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12.カーチャン、はじめてのおつかい

「それじゃあいってくるね」

「うん、ゆっくりしてきてよ。いってらっしゃい」

「いってらっしゃいませ、お母様」


 おやおや、かしわもちちゃんは1人で買い物に出かけるみたいです。

 でもそれは建前で……ゆうすけ君とその彼女候補のクーピーちゃんを2人きりにしようとしているみたい。

 私、天の声は優しく見守ろうと思います。


 さて、かしわもちちゃんはこの世界に生まれ落ちて4日目。

 当然右も左もわかりません。

 いったいどんな困難が待ち受けているのでしょうか?

 

「えーと……とうがらしとニンニクと鳥肉と玉ねぎだね。これがホビホビ風串焼の材料かあ」


 買い物メモをしっかりと確認するかしわもち。

 どうやらおいしそうな串焼を作るみたい。

 串は買わなくてもいいのかな?


「地図はと……。近いのは八百屋さんかねえ」


 ちゃんと地図を見て確認するかしわもち。

 いつの間にかあんなことまでできるようになったようだ。

 みんなの期待に応えず、正しい道を進んでいく。

 ゆうすけがいないときは緊張していないせいか、ドジっ子属性は消えるみたいだ。


「たまねぎくださいなー」

「たまねぎくださいにゃー」

「あれ?」

「にゃ?」


 どうやら同時に来たお客さんが玉ねぎをご所望のよう。

 猫耳を生やした小さな女の子のようだ。

 優しいかしわもちは、当然先に買わせてあげましたとさ。


「ありがとにゃー」

「重いから気をつけて帰るんだよ」

「わかったにゃー」


 女の子は玉ねぎを4つ抱えて走っていった。

 ちなみにその女の子はNPCだ。

 NPCが買い物をしているのは初めて見たな。

 というわけで新イベントの予感がして、俺は女の子の後をつけることにした。

 別に猫耳っ娘が好きというわけではないよ。

 ちなみにあれはニャコラ族、猫のような容姿と素早さが特徴。

 ホビホビ族と並んで人気のある種族だ。


 というわけで、特別企画『かしわもち、初めてのお使い』は低視聴率のため打ちきりとさせていただきます。

 なんせあのまま追跡しても面白くなさそうだから……。

 俺もたまには自分の冒険をするとしよう。


「にゃーにゃー」


 ちびっ子は元気いっぱいだ。

 すごく速く走るので、追いかけるのが少し大変だ。

 しかし、物陰に来たあたりで動きを止めた。

 玉ねぎを見つめて何をしているんだろう?


「うう……もう我慢できないのにゃあ……。にゃうっ!」


 おおう……玉ねぎにかぶりついたぞ。

 辛くないんだろうか……。

 そしてみるみるうちにかじられて小さくなっていく玉ねぎ。

 やがて……玉ねぎは少女の胃の中へと消えていった。


「にゃにゃ! またやっちゃったのにゃあ……団長に怒られちゃうのにゃあ。もうお金もなくて買えないのにゃあ」


 俺はここで思い出した。

 玉ねぎを1つ渡すクエストをクリアしたことを……。

 新イベントかと思いきや、クエストの前振りをしていたようだ。

 なんとも細かい設定のゲームだな。

 ちなみにこの少女は街全体を走り回るので、探すのは結構大変だったりする。


「ううう……困ったのにゃあ……」


 そういえば俺がこのクエストをクリアした時……この子はお腹がすいたから玉ねぎほしいのにゃ、と言っていたな。

 いろんなバリエーションがあるのだろうか?

 もう少し見守っていよう。

 待つ間、街中に響き渡るプレイヤーの大声を聞いていようか。


「レベル上げいきませんかー。回復できるLv15前後の方募集中」

「でっかい卵拾ったんですが、使い道知ってる人いませんかー?」

「どっかの料理人がでっかい卵を探してましたよー」


 パーティーメンバー募集の声はわかるが、後半はなんだろう?

 俺の知らないクエストはまだまだたくさんあるようだな。


 そして半べその少女を見守ること5分。

 ついに人が通りかかった。

 そう、かしわもちである。

 ここからは再放送『かしわもち、初めてのお使い』をお送りいたします。


「おやおや、どうしたんだい。どこか怪我でもしたの?」

「あ、さっきのおねえちゃん。実は……玉ねぎひとつなくしちゃったのにゃ……」

「あらあら、さっき八百屋であった子だね。じゃあおばちゃんが一緒に探してあげようね」

「ありがとにゃあ。でもずっと探してるけど見つからにゃくて……川に落ちたのかも」


 母さん……その子嘘ついてますよ……。

 いやまあ……NPCの設定がおかしいだけでこの子が悪いんじゃないけど……。

 

「じゃあ……おばちゃん玉ねぎ買いすぎたからね、ひとつあげちゃうよ」

「にゃにゃ!? ほんとかにゃ!」

「うん、じゃあこれ……。もうなくさないようにするんだよ」

「ありがとだにゃー。じゃああの……お礼したいからついてきてほしいのにゃあ」

「え? お礼なんていいよ」

「だめなのにゃあ、恩はちゃんと返すのがうちらの礼儀なのにゃあ」

「そうかい……じゃあ……」


 あれ? 予想してない展開だ。

 俺の時はその場でたくさんの拾った石をくれた。

 ゆうすけは貝殻をもらったらしい。

 かしわもちはどこかへ連れて行かれる?

