで卵を地面に落とすかしわもち。


「あー! 落としちゃった」

「とりあえずあきらめて今は走ろう! 後で拾いに来ればいいから」

「で、でもあのままじゃ踏まれちゃうよ!」


 あろうことか、かしわもちは落ちた卵に向かって飛びこんだ。

 そして周りを亀に囲まれてしまう……。

 かしわもち……絶体絶命の危機!

 でも……なぜか亀はかしわもちを襲わなかった。

 まさかとは思うけど……卵を守っている姿に心を打たれた?

 もしかしてこの卵の隠し効果だったり?

 そしてUターンして帰っていく亀の集団。


「あれれ? 助かったの?」

「そうみたい……卵を守る姿に過去の自分達を思い出したんじゃないかな。今の母さん、普通の亀みたいな格好だし」

「そっか、母の愛が通じたんだね」


 まあそうなんだけど……自分で言わないでほしかったり。

 この後、ゆっくり沼へ帰っていく亀を不意打ちして甲羅をいただきましたとさ。

 あと卵焼きも食べました。おいしかったです。

 そして街へ帰還だ。


「はい、亀の甲羅持ってきたよ」

「ありがとうございます! ではさっそく入ってみますね」

「息子さんと分かりあえるといいね」

「はい……。あ、これお礼です」

「どうもね」


 家の中には巨大な亀の甲羅が2つ並ぶこととなった。

 はたしてこれでよかったのか……。

 様々な謎を残し、俺たちは民家を後にした。


「ふー、今日も冒険したねえ」

「母さんもこのゲームにだいぶはまったみたいだね」

「うん。ゆうすけはもう大丈夫そうだし、しばらくはゲーム楽しむよ」

「そっか、楽しんでるならよかったよ」


 ゆうすけの引きこもりが治っても、母さんはゲームを続けるみたいだな。

 これからも楽しくなりそうで何よりだ。

 さあ、明日は母さんの誕生日だぞ。

 サプライズは成功なるか、乞うご期待!

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