14.立ち上がれカーチャン!
子供たちと卵の護衛は順調だ。
この山は見晴らしもよく、大した敵もいない。
普段おとなしい鳥が襲ってきたからといって問題はなかった。
そんなわけで無事頂上の鳥の巣までやってきた。
ここはたしか……高レベルの集団でも倒せない巨大な鳥モンスターがいる場所のはずだ。
倒されたなんて話は聞かないから、クエスト用に留守なのだろうか?
「守り神の鳥はいないんだな」
「何を言ってるんだ。その卵が守り神様だぞ」
「え?」
「お前大人のくせに何も知らないんだな。守り神様は何年かに一度、卵の姿に戻って生まれ変わるんだぞ」
そんな設定があったのか……。
だとすると、このクエストに巡り合えたのはすごい幸運なわけだ。
もしかするとクエスト報酬は唯一無二のものかもしれないな。
「よし、じゃあ卵を巣に戻すんだ」
「了解!」
俺とゆうすけで卵を台車から持ち上げ、巣へと返す。
これでクエストは終わりなのだろうか?
なにかここでイベントがあるのではないかと期待していると、誰かがやってきたようだ。
「その卵はあたしがもらうよ」
そこにいいたのはニャコラ族の女NPCのようだ。
深紅の革鎧に身を包んでいるその名も……。
「女盗賊……クリムゾン・ニャニャーゴ!」
団長が叫んだ。
この女盗賊はタルタロスの街で割と有名人だ。
結構いろんなクエストに出てくる。
イベント次第で敵になったり味方になったりするのだが、今日は敵のようだ。
「卵をレストランから盗もうと思ったんだけど、まさか先を越されるとはね。おかげで山登りする羽目になっちゃったじゃないか」
「お前みたいに悪い奴に卵は渡さないぞ!」
「ふん、怪我したくなけりゃ引っ込んでな」
「くそう……カーター、ユース、あいつを倒してくれ」
「お、おう……」
なんか戦わなきゃいけないらしい……。
でもあいつ結構強い設定のはずだぞ。
なんか巨大なブーメランを持っていて怖いし……。
レベルを制限されて弱くなっている俺たちに勝てるのだろうか?
クエスト用に弱くなっている可能性もあると信じよう。
「よし、俺が盾になる。ユースは攻撃してくれ」
「わかった!」
「お兄さん、気をつけて!」
「タカシー、やっちゃえー!」
俺はまず戦士の能力、鉄壁を発動させる。
攻撃力が下がるが防御力が上がる能力だ。
これで敵の攻撃を受け止め、味方の盾となる。
やばい、なんか俺かっこいい?
「しゃらくさいねえ……」
「ふごっ!」
あれ? 俺は一撃のもとに倒されてしまった……。
そうか……これはイベント戦闘なんだな。
ユースもクーピーちゃんもかしわもちもあっさりと倒されてしまったようだ。
あとはイベントを眺めておくか……。
きっと子供たちがなんとかするんだろう。
もしくはクエストがまだまだ続くのか……。
「まったく手ごたえのない奴らだねえ。あたしの仕事が終わるまでそこで寝てな」
「くそう……ニャニャーゴがあんな強いなんて……こうなったらやるぞみんな!」
「おー!」
「玉ねぎ爆弾を食らうのにゃー!」
「ふんっ……」
爆弾をあっさりと避けるニャニャーゴ。
子供たちでは勝てるはずがない……。
団長はあっさりと首根っこをつかまれてしまった。
「ふん、子供なんかに何もできるわけないだろう。とっととどきな。あ、その台車ももらっていくよ」
「くそう、離せよー」
うーん……この状況は負けイベントでまた卵を取り返しに行く流れかな。
と思っていると立ち上がる人影。
そう、かしわもちだ。
ちなみに……実は俺も立ち上がれるのだけど、イベントの進行を黙って見ていたいのでしない。
下手したらNPCにガン無視されて雰囲気が壊れちゃうからね。
だが、ゲーム初心者のかしわもちにそんなことは関係ない。
俺は黙って見守ろう。
「なに勝手なことばかり言ってるんだい……あんたは……」
「ん? 弱い奴はおとなしく寝てな。どうせお前も何もできやしないんだから」
「そんなことない……」
「あん? 何ができるって言うんだい」
「私のことじゃないよ……。その子たち……みんな鳥のために一生懸命やってるんだ。そのみんなに対して……何もできないなんて言わせないよ!」
そのかしわもちの叫びに合わせるかのように、後方で光が立ち昇った。
あれは卵か?
おそらくはあのまま見ていてもはじまったイベントだと思うのだが、今の流れだとかしわもちが奇跡を起こした感じでなんともドラマチック……。
「な、なんだい? もしかして孵化しちまったのかい?」
「やった! これで守り神様が帰ってくる。ニャニャーゴ、逃げるなら今のうちだぞ」
「しゃ、しゃらくさい! 生まれたばかりの鳥に何ができる。小鳥の親になってさらって行ってやるよ」
ニャニャーゴは卵に向かってダッシュする。
初めて見た人間を親と思う刷り込み効果を狙っている?
