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10.カーチャン誘拐事件

 船を降り、港街その2へ到着だ。

 あと1時間ちょい歩けばタルタロスの街へ着く。

 普通であればここでクエストをちょこっとこなすのだが、母さんは早く街へ行きたいようだ。

 クーピーちゃんの家が楽しみなんだろうな。

 港街を出ると、白くまぶしい砂浜が広がっていた。


「わわっ、綺麗なところだねえ。海水浴来た時の気分だよ」

「母さん、このあたりも敵が強いからあまり前に出ないでね」

「わかってるよー」


 そう言いながら、道もわからないのに走っていくかしわもち。

 ま、モンスターにやられたとしてもクーピーちゃんが回復してくれるだろう。

 かしわもちの低いレベルであれば、倒された時のペナルティも大したことはない。

 いろいろ経験を積んで成長するのも大事だ。

 別に放っておいた方が面白いことが起こりそうだなんて考えてないんだからね!


「ゆうすけ! なんかでかい動物がいるよ。首長いねー」

「キリンだね。お肉は料理に使えるよ。少し倒していく?」

「えー、あんな大きいのも倒せちゃうんだ。でもどうせなら背中に乗りたいなあ……」

「モンスターだから無理だよ……」


 という会話をしていると、キリンを連れて歩いているプレイヤーを発見。

 あれは獣使いかな。

 モンスターを操って戦わせるソロプレイ向きの職業だ。

 それをゆうすけが説明すると、かしわもちがその人に話しかけた。


「すみません。その子の背中に乗せてもらえませんか?」

「え? 乗るんですか……。えっと、できるのかな? お座り……」


 獣使いさんがキリンに命令すると、キリンが伏せるような体勢となった。

 喜び勇んでキリンの背中に飛び乗るかしわもち。

 あんなことできたんだな……ちょっとうらやましい。


「ゆうすけー、背が高くなったよー」

「落ちないように気をつけて……」

「わたしも乗りたいかもです」

「クーピーちゃんもおいでよー」


 とその時……俺の横をダッシュで走り抜けていく盗賊の姿。

 そしてそれを追いかけるキリンの群れが見えた。

 キリンは仲間意識が強いため、戦闘状態の仲間を見たら参戦してくる。

 おそらくあの盗賊は、ああして敵をまとめて狩って素材を集めているんだろう。


「あ……あやつる効果が切れた……」

「え?」


 獣使いがキリンを操っていた効果が切れたらしい。

 つまり、かしわもちが乗っているキリンは普通のモンスターに戻ったということだ。

 そして……キリンの群れと一緒に走りだす。


「ひゃあああー! 早いよー」

「母さん、跳び下りて!」

「無理だよー!」


 おおう、かしわもちがキリンに乗ったまま遠くへ走っていく。

 さらばかしわもち……。

 とりあえず記念写真だ。


「ゆうすけー! 晩御飯までには帰るからねー」

「母さーん!」

「今夜はてんぷらだよー!」


 とりあえず俺たちは追いかけるが、キリンは足が速くてどんどん引き離される。

 でかいだけあるな

 盗賊はダッシュスキルがあるので余裕で逃げ切れているはずだ。

 幸いなのは、かしわもちが連れていかれた方面は目的地側ってことだな。


「兄ちゃん、クーピーちゃん、集まって」


 ゆうすけがなにかを掲げると、キラキラした光が俺たちを包む。

 これはダッシュパウダーと言って、移動速度を上げることができる。

 結構な高級品だ。

 母さんのために惜しげもなく使うゆうすけ……いい子だなあ。


「ユース君、用意がいいね」

「うん、いざという時のためにね」

「よし、急ごう!」


 なお、俺も一応持っているが使ったことはない。

 けちなのではない、貧乏性なだけだもん。


 やがてキリンの群れが見えてきた。

 10匹くらいいるのだろうか。

 一斉に誰かを攻撃しているような動きだ。

 おそらく先ほどの盗賊だろう。

 かしわもちはキリンの首にしがみついて落ちないようにしている。


「ひゃっほー!」

「母さん楽しそうだね……」

「大丈夫そうだしこのまま見ていよう」

「いいんでしょうか……?」


 とりあえず俺は記念写真を撮る。

 盗賊はというと、敵の攻撃を華麗に避けながら1匹ずつ倒しているようだ。

 範囲攻撃を使わないんだろうか?