 ちょっとわくわくしてきたぞ。



 かしわもちは港の方へ連れて行かれたようだ。

 倉庫がたくさん並んでいる場所。

 たどり着いた場所には5人の子供NPCがいた。

 たしかここは子供たちの秘密基地だったっけ?

 おそろいの玉ねぎの形をした帽子をかぶっているので……玉ねぎ団だったかな?


「団長ー、玉ねぎ買ってきたのにゃー」

「おう、遅かったなあ。あれ? なんで大人が一緒なんだ?」

「実は玉ねぎがひとつなくにゃっちゃって……このおねえちゃんが1つ分けてくれたのにゃあ」

「なくなったって……お前また食べたんじゃないだろうなあ」

「ち、ちがうのにゃあ……。それよりこのおねえちゃんにお礼をしたいのにゃあ」


 かしわもちはこの間、満面の笑顔で子供たちを見守っている。

 子供好きだものなあ。

 ゆうすけも昔あんなだったわ、とか考えているに違いない。


「よし、じゃあお礼におまえをボクたちの仲間に入れてやるよ」

「あらあら、それは嬉しいねえ」

「でも一応、入団試験があるんだ。なにか特技を見せてみろ」

「特技かい。それじゃあ……」


 だいぶ昔に終わらせたクエストだが、俺もやったことを思い出した。

 あの時は釣りの腕を見せて、ぎりぎりお情け合格だったなあ。

 さて、かしわもちはフライパンを取り出したようだ。

 もちろんあれをやるのだろう。


「きらめけ月の光、げっこう!」


 なんか今までにない台詞付きで目玉焼きを焼いたぞ……。

 ポーズも……まるで魔法少女のようにキメておられまする。

 なんだか見てはいけないものを見たような気がした……。


「ほ、ほんとだ! 目玉焼きが月に見える!」

「すげー!」

「おいしそうだにゃー!」

「おまえ、大人のくせにやるな……」


 なんかちびっ子たちに大好評のようだ。

 ちょっとだけうらやましい……。


「おい、お前の名前は何というんだ?」

「かしわもちだよ」

「よし、かしわもち。お前を我らが団に歓迎する」

「おやおや、嬉しいねえ」

「さらには、お前を演出係に任命だ。今から決めポーズをするからさっきのをもう1回やってくれ」

「わかったよ」


 なんだなんだ? ちびっ子たちが団長の周りに集まってポーズを取り始めたぞ。

 ちょっと記念写真を撮る準備をしよう。

 ちっちゃな大人のかしわもちは、背が高いので一番後ろでフライパンを構えている。


「では掛け声と共にげっこうを頼んだぞ」

「うん」

「では……我ら……」


『正義の味方! ムーンオニオンズ団!』


 全員で息の合った掛け声と共に、フライパンに目玉焼きが現れ光を放った。

 さらに全員の後ろに玉ねぎっぽい形をした月が現れる。

 やだ……ちょっとかっこいい……。


「よし、これをもってかしわもち入団の儀は終了だ。よろしくな」

「はい、よろしくね。それでこの団は何をするんだい?」

「決まってる! 街の平和を守るんだ」

「なるほど、かっこいいんだねえ」

「ではニャモ、あれを持ってこい」

「わかったにゃー」


 さっき玉ねぎをかじった少女はニャモというらしい。

 鞄から何かを取り出した……。

 あれは俺も持っている、金メダルのように首から下げるような形の団員証だ。


「ではかしわもちにこの団員証を授ける」

「ありがとね。おや、手づくりなんだ。可愛いねえ」


 胸元にきらめくのはメダルではなく、玉ねぎの形をした工作品だ。

 意外にも魔法アイテムで、使うと涙を流すことができてちょっと便利だったりする。


「ではかしわもち、これよりミッションを開始するが準備はいいか?」

「えーと……うん、時間はありそうだね。いいよ」

「では作戦の説明……の前にもう少し人数が欲しいな。もし呼べる仲間がいたら連れてきてもいいぞ」

「じゃあゆうすけたちを呼ぼうかねえ」


 なんだあの展開は?

 これはもしや滅多に見ることができないランダムクエストなのか!?

 かしわもち、なんとも幸運な奴よ。

 よし、面白そうだから俺も参加だ。

 姿を消す魔法の効果を切り、さも偶然通りかかったように行ってみよう。


「母さん、何やってるの?」

「あ、タカシ。ちょうどいいところに来たね。今からこの子たちのお手伝いをするから一緒にやろうよ」

「うん、いいよ。クエストかな」

「あ、お前は下っ端団員のカーター・Cだな。同行を許可する」

「どうも……」


 俺は下っ端のようだが、参加していいようだ。

 もうすぐゆうすけとクーピーちゃんも来るだろう。

 聞いたことのないクエスト、楽しみである。

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