15.バイト戦士、ゆうすけ
俺は昨日から実家に帰ってきている。
ちゃんとゲームをするためのヘッドセットも持ってきているので、エタることも可能だ。
昨日も3人で一緒にインして潮干狩りをした。
たいした潮騒動もなく、平和な1日だったのが少し残念だ。
今は朝食を3人で食べている。
「母さん、今日はゆうすけと遊びに行ってくるよ」
「そうかい、どこへ行くんだい?」
「ゲーセンとか、買い物とかかな」
「おやおや、外でもゲームなんだね。熱中症に気をつけていっておいで」
「ああ、クーラーの効いた場所にいるから大丈夫だよ。お昼は外で食べて夕方には帰るよ」
もちろん遊びに行くのは嘘で、今日はゆうすけと一緒に俺の知り合いのところへバイトに行く。
そのお金で母さんへの誕生日プレゼントをするわけだ。
さて、ゆうすけはちゃんと働けるのだろうか。
俺はできると信じているぞ。
「というわけでいってきまーす」
「いってきます」
「いってらっしゃーい」
母さんはとってもニコニコしていた。
ゆうすけが久しぶりに外へ出るからだろう。
そのゆうすけはすごく緊張した顔だ。
なんせ人生初の仕事だからな。
「ねえ兄ちゃん、そのおじさんとはどういう知り合いなの?」
「高校の時の友達の父さんだよ。なにか知らんが気に入られてな」
「今日はその友達もいるの?」
「いや、そいつは結構遠くに就職しててな。滅多に帰ってこれないらしいんだ」
「そうなんだ」
というわけで男手がほしいということで俺が呼ばれたわけだ。
おっちゃんは古物商をしていて、倉庫の整理と掃除をしたいらしい。
だから信用できるバイトを探していた。
俺のことを信用してくれているというのはとてもありがたいことである。
そして……以下略。
特に問題も起きず手伝いをし、ゆうすけもおっちゃんに気に入られていい感じである。
今はお昼ご飯として出前をごちそうになりつつ休憩中だ。
おっちゃんの休憩部屋らしいんだが、俺は見覚えのあるものを見つけた。
EFと刻印されたヘッドセットだ。
「あれ? おっちゃんもエタってるの?」
「お、知ってるのか。仕事の合間にちびちびとやってるぞ。客が来た音がしたらログアウトしてだな」
「器用なことしてるんだね……。俺とゆうすけもやってるんだよ」
「お、そうなのか。どこサーバーだ?」
いろいろ話した結果、おっちゃんも俺たちと同じサーバーだった。
てゆうか同じギルドメンバーだった。
てゆうか農業大好きファームさんの中の人だった。
世間は狭い。
「お前らがカーターとユースだったとはなあ……」
「すごい偶然があるもんだね」
「いや、こういうことって稀によくあるらしいぞ。聞いたところによると、近くの人間が同サーバーになりやすいようになってるらしい」
「そうなんだ」
「ゲームにはまりすぎて外に出ない人ってのが問題になってるだろう? ゲーム内で仲良くなった人が近くにいるとわかれば、会うために外に出るだろうってことでこうしているらしいんだ」
「なるほど……。おじさんよく知ってますね」
「だてに長生きしてないからな」
ゆうすけがなんとなく嬉しそうな顔をしているように見える。
クーピーちゃんも近くにいるかもしれないと考えているのかもしれない。
俺も出会い探そうかな……。
「じゃあこれからもゲームの中と、外でもでよろしくな。ゆうすけもたまに手伝いに来てくれると助かるんだが」
「あ、はい。ぜひお願いしたいです」
そんなわけで、ゆうすけのバイトも今日だけでなく定期的にやることになった。
いやあ、偶然のおかげでなんともめでたい。
母さんの誕生日が終わるまでは、ファームさんがお近所さんだったこととバイトの件は内緒にしてもらうことにした。
そしてお昼からも問題なくバイトをこなした。
最初は無口だったゆうすけも、ゲーム内でよく知っていた人ということで徐々に打ち解けていった。
これなら次回のバイトは俺がいなくても問題ないだろう。
そして夕方となり、今日の仕事は終わりを告げるのであった。
