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4/10

4話

――…と、まあこのような感じで私は断罪されてしまったわけだけど。実は、ゲームの内容とは少し違ったりする。


それを話す前にゲームについて、結構うろ覚えであるため少し整理しようと思う。


私が前世でハマっていたゲーム『恋の魔法と精霊の花』、通称『コイバナ』は私の友人たちの間でとても人気な乙女ゲームだった。出てくる攻略キャラクターはイケメンだし、声優も好みだった。


舞台はブレイアム学園の中等部が中心。


攻略メンバーは7人。正規攻略キャラクターが中等部編で3人、高等部編で3人の合計6人に、裏攻略キャラクターが1人。裏は正規攻略キャラクターの複数あるハッピーエンドを全て終えると解放される。ハーレムエンドはない。


私の友人は裏攻略キャラクターを解放したはいいものの、難しすぎてやめたいとかなんとか言っていた気がする。ただ全て攻略した次の日はうっとりと何もない宙に視線を漂わせていたので、攻略する価値はあると思う。


お察しいただけたかもしれないが、私は全攻略キャラクターを攻略していない。よって裏攻略キャラクターが誰かはわからない。それでも正規攻略キャラクターと主人公は一応全員覚えていた。


そうそう、ややこしい話ので、ここでは私だけどゲームの私とは違う点が多いためただの『カレン』と呼ばせてもらおう。


まず1人目。メインキャラクターの花形。中等部編キャラクターのライオネル・チャド・フォン・シュバルツ。シュバルツ帝国の第二皇子で中等部3年生。俺様系。次期皇帝のプレッシャーに押し潰されそうになっていたところ主人公の持ち前の明るさに助けられる。ライバルは親によって決められた婚約者、カレンだ。


同じく妹のカレンがライバルの宰相の息子、アドニス・フォン・メイヤール。高等部編のキャラクター。第二皇子の相談役で1つ年上の高等部1年生。腹黒。両親の不仲と高慢で我が儘な妹のカレンによりれるが、主人公の明るさに徐々に本来の性格を取り戻す。


同じくカレンがライバルの騎士団長息子、シリル・フォン・ネイサン。中等部編キャラクター。中等部3年生。利発的なキャラ。剣技は学園一で高等部の学生にも引けを取らない。未来の騎士団長。カレンとの関係性は幼馴染で、年々酷くなっているカレンの我儘に困っている。


同じくカレンがライバルのクレイグ・フォン・キャンベラ。中等部編キャラクター。財務大臣の息子で中等部2年生。弟キャラ。優秀な両親と2人の兄がおり、いつもオドオドしているが、主人公に励まされる。カレンにオドオドしてる故に見下されることがよくあるが、エンディングで男らしさを見せる。


ダービー公爵家長男で筆頭魔術師の息子、ドミニク・フォン・ダービー。高等部編キャラクター。高等部2年生。天才魔法使いで遊び人。父親の側室に正妻である母を精神的に攻撃されて病み、亡くしている。その影響で女性を嫌っていたが、徐々に主人公に心を開いていく。


ブレイアム学園高等部魔法学の教師、ミック・フォン・ハフィトン。高等部編キャラクター。27歳。ヤンデレ。ハフィトン侯爵家の長男だが、実家を継ぐのが嫌で教員免許を取った。両親から愛してもらえず、人一倍愛に飢えていたところ主人公に出会う。教師と生徒という関係故、主人公になかなか思いを伝えきれずにいる。


主人公、アリシア・ミル・モークリー。中等部3年生。天真爛漫で思いやり溢れている。子爵家出身だが、権力に屈せず、唯一の愛のために頑張る可愛らしい少女だ。『コイバナ』の世界では高く評価されている‘精霊の印’という能力の所持者で召喚士サモナー。手の甲に花の形をした刺青のようなものがある。


最後に悪役令嬢代表、カレン・ミル・メイヤール。中等部3年生。我儘で高慢。第二皇子の婚約者で宰相の娘。気に入らない令嬢はとことんいじめ抜く悪役令嬢のかがみ。学年が違おうがなんだろうが構わない。大好きな第二皇子とお兄様のためなら中等部の学生であるにも関わらず高等部の教室に突っ込んで来たり、上級生に命令して主人公をいじめさせる、バーサーカーのようなブラコン。


これが私が覚えているキャラクターの情報である。注意書きとしては中等部編のエンディングを終え、春を迎えるので全員1つずつ歳が上がり、主人公は高等部編の攻略へと進められる可能性があるということである。


私が攻略したのは第二皇子、宰相の息子の2人であり、他のキャラクターのライバルは知らない。…役に立たないな、前世の私。しかし断罪イベントは明らかに第二皇子のものであったし、無理に思い出す必要もないだろう。それに国外に出てしまう私には関係ないことである。


とりあえず整理した情報と違う点を考えてみる。


まず物申したいのが宰相の息子アドニスの両親、つまり私の両親でもあるわけであるが、決して不仲ではない。だいたい、不仲なのであれば子供を4人も産むものか。お父様のお顔は渋くてかっこいいが、いつも仏頂面で怖い。それにお母様はとても物静かな方。一緒にいても一言も喋らないあの2人は他人から見てみれば確かに不仲のように見えるのかもしれない。でも休日の2人は従者はおろか、子供すら近づけないほど甘々なものだ。お母様からはハートが飛び散り、膝枕をしてもらっているお父様のお尻からブンブンと尻尾が振られているように見えたときは、私も疲れているのだなと思いベットに倒れてしまったほどである。