 まさかかしわもちに遠慮してるのかな?

 このゲームってプレイヤーキャラには攻撃当てられない仕組みなんだが。


「がんばれー、かしわもジラフ」

「あ、名前つけてる……」

「お母様ー、かしわもジラフさーん、がんばってー」


 いやいや……すぐ倒されるだろうに名前つけちゃだめだろう。

 そして盗賊は他のキリンをさくさくと倒していき、残るはかしわもジラフだけとなった。

 そしてかしわもジラフの攻撃を避け続けている。

 なにがしたいんだろう?

 話しかけてみるか。


「あの、倒さないんですか?」

「いやあの……倒したいんだけどあんな楽しそうにしてるので申し訳なくて……。そもそもなんでモンスターに乗れてるの?」

「一種のバグですかねえ……。まあ気にせずやっちゃってくださいな」

「いや、俺はホビホビ族が好きなんだ。あんな可憐な少女が楽しんでいるのを邪魔はできん!」


 ああ、ちょっとあれな人だったか。

 彼には見えないんだな、かしわもちの顔に浮き出たほうれい線が……。

 うーん、かしわもちをとりあえず降ろしたいな。


「あの子降りられなくなってるんで、なんとか助けたいんですけど」

「なるほど……俺に任せとけ」


 なんか自信満々なので任せてみる。

 盗賊はキリンの攻撃を避けつつ隙をうかがっているようだ。

 そして動いた。


「そいやー! 猫だまし!」

「ひっ!」


 あれはふざけてるわけではなく盗賊の技で、敵を一瞬ひるませることができる。

 キリンの動きが止まり、ついでにかしわもちもびくっとなって固まっている。

 その背中に颯爽と跳びつき、かしわもちを抱きかかえて降ろす盗賊。

 なかなかかっこいいではないか。

 そのままかしわもジラフも倒しちゃった……。


「お嬢さん、お怪我はないですか?」

「え? ああうん……これはどうも……」


 かしわもちは若干怯えている。

 あの盗賊はかしわもちを口説く気だろうか?


「あなたは盗賊の私から大変なものを奪っていきました」

「は? 盗賊?」

「それは、私の心です」

「よくわかんないけど、盗賊なんてダメだよ。改心してまっとうな仕事しなきゃ」

「え? あ、はい……」


 盗賊は戸惑いつつかしわもちを地面に下ろした。

 そしてゆうすけの元へ走っていくかしわもち。

 かしわもジラフが死んだことは特に気にしていないようだ。


「ゆうすけー、キリンの背中楽しかったよー」

「よかったね……」

「ゆうすけも今度一緒に乗ろうね、クーピーちゃんも」

「はい、ぜひ乗りたいです」


 盗賊の男はうらやましそうにゆうすけを見ている。

 ゆうすけはこいつが大好きなホビホビ族2人に囲まれてるんだもんなあ。

 ちょっとかわいそう。


「見せつけやがってえ……。うわーん!」


 盗賊は泣きながら走り去り、しばらく行くとこっちを振り返った


「盗賊はやめて聖騎士になって出直します! また会いに行きますねー!」


 なんかかしわもちにファンができた。

 当の本人は盗賊のことなどすっかり忘れて、ゆうすけとクーピーちゃんと楽しそうにしている。


「獣使いも楽しそうだねえ」

「あの職業やるにはクエストが必要だから、また今度取りに行こうね」

「うん! 連れてってね」


 かしわもちはゲームを楽しんできてるようだなあ。

 ゆうすけも案内する気満々で楽しそうだし。

 いいことだ。


「じゃあまたタルタロスの街目指していこうぜー」

「おー!」


 かしわもち誘拐事件のおかげで結構進んでいたようだ。

 キリンに乗っていたおかげか、モンスターにからまれることもなく移動できていたようだ。

 これまでと同じように、ゆうすけの大活躍を見ながら進んでいく。

 

 そしてついにタルタロスの街へ到着した。

 ここではいったいどんな楽しい事件が起きるんだろうなあ。

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