11.カーチャン、特に何もやらかさない
ホビホビ族は男女ともにちっこくて可愛いのが売りである。
そしてここ、タルタロスの街にはホビホビ族がたくさん住んでいる。
だからこの街はかしわもちやクーピーちゃんの故郷とも言えようか。
緑と水に囲まれた、自然豊かでほのぼのできる場所だ。
「ここがクーピーちゃんの住んでる街なんだ。いいところだねえ……」
「はい、家はこっちにあります。すぐ行きますか?」
「そうだねえ、たくさん歩いて疲れたから座りたいかも」
「では行きましょう」
俺たち4人は住宅街に向けて歩いて行く。
とはいっても、家を持っているプレイヤーみんなの家が並んでいるわけではない。
ある特殊なゲートをくぐると、それぞれの家にワープする仕組みだ。
今回はクーピーちゃんに着いて行くことで、パーティーメンバーの俺たちも一緒に家に入れる。
これがまたうまくできていて、ワープした感じは一切なく到着するのだ。
もしかしわもちがまた今度1人で来ようとした場合、ゲートをくぐっても入口に戻るという迷いの森的なホラー状態になるであろう。
「わあ、一軒家なんだねえ。可愛い家だよ。よーし、場所は覚えたよ」
「母さん、ここはクーピーちゃんが一緒にいないと来れない場所だから覚えておいてね」
「あらら、じゃあ急にお邪魔とかできないんだね」
「来たい時はいつでも言っていただければ迎えに行きます」
ちゃんと教えているようだ。
さすがの俺でも、家を見つけられずにさまようかしわもちは見たくない。
そのクーピーちゃんの家は、なんだかお菓子の家のようでメルヘンチックだ。
さっそくお邪魔しよう。
「狭いところですがどうぞ」
「お邪魔します」
「わわわ……。すごく可愛い部屋だね。全部の部屋見たいな」
「じゃあ案内しますね。ユース君とお兄さんは座っててください」
「うん、ありがとう」
そして消えていくクーピーちゃんとかしわもち。
1階建てぽいから部屋は3部屋くらいだろうか?
外見同様に可愛らしい内装だ。
きっとかしわもちは細かく見て回るだろうから、時間がかかるだろうな。
「ゆうすけ、無事たどり着けて良かったな」
「うん、それにしても母さんっていろんな事件起こすね」
「そうだな、ゲーム初心者だからこそのトラブルで面白いよな」
「うん、このゲーム始めてくれてよかったかも……」
「そうか」
よかったね母さん。
当初の予定とはなにか違う気もするけど、ゆうすけは心を開いている。
その心変わりのおかげで今度バイトもするし、社会復帰はできそうだ。
「ねえ兄ちゃん、母さんへのプレゼントは何がいいと思う?」
「ゆうすけが選んだ物ならなんでも喜ぶさ。俺はケーキを買うからな」
「うん、よろしくね。それでお願いがあるんだけど……」
ゆうすけは通販でプレゼントを買うらしい。
バイトの日から誕生日に間がないので、先に俺がクレジットカードで買い物をしておくことになった。
宛名はもちろん母さんで発送するというサプライズだ。
「じゃあ買うもの決めたらメールするね」
「おう、任せとけ」
楽しみだな。
当日は現実世界とゲームの中、両方で誕生日会だ。
俺はギルドのみんなに根回しをしておく。
ゆうすけはクーピーちゃんに声をかけておくことになった。
あ、ゲーム内でもプレゼントしたいな。
「ゆうすけ、ゲーム内でプレゼントするとしたらなんだろう? 母さんは最近調理スキルあげてるのか?」
「うーん、基本的に僕と冒険してるからあまりやってないかも」
「そうか……でも調理道具の類がいいよな。他に思いつかないし」
「僕これあげようと思ってるんだ」
「おおお!?」
ゆうすけが手にしているのはレアアイテムの龍の舌だ。
これは高級食材で、完成する料理を食べると異様に強くなれるそうな。
料理をするにもかなりのスキルが必要で、かしわもちにはまだまだ無理だ。
「これでいつか料理作ってほしいなって思ってるんだ。ほら、なにかしら目標があればがんばれるし」
「そうだな……母さんすごいがんばりそうだぞ」
「だよね。でも無理しちゃいけないから……無理してそうな時は現実で食べたい料理を言って、一緒にゲームを脱出するよ」
「お前しっかり考えてるんだな……」
ゆうすけのやさしさになにか感動した。
ひきこもるという間違いはあったけど、やはりこいつはいい子だ。
「僕ね、ひきこもってすごく申し訳なかったんだ。でもどうしたらいいかわからなくて……。そうしたらまさか母さんが助けに来てくれるなんてね」
「ああ、いい母さんだな」
「うん……」
もうゆうすけは大丈夫だ。