かしわもちも追いかけようとするが、今はダメージが大きくて走れない。
しかし……卵から出た光はニャニャーゴを無視してかしわもちに飛びこんだ。
「あーれー」
「かしわもち!?」
緊張感のない悲鳴を上げるかしわもち。
そして光がおさまり、その姿が見えてきた。
かしわもちの顔にはくちばし、手は羽になり、お尻には尾羽がついている。
でも……なんだか俺は似たような姿を小学校の学芸会で見たことがある……。
システムさん、作業が手抜きですよ!
「な、なんだか鳥になっちゃったよ」
「守り神様が一時的にかしわもちに力を貸してくれてるんだ。そのままニャニャーゴをやっつけてくれ」
「なな……なんだいその変な姿は……。くううっ……」
ニャニャーゴは恐怖におびえているが、俺は笑いをこらえるのに精いっぱいだ。
ゆうすけとクーピーちゃんを見ると同じような顔をしている。
さあ、何が起きるんだ……記念写真は忘れずにと。
「なんだか頭に変な声が響いてくるよ?」
「その守り神様の声にしたがうんだ」
「むむむむむむ……」
「がんばれかしわもち!」
「ふんっ!」
かしわもちが力むような声を出すと……尾羽から、2個の卵が落ちてきた。
もしかして産んだ?
「卵だねえ、どうしよう……」
「かしわもち、それでげっこうをするんだ。みんな! 力を貸せ」
「わかったにゃー!」
子供たちが全員かしわもちを取り囲み手をつなぐ。
何故か俺たち大人3人も、いつの間にか手をつないでかしわもちを囲んでいた。
「かしわもち、みんなの正義の力をひとつに!」
「いくよ!」
『我らムーンオニオンズ団! ユニゾンげっこう!』
目の前にカンニングペーパーが現れたので、俺も叫んでみた。
かしわもちの持つフライパンにはいつも通り目玉焼きが現れている。
そして……。
「食らいなっ!」
綺麗な軌跡を描いて……目玉焼きはニャニャーゴの顔にぶつかった。
「あちちちち! な、なんだいこれは……顔から離れないよ!」
「ちゃんと食べてごちそうさまを言うまでそれは取れないよ。とっとと帰って手を洗ってフォークを用意しな」
「くううっ! 覚えてろっ!」
かしわもちの決め台詞を聞きながらニャニャーゴは逃げて行った。
つまり……俺たちは勝利したようだ。
そしてまたかしわもちの体が光に包まれ……元の姿にもどった。
巣の上には光る小さな鳥がいる。
「よし、守り神様は無事巣に帰れた。ミッションは成功だ!」
「わーいわーい」
「やったのにゃー」
喜ぶちびっ子たちと俺たち大人4人。
今までで一番楽しいイベントだったかもしれない。
鳥はお礼を言うように俺たちの周りを飛び回った後、空へと消えていった。
「守り神様はこれから世界を回って……生まれ変わったことをみんなに伝えに行くんだ」
「幻想的だねえ」
「みんな、ありがとうな。じゃあ先に帰るよ。また秘密基地に遊びに来てくれよな」
「うん、また行くよ」
団長がいい感じにクエストの終わりを告げて去って行った。
クエスト報酬なし、思い出はプライスレス。
いや、クエストをメインで受けたかしわもちはなにかあるかもしれない。
「母さん、なにか変化はないの?」
「なんかねえ、ユニークスキルを入手って出たよ」
「なっ!?」
ユニークスキルとは、このゲーム内で滅多に手に入ることのないスキルだ。
持っているだけで英雄だとかエタ廃人だとか崇められる。
それをゲームを始めて4日目のかしわもちが入手とは……運が良すぎである。
「母さん、ちょっとステータス画面見せてね」
「いいよ、ほらこれ」
――エグディル:時々2、3個卵を生み出す――
え? それだけ?
戦い用じゃないユニークスキルのようだ。
経済的だし、料理人のかしわもちにはいいものだけどさ……なんか違う……。
「ちょっと使ってみるね……ふううううううんっ!」
「おお!」
かしわもちの手に卵が3つ乗っていた。
お尻からでなくてよかった……。
「あ、さっきの卵と合わせて4つあるね。小腹すいたしゆで卵作ろうか」
「あ、食べてみたい」
「おいしそうですね」
というわけで……ゆで卵が4つ完成した。
食べてみると……。
「うますぎる! なにこれ……」
「母さんいいスキル手に入れたねえ」
「すごいです!」
「えへへ、これでまたおいしい料理が作れるよ」
拍子抜けはしたけど……なんだか楽しいな。
俺は卵を食べながら、先ほどの戦いのことを思い出していた。
そして遥か昔の子供の頃の思い出も……。
原因は忘れたが、俺はなにかをやらかして友達に役立たずと馬鹿にされて……泣いて家に帰ったんだ。
そしたら母さんはこう言ってくれた。
『お前はやればできる子なんだよ。友達に何を言われようと……母さんはお前がなんでもできる子だって知ってるからね』
もし母さんがあの友達に馬鹿にされている現場にいたら……きっとさっきと同じことを言ってくれたんだろう。
おっと……さっき不発になっていた玉ねぎ爆弾の効果がやってきたようだ……。