婚約者については親に決められたというが、向こうから求婚してきたのだ。私の両親は好きにしろといったから好きにした。私に責任を押し付けるのは構わないが、両親を巻き込まないでほしい。


それから私はブラコンだけではない。シスコンでもある。エミリーのためならばなんでもできる気がする。兄上と弟のリオには大変申し訳ないが、私は何が何でも妹を優先する。妹が望むなら、彼女が嫌いだというあのいけ好かない、どうやら幼馴染であるらしいシリルを、彼が得意であろう剣技で倒して見せよう。彼女が望むなら空だって飛べるし、ドラゴンだって倒せる。


他の点としてあげられるのは私とクレイグは頻繁に会う間柄ではないことである。そりゃあ同じ委員会に所属していたことがあるので用事があれば話しかけるが、わざわざ一緒に雑談するほどではない。彼が誰と恋をしようがどうでもいいのに何故ライバルがカレンになるのだ。解せぬ。というか彼には2つ下の可愛い可愛い許嫁がいたはずだ。それなのに何故ライバルがカレンなのだ。本当に全く解せぬ。運営はなにやらカレンに恨みがあるようだ。


ただ、とそこでふと思い出す。


彼が移動教室の際に大柄な生徒にぶつかってしまったらしく教材を落としてしまっていたので、たまたま通りかかった私が拾うのを手伝ったことがある。私が拾い終わって彼に渡すそのときに彼女、主人公は現れた。


『やめなさい!』


そう叫ばれた私とクレイグ、そして大柄な生徒はキョトンと彼女を見る。ズンズンと近づいてきた彼女は私が持っていた教材を奪い取り、クレイグに渡す。あまりにも呆然としすぎて失礼なやつだとかなんとかは思わなかった。


『大丈夫だった?』

『え?…はあ、まあ』


普段のあのオドオドとした様子はどこに行ったのか、気の抜けたような返事をするクレイグに彼女はホッとしたように笑う。


『それならいいの。…それであなたは彼に何をしたの!?』

『何って、私はクレイグ様が落とした教材を拾っただけですが…』

『じゃああなたは!?』

『お、俺は余所見しちまっててコイツにぶつかったから謝ろうと思って…』

『嘘ね』


断言するかのように話す彼女に3人は何が何だかわからずに呆然と顔を見合わせた。


『あの…お2人のおっしゃっている通りです。だから心配してくださってありがたいのですが、僕たち急がなければならないので…』

『…そう。気をつけなさいね。あなたたち2人はクレイグ君に何かしたら許さないんだから!』

『はあ…』


そして嵐のように去っていった彼女を3人で呆然と見送ったのだが、今彼女の目には私とぶつかった男子がクレイグを虐めていたように見えたのかもしれないと3人の中で解決した。なんせその男子は同い年の中では結構身体が大きいほうで、私もお父様譲りのこの顔のせいで同級生の女の子に遠巻きにされているからだ。


…そのあと自分で言って少し自己嫌悪に陥ってしまったのは余談である。


でも、と少し俯いてた顔を上げる。気づけば馬車は王都を出る直前であった。私はしばらく外を眺めたのちに、1つため息をついて‟でも”に続く言葉を探す。


――でも、クレイグは当時彼女とは知り合いではなかった。というのに、彼女はクレイグの名前を知っていた。


突然、とある可能性が思い浮かび、寒気がする。


――彼女は転生者…?


低くはない。というか確実な気がしてきた。


私はクラスが違ううえに、皇妃教育があって忙しかったために第二皇子の元へ行くことは滅多になかった。だが、学園で時々お会いする彼の隣にはいつも主人公がいて、時々妙な発言をしていた。…もしかしたら彼女はイベントを発生させようとしていたのではないか?それなら数々の場違い発言に納得できる。


ものすごく、気分が悪い。


頭が痛くなる。そんな自己中心的な女に私の人生けいかくをめちゃくちゃにされかけただなんて。怒りが湧いてくる。その矛先は彼女に対してもそうだが、1番は気づかなかった自分に対してである。


お嬢様という声に俯いていた顔を上げる。レイラは普段は感情のこもってない緑色の瞳に心配の色を灯してこちらを見つめていた。


「なあに?」

「お嬢様、大丈夫ですか?」

「大丈夫、か…」


移り変わる景色を見つめながらぼそりと呟く。景色はすでに王都を出ており、のどかな田園が広がる。


「どう、思う?」


私の優秀な侍女は黙ったまま私の声に耳を傾けた。


「…私は、まだ大丈夫」


大丈夫だと言い聞かせる。まだやっていける、と。まだまだこれからである、と。


「もう誰にも、邪魔なんかさせない」


――私の復讐劇は、これで終わりなんかじゃない。いつか成功してみせる。


「お嬢様の御心のままに」


レイラのその言葉に私は薄っすらと寒々しい笑みを浮かべるのであった。

読んでくださりありがとうございます。


訂正

2017/11/06 学園の名前を訂正しました。

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