俺はそう確信していた。
だがこの時の俺はまだ知らなかった。
将来、かしわもちが誰もが名を知るほどのエタ廃人になることを……。
「兄ちゃん、何おかしなことを言ってるの?」
「ああすまん、そうなったら面白いなってことを考えてたら声に出してた」
「面白くないって……。そのレベルだと母さんがひきこもりになってるじゃん」
「そうだな、ありえないよな」
「うん、それにもしそうなったら……僕が連れ出しに行くよ」
やばい、俺泣きそう。
ゆうすけのやさしさと……馬鹿なことを考えている間抜けな兄に……。
「兄ちゃんどうかした?」
「いや、お前はすごいなと思ってさ」
「僕がすごいんじゃないよ。母さんと……あとクーピーちゃんのおかげかな」
「クーピーちゃん?」
「兄ちゃんはクーピーちゃんの家庭の事情を聞いた?」
「ああ……なんとなくは……」
クーピーちゃんの母親は娘を放ったらかしにしていて、クーピーちゃんが引きこもり気味になっても気にしていないらしい。
だから、かしわもちのような母親がいるゆうすけがうらやましいと言っていた。
「今まで母さんがいるのって当たり前だと思ってたけど、僕って実は恵まれてるんだなあって気付いたんだよ」
「そうだな、俺たちは幸せだよ」
「だよね」
「でもゆうすけ。クーピーちゃんに感謝してるんだったらさ、そんなつれない態度取らずにもっと構ってあげたらいいのに」
「もっと胸を張れる人間になったらそうするよ」
「そうか……」
なんとなくわかった。
ゆうすけは今の自分が後ろめたいんだな。
だから自分のことを好きになられることを申し訳なく感じているんだ。
クーピーちゃん、もう少し待っていてあげてね。
「ゆうすけー、クーピーちゃんの家すごく可愛いよー」
「お褒めにあずかり光栄です」
「おかえり、母さんも座って休みなよ。疲れてたんでしょ」
「そうだねえ、よいしょっと」
「お茶を淹れてきますね」
「ありがとね、クーピーちゃん」
かしわもちは満足して帰ってきたようだ。
ゆうすけの隣に座るかと思いきや、俺の隣に座る。
ゆうすけの隣をクーピーちゃんのために空けているわけか。
でもどうせならさ……。
「ユースも手伝ってこいよ」
「え? うん、じゃあいってくるよ」
「しっかりね、ゆうすけ」
よし、これでいい。
俺はどうしようかな……。
「母さん、肩もんであげるよ」
「おやおや、急にどうしたんだい?」
「がんばってるご褒美だよ」
「そうかい、ありがとうねタカシ」
ゆうすけの優しさが俺にもうつったのかもしれないな。
ごくごく自然にこうしていた。
なんだか母さんが昔より小さくなった気がする。
いや、実際に小さいキャラだったか……。
「気持ちいいねえ……。それにしてもタカシ、あんた知らない間に大きくなったんだね」
「母さんが小さくなったんだよ」
「そういえばここはゲームの中だったねえ。あまりにもすごすぎて、時々忘れちゃうよ」
「そうだね、この部屋も可愛いし生活感感じられるもんね。俺、家具の種類がこんなにあるなんて知らなかったよ。クーピーちゃんよく集めたね」
「それがね、聞いてよタカシ。ゆうすけがちょくちょくプレゼントしてくれるらしいよ。たまたま手に入って不要だからってそっけない態度らしいんだけど、きっとゆうすけもクーピーちゃんのこと好きだよね」
「ほー、そうなんだ」
やるなゆうすけ。
そういった小さいことの積み重ねで、クーピーちゃんはゆうすけに惚れこんでいったのだろうか。
「ねえタカシ、このゲームの中で知り合って現実で付き合うようになった人っていないのかい?」
「いるにはいるけど、滅多にないよ。そもそもどこに住んでるかわからないわけだしさ。遠距離恋愛になったらつらいじゃん」
「そうだねえ、クーピーちゃんが実はご近所さんってことはないのかねえ」
「そんなの漫画や小説じゃないんだからさ」
「そっか……」
俺もそうなったら面白いとは思ってるよ。
でもこればっかりはなかなかね。
会って顔が好みじゃないからと態度をひっくりかえす酷い奴もいるらしいし。
あの2人はそんなことないとは思いたいけど……。
「とりあえず余計なことはしないようにね。下手なことをしたらゆうすけかクーピーちゃんが傷つくこともあるんだからさ」
「わかったよ。若い2人に任せようか」
「えっと……まあそれでいいよ」
わかってない気もするけど、まあ大丈夫だろう。
だって母さんだし。
この後俺たちはクーピーちゃんの家で楽しく過ごした。
俺が船で釣ったいわしは唐揚げになりましたとさ。