「お疲れさん、今日の給料だ」
「ありがとうございます。……あれ? なんだか多くない?」
「おう、色つけといたぜ。2人ともしっかりやってくれたし、ゆうすけもまた来てくれるって言うしな」
「ありがとうございます。僕がんばりますね」
「おう、頼んだぜ」
そして別れを告げておっちゃんの家から出た。
「じゃあ兄ちゃん、これ立て替えといてもらったプレゼントのお金」
「おう」
「この余ったお金で母さんにおみやげ買おうか」
「そうだな、あっちの和菓子屋に行くか」
というわけでおみやげを買って帰った。
ゆうすけはバイト代を全部母さんにつぎこむようだ。
ええ子やでえ。
俺のバイト代は明後日の誕生日ケーキ代となる。
そうだ、予約しに行かなきゃな。
予定よりちょっとだけ豪華なケーキになりそうだ。
そして我が家へと帰ってきた。
「ただいまー」
「ただいま」
「おかえりー、ご飯にする? お風呂にする? それともエタるかい?」
「お風呂かな。すごい汗かいちゃったよ」
「じゃあ入っといで」
「兄ちゃん先にどうぞ」
「おう」
ということで順番に風呂に入って夕飯を食べた。
そして夕飯を食べ、母さんの家事をゆうすけと一緒に手伝った。
この後はもちろんみんなでエタるわけだ。
――Welcome to Eternal Fantasy――
さて、今日の予定は昨日から決めてあった。
かしわもちとクーピーちゃんが調理スキルを上げるのだ。
ここタルタロスの街は食材が豊富に集まるのでやりやすい。
ここ数日でたくさん食材を集めたので、一気に料理を作るわけだ。
なお、今日もクーピーちゃんの家にお邪魔している。
「げっこう、げっこう~」
「やきそばやきそば~」
かしわもちとクーピーちゃんの合作、月光やきそばが完成したようだ。
なんのことはない、目玉焼きを乗せた焼きそばだ。
このゲームはある程度まで創作料理を作ることができる。
作ったものを運営に送ればなんやかんやしてアイテム登録もされる。
もちろんゲーム内で食べた時の味にも反映されるのだ。
今回はもともとあるものの組み合わせなので、味登録は必要ない。
名前はすぐに承認されて、アイテム欄に月光焼きそばと出てきた。
創作料理を作っていることにも目的がある。
もうすぐゲーム内の夏祭りが開催されるので、そこの屋台で売りだすのだ。
祭りの雰囲気に合ったものを売れば、そこそこ儲かる。
あと、守り神様の鳥がくれた卵を産み出すスキルの目玉焼き。
あれは限定30食で高めに売る予定だ。
「タカシー、そっちはどうだい?」
「焼きトウモロコシはスキル低くても作れるから任せて。あとは母さんの秘伝タレ塗ればばっちりだよ」
「そうかい、運営さんに早く承認されるといいねえ」
母さんは何気に料理上手なので、このトウモロコシはヒットするに違いない。
現実の料理のうまさが反映する素晴らしいゲームである。
ちなみに、俺の頭は金儲けのことでいっぱいだった。
そしてゆうすけは、屋台の道具を作っている。
何気にこいつはゲーム内の木工スキルを上げているのだ。
クーピーちゃんの部屋の家具もある程度ゆうすけが作ったらしい。
「母さん、看板はこんなんでどうかな?」
「おお! いいじゃないの。ゆうすけは器用なんだねえ」
「ユース君すごーい」
ほほう、なかなか可愛らしい看板ができている。
『母の味 かしわもち屋』
うん、かしわもち売ってると勘違いされそうだ。
というわけで、俺はかしわもちの材料を買いに行くことにした。
看板に偽りがあってはならない。
そんな感じで、夏祭りに向けた準備は進んでいく。
なお、知り合いのおっちゃんことファームさんは大量の食材を送ってきてくれている。
タダでくれているらしいが、それでは母さんが納得しないので売り上げの一部を渡すことにしておいた。
気分は文化祭だ。
ゆうすけは現実の文化祭をさぼっていたので、これで楽しめてるといいな。
あとクーピーちゃんとの仲も発展しますようにと。